魔法一粒
橙野 唄兎
第1話
コトリはもう我慢の限界だった。こんなことが続くのなら、今にも目の前の踏切に身を投げてしまいたい。コトリの思考はネガティブなものに支配されていた。
会話で失言をする、忘れ物が多い、課題を先延ばしにした挙げ句に出来上がりは最悪。無気力ばかりが自分の中で回っていて、努力はしていないのに心だけが唯一苦しい。そんな状況が続いていた。
そんな時、帰り道の途中にある掲示板に真新しい紙が貼ってあった。他の紙もお構いなしに真ん中に大きく貼ってあったので、嫌にも目に入ってきた。その紙には、
『新品、中古、プレミア価格のものまでどんな魔法でも売ってるのは『魔法どう?』だけ! この先赤と青と黄色のLEDがピカピカするところを曲がった先にあります』
と書いてあった。思わずコトリは「ダサっ」と声に出してつぶやいた。
あまりにも大小の差が違いすぎる文字、お世辞にも洒落ているとは言い難いフォントと色使い。そして何よりどこかで見たことがあるようなネーミングセンス。信号機の名前も出て来てない上に、語彙力もない。
SNSに出したら一時は大騒ぎになりそうな物だった。場所が違えばもうちょっと話題を集めただろうに。
コトリは考えた。もし本当に魔法が使えたら、お金で魔法が買えたらどうなるのだろうか?
何もかも平均以下の自分だけど、もしかしたら魔法を持ったらクラスの人気者に、いや。そこまでなれなくても、自分には魔法がある、他の人よりかけ離れた特別な存在になれるのではないか!
コトリは「魔法が非現実である」という考え方にまでは及ばなかった。
現実的だろうが、非現実的だろうが自分に何かを作らないと、劣等感と罪悪感に襲われて死んでしまいそうになっているのだ。
自殺する勇気もないコトリは、自分の心を一瞬和らげてくれる娯楽よりも、殺され続ける状況から打破してくれる、決定的な何かを求めていた。
明日は土曜日だから、この魔法屋さんに行ってみよう。魔法を持った後の自分のことを考えながら、コトリは帰り道を歩いていった。
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