第4話

 しかし魔法は出ないまま、三日が経った。

 コトリは色んなことを試してみた。店主の男がやったように花を掌から出そうと試みたり、ろうそくに火をつけようとしたり、風車を回そうとしたり、あるときにはいつもは食べられないような大盛りのラーメンも食べてみたりしたが、これと言って魔法らしきものは発動しなかった。

 唯一魔法っぽいといえば、ゼロ点の小テストで作った紙飛行機がちょっと上手く飛ばせたことだった。しかし、本当にそれだけだった。

 身体に変化も見られなかったので、コトリは心底つまらなかった。

 せっかく自分だけの武器を手に入れ、特別になれる良い機会だと思っていたのに。   

 やはりあの魔法屋はインチキ以上の何者でもなかったのだ。

 仮に店主の「魔法なんて大したこと無い」という言葉が真実であれ、手品のようなレベルであれ、三日もたったのだ。何かあっても良いはずなのに、とコトリは思った。

 そのモヤモヤと行き場のない苛立ちは、ストローを通して激しい泡となっていった。この泡は、人魚姫何人分なのだろう?

 駅の近くのスーパーで母親からのお使いを済ませてしまうと、駅の電車の時間まで近くのカフェでコーラを喉を潤していた。

 コトリの住んでいる街が隣にあるだなんて、嘘のような感じがするほどこの駅は賑わっていた。コトリがどことなく自分の駅に愛着が感じるのは生まれ育った町だからではなくて、こういった側面があるからだ。

 周りは賑わっているのに、自分だけ少し寂れている。そのくせ、田舎らしい良いところは何もない。

 コーラを飲み終えてしまうと、すぐに店を出た。

 駅のことと自分のことを重ねた途端に、憂鬱の呼び声がコトリのの中でこだましたからだ。こうなってしまうと、コトリは陰湿な発言が止まらなくなる。自分も攻撃して、周りも傷つける生産性のない諸刃の剣になってしまうのだ。これを収めるためにはもう家に帰って寝てしまう以上の処置はない。

 コトリは急いで次の電車に乗ろうとした。

 しかしその道中がとても賑わっていることに気づいて、コトリは思わず足をそちらの方に向けた。有名人が何かイベントだとか、テレビの取材だとかをやっているのか。

 そう思ったコトリは憂鬱な明日の学校の会話のネタにすべく押し切って前の方に出た。大学生から大人まで大勢いて、その中でも比較的身体の小さいコトリは、苦難なく最前列まで出ることができた。

 やっとのことで人の波を潜り抜けたコトリの目に飛び込んできたのは、今にも自殺しようとしている若い女の姿だった。

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