第3話亀裂

同じ奴隷たちと仲良くなった俺たち(いや、マーカス)。

「これはもしかしたら、俺たちの脱走計画に協力してくれるんじゃないか?」

「まだ、判断はできないけど、、もしかしたらだな。」


「訓練を開始する!!今回は組手をお前ら同士でやれ!!!」

「はい!!」

「負けたものはむち打ちだ!!!」

「はい!!!」

近くにいる体格が同じくらいに小さい奴とペアを組む。

「お前は、俺とだ。」

「はい!」

マーカスは、強制的に憲兵と組まされていた。俺は、マーカスと組むべきだったか。組んだとしても強制的に組まされていたか。とりあえず、マーカスがいい展開になることはなさそうだ。まずい。どうにかしたいけど、ここじゃ、、

「お、おい。」

前の子から、声がかかる。

「お互い、手加減しような。」

「わかってる。」

小さな声で耳打ちをする。

「はじめ!!」

ゆっくりと目の前の相手に向かっていく。構えは、みんな憲兵の構えをまねして同じような感じだ。それの弱点は、憲兵をさんざん見てきたから把握している。足を引っかけるふりをすると、足を引っ込めた手を下げたりするのだがいずれも頭ががら空きになる。ほい!頭に軽くパンチを当てると、すぐに倒れた。

「立て!!!背中を見せろ!!!!!」

目の前で、自分の倒した子が自分のせいで痛めつけられているのを見るのは胸が締め付けられる。しかし、ここで負けたら自分がこの目に合う。どちらも地獄。

マ、マーカスは?その光景から目をそらすために、マーカスを探す。

不動。その一言で表せる光景だった。彼は一切攻撃をしていない。ただ、上官に殴られ続けている。むち打ちの時も、まったく痛がるそぶりも見せない。彼の心境は、もう修羅となっているのではないのかということさえ思わせた。何とか耐えてもらうしかない。

「つ、次やるぞ。」

「ああ。今度は俺が投げられるよ。」

そして、相手に投げられる。さては、むち打ちの痛みから結構本気だな。まあまあ、痛かったぞ。

「」

いや、この声は聞こえなかった。心拍はいままでないほど脈だっている。そして、背中を言い表すことができないほどの痛みが襲う。地獄のように、焼けている。この世から、痛覚以外が消えていた。


「痛たたたた。まだ炎症になってるよ。」

「大丈夫か?」

「お前の方が心配だよ。あれだけ殴られて、本当に。」

「俺の体は丈夫だからな。」

そう笑ってはいるが、体はもう悲鳴を上げているはずだ。メンタルも相当やられているのではないだろうか。もう、脱走計画を実行してもいいのかもしれない。

「だが、、、」

今の俺たちの雰囲気は最悪である。あの組手訓練は、昨日までの俺たちの友好的な雰囲気をぶち壊していた。

「お前、よくも本気で投げやがったな!」

「むち打ちがあるんだ!!しょうがないだろ!!!」

あーあ。せっかくマーカスがいい雰囲気にしたっていうのに。

「これじゃ、脱走計画にはあまり、協力してもらえそうにないな。」

「そうだね」


それからも、訓練での執拗なマーカスへの嫌がらせは続いた。マーカスが殴っていないのに倒れて、マーカスをリンチする。また、マーカスにだけ居残りをさせる。等等。


しかし、明らかに「これ」はラインを越えていた。マーカスが病んでしまうほどに。

「お前、強いな。」

相変わらずのにやけ面で憲兵はマーカスを呼び出した。

「よし、今からお前らこいつと戦え!手加減したやつは、、、」

俺たちをギロッと睨む。もちろん、こいつというのは、ルーカスだ。

「ほら、早くしろ!!叩かれたいのか?!!」

最前列にいた奴らが、ゆっくりとマーカスの方に歩いてゆく。

「おらああああ。」

拳を握ったまま、マーカスにぶつかった。マーカスは、、全く戦おうとしなかった。押し倒され、どれだけ叩かれても。蹴られても。

助けに行く、という選択肢が自分にないことをレオは呪った。あれだけマーカスが辛い目にあっているのに。

「おい!おい!聞いてんのか?!!お前らもやれよ!」

そのせいでこの声に気付くのが遅れた。

「早くしろよ”!!!!!!!」

その声の主を睨み返す。

「な、」

ここでマーカスを叩く側に回ってしまったら、もう人間としてダメになってしまうだろう。

「お前も、こいつと一緒だ!!こいつも一緒に殴れ!!!!」

周りの人間がなだれ込んでくる。無数の痛みと圧力。もう、その先は記憶がなかっ

た。


「ま、まーかす、、生きてるか?????」

「は、はは。さすがに計画にアイツらを連れて行く気はしないな。」

「だろうな、、、」

それで、許せてるのは異常ではあるが。なんとか、お互いの体をささえあって起き上がる。

「きょう、脱出するぞ。明日は本当に命が危なくなるかもしれない。」

「そうだな。なかなか、このコンデイションだときついけど。」

体をようやく起き上がらせた後、ほかにも倒れている奴が二人いたのに気が付いた。

「一応、起こしとくか?」

無言でマーカスがうなずく。一人は、、、こいつは一番最初に鞭でたたかれたやつだな。もう一人は、、だれ?

「おい、もう憲兵は去ったぞ。起きろ~。」

「どうしたんだ~。」

眼をこすって、起きてくる。

「ああー。妙な正義感なんか起こすんじゃなかったあ~。」

そういったのは、一番最初に鞭でたたかれたやつである。よく見れば、かなり小柄である。俺より背が低い。

「よく寝たあ~~~~。」

そして、起きたのはもう一人。こっちはかなりでかい。マーカスよりもでかい。が、いまいちマーカスより存在感が薄い。

「二人とももしかして、俺たちを殴らなかったから、殴られてたの?」

「なんか、あそこで君を殴ったら負けな気がしてなあ。」

「僕、多分人を殴れないんだよね。」

そうらしい。


とりあえず、マーカスと話す。

「あの二人、使えそうじゃね?入れちゃおうぜ。」

これも無言でうなずく。

「どうしたの?無口だけど。もしかして、口が痛いの?」

これもまた無言でうなずく。なるほど。


「君たち、俺たちの脱出計画に乗らないかい?」

二人に向かって話し始めた。










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