第7話
警備員も最後の手段に乗り切ったのであろう。上の階から、ドアを叩く音が聞こえてきた。
あぁ、全く馬鹿。そんなことをしたら逆に飛び降りてしまうかもしれないのに。
しかし思ったより騒ぎがないので、ミコは飛び降りなかったのだろう。ここまで引っ張っているのを見ると、もはや可哀想という情すらコトリの心の中に湧いてこなかっし、助けるのも、いつの間にか義務と化していた。
今の私に魔法が使えていたのなら、漫画の中に出てくる魔女のように華麗に美しく彼女を助けるのになぁ。
コトリは結局何の意味もなさなかった魔法のクッキーを妬んでいた。あれでちょっと良かったことといえば、紙飛行機が上手く、長い時間飛ばせたくらいで───
───紙飛行機?
「助ける方法、思いついたかもしれません」
思わず思いついた、たった一つ思いついた方法を思いつた嬉しさで、うっかり口にしてしまい、コトリはすぐに後悔した。
確かに今の状況で私達にできることはこれしか無いが、それにしてもこれはあまりにも幼稚な気がするのだ。馬鹿にされている、と言われてもおかしくない。
でも、もう発言は取り消せなかった。カエデの期待の眼差しが、早く話せと言わんばかりにコトリのことを見ていた。
「馬鹿みたいな考えかもしれないですけど、良いですか?」
無意味な確認だとは思っていても、保険のためにそう聞かざるを得なかった。カエデは了承してはくれたのだが、やっぱりコトリはその了承を信じられなかった。
最悪の事態に備え、カエデにばれないようにさっきまで中身を探っていたカバンを、足で踊り場の端の方に寄せた。そうでもしないと、愛の殺人劇が起きかねない。
コトリは意を決して、自分の思いついた作戦について話した。
最初は読み聞かせを聞くような姿勢で聞いていたカエデだが、後半になるにつれて疑問の目に変わり、話し終わった後にはその目が怒りに変わっていた。
「ミコちゃんのこと馬鹿にしているの!?」
あぁ、やっぱり無意味な確認だったな。天井の蛍光灯と目が合わせた。
「そんなの、本当に一か八かじゃない。あまりにも賭けすぎるよ! 精神が駄目な人を精神的に助けるって、簡単なことじゃないの! もっと現実的に考えてよ!」
泣いて喚く女にコトリはうんざりした。見た目通りの女の子のイメージが見て取れた。自分もミコもカエデも、どうしていちいちこの時期の女って感情の起伏激しんだろうなあ、と悪意に固められた偏見をコトリは反芻させながら、どうやってカエデをたしなめるかどうか考えた。
ここで警備員に来られて、二人纏めてお縄に着くのはゴメンだ。
「でも、私達にできるのって時間稼ぎしかないと思うんですけど」
率直に思ったことを口に出した。これが最善策だ。コトリ自身もそうなのだが、現実を突きつけられると自分の心の不安定さが、時たまに馬鹿馬鹿しくなる時がある。それはカエデにも有効だったようで、カエデは泣くのを止めてコトリの話を聞いていた。
「下に一応クッション敷いてありますし、仮にミコさんが間違い起こしても大丈夫だと思います。それに」
コトリはカエデの目をまっすぐと見た。
涙にまみれた赤のカラーコンタクトが、コトリのことをちゃんと映していた。
「助けるのは私じゃない。ファンである貴方じゃないと」
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