第2話
翌日コトリは、お年玉と今月のお小遣いを持って魔法屋へと向かった。
予算は八千円。こんなことになるなら、本なんて買わなければ良かったなぁと思いつつ財布の中の三枚の札を見つめていた。
もし魔法が三十万もしたらどうしようか。
交差点にある信号を右に曲がって少し先に行った先に、魔法屋らしき建物が見えてきた。しかしそれは店と呼ぶにはあまりにも汚く、芝生は生えっぱなしだし、家に蔦 も巻き付いているし、『魔法どう?』の字すら原型を留めないほど汚れている看板。
店と言われても分からない。それどころか「明日からココ取り壊します」と今にも言われてしまいそうな場所だった。
これが本当に魔法屋なのだろうか? と不安になっているコトリを他所に、その建物の扉が開いた。中から出てきたのはコトリと変わらないくらいの男の子だった。しかし同年代と呼ぶにはあまりに綺麗すぎる、イラストの中から出てきたような男の子だった。その男の子がこんなみずぼらしい場所にいるのが、少し信じられなかった。
「入らないんですか?」
コトリは急に話しかけられたことと男の子のあまりにも透き通った声に戸惑ってしまい、自分の中で聞きたかったことがなかなか言葉にならずに、無意味に手に持っていたかばんの持ち手を触ったり、空や建物を見ていたりした。
やがて自分の中で言葉がまとまると、コトリは男の子に尋ねた。
「すみません。ここって魔法屋さんで合っていますか?」
「はい、ここが『魔法どう?』ですよ」
良かった。魔法屋は本当にあったのだ。
半信半疑が確信に変わった瞬間、まだ冷めきっていない児童向け文庫の世界憧れが、熱となって今コトリの心の中に戻ってきた。
魔法石でできたペンダントに、フェニックスの羽の首飾り。マンドラゴラが育つ植木鉢と、ブリザードドラゴンの卵。手の甲に魔法使いの印が入れることだってできる。
そんな妄想をしているコトリの横を、男の子は通っていった。大きなかばんを持って、何か出かける様子だった。
「あれ? もしかして今日はもうやってないんですか?」
「あぁ、まだやってます! 僕は店主じゃなくって。中で店主が対応してくれますよ」
本当の魔法使いがいる魔法屋、魔法が買えるという響き。
なんとロマンチックなのだろうか。そんな思いが打ち砕かれるのも知らずに、コトリは『魔法どう?』の中へ足を踏み入れた。
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