その3 忙しさ
私は要領が悪い人間であるために、時間をかける割に失敗をするということを何度も経験している。これは性格の一部のようなものであり、枝葉を変えることはできても根本である幹の部分は変えることはできないと考えているので、そういう人間がいるんだと思ってもらうしかない。
要領の良さとはどこから手に入るのか、むしろ教えてほしいと思うくらいだ。要領の良さ=人に付け入る上手さとは思いたくはないが、人間それなりに年齢を重ねると、それで上へとのし上がっていく人物を少なからず見かけてしまう。ある意味、その手の人間は生き方がうまく、人を見る目があると言っていい。そして誰よりも自分本位で他人に薄情だ。用済みになれば手の平返しで蹴落とすことなど、平然とやってのけるところを何度も見てきた。手のひらがドリルのごとく高速回転するところはともかくとして、自分本位になるところは、私も自己肯定感を身に付けるために、少しは見習う必要があるのかもしれない。
ただ、一概とは言えないが、そんな感じで成り上がった人の指示の下で行動をするとなると、なかなか骨が折れる。
忙しい。
とにかく忙しい。
そこまで重要な事でもないことに無駄にリソースを割かれ、時間がかかる上に心労が溜まりまくる。その上、成り上がった本人は仕事を部下に配分させていくのだが、配分の仕方が下手か、本人自身が仕事内容をわかっておらず、仕事を取るだけ取って部下に放り投げてほったらかしにするかのどちらかだったりする。わからないと部下が訊くとひどい場合だと逆に怒ったりもする。私も何度かそんな場に出くわしたし、自分自身でも経験した。
そこで当時の私は冷静に考えた。
そもそもどうしてここまで忙しいのだろうか。
上司が役に立たないという事もあるだろうが、他にも理由があるように思えてしかたない。
社会人になってそれなりになり、私は過去を振り返ると、共通している欠点がわかった。
どうも日本人というのは得てして、仕事中に暇になると無理やりにでも仕事を見つけ出そうとするもののようだ。仕事がないならないで早退させてくれるか休ませてくれるかしてくれたらいいものの、定時までは居なければならず、職場にいる間は仕事している姿を見せていなければならないという同調圧力がとにかく強い。
問題なのは仕事をしている姿を見せるために、普段はリスク・リターンを考えると相手にしないような仕事を、暇な輩がゴミ箱をひっくり返すかのごとく引っ張り出してくるところだ。そういう仕事は利益率が見合わないから捨てているか、そもそも自分のところでは請負えることができるような仕事内容ではないからほったらかしているのに、わざわざ引っ張り出してくるのである。
そもそも職場で暇を持て余す時間は、これまで請け負っていた仕事から何らかの問題が起きたときにすぐに対処できるようにするための余分な時間なわけであり、無駄な仕事をするための時間ではない。働き蟻が暇なときにサボっているという研究結果が出ているが、要は力を溜めている状態である。
そんなところに、普段しないような仕事を突っ込まれたり、利益率が見合わない仕事を突っ込まれるとどうなるか。ただでさえ並行でしている仕事に割の合わない仕事も追加されて、職場は大混乱である。
しかし、肝心の仕事を突っ込んだ当人はというと、自分の仕事はできたとばかりに満足げな顔をしていたりする。その結果、どの仕事も中途半端になり、完璧な仕事にするために無駄な残業が積み重なっていき、忙しくなるのだ。
仕事には波がある。閑古鳥の鳴くような時期もあれば繁忙期もある。自分が暇だから、仕事をしているふりをしなければならないと思い、余計な慣れない仕事を突っ込まれるのは迷惑なことこの上ない。餅は餅屋。専門のところに任せればいいのだが、忙しく見せるためにわざわざ災厄を落としにかかる。
私は、適度な忙しさは必要だと思っている。人間、暇になりすぎると人の悪口を言うために、悪口に花を咲かせないためにも程ほどの忙しさは必要だ。
しかし、無用な忙しさは不要だ。暇なら暇でそれでいいと思っている。理由は前述した通りの経験からだ。利益率がそれほどでないと言ったが私の場合、余計な仕事を追加した結果マイナスに転じたくらいの事例も知っているから、なおのことそう思うのだ。
暇だからという事で、異業種に手を出すことはおススメできない。確かに忙しさは出るだろうが、それが長い目で見たときにプラスに転じるかと問われれば、だいたい間違っていることが多い。
忙しい。
その一言で片づけるのはいいが、その忙しさは本当に必要なものなのかそれとも不要なものなのか、一度冷静になって考えてみたほうがいいかもしれない。
暇なら暇でいい。
それは必要な暇だ。人生に無駄な時間は一秒もない。
呆然と頭を空っぽにする時間も、情報過多な現代社会にはリセットするためにも必要だろう。
一日寝てばかりで一日損した、という人がいるが、それだけ心身が休息を欲していた結果だと思えば必要な時間なのだ。
傷は浅いほうがいい。治り切らない傷をほったらかして、無理をした挙句に一生ものの傷にするくらいなら、必要な休息だと思ってボケっとする時はボケっとしていたほうがいい。
前にも似たようなことを言ったが、要はそういう事だ。
これは私の本心なのだ。
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