――――――肆――――――
まだ日没の名残の残る、
適当に時間をつぶして家に帰ると、いつもはこの時間は家にいる
(……そういえば昨日)
『圭一郎。明日から関東に出張に出る。
『ああ』
――という会話を交した。
その時、食事をしながらぼんやりとTV を見ていたため、すっかり忘れていたのだ。
征志郎が仕事で家を空けることはよくあったので、圭一郎は特に気に留めなかった。
・
―――“その日”。
時刻はまさに、草木も眠る丑三つ時。
圭一郎は、寝苦しさに目を覚ました。
目覚めてすぐに、異変に気づく。
(なんだ?この嫌な感じ)
空気が重い。体に
息苦しさの正体が、充満した邪気だと気づいた時、とっさに
圭一郎は、部屋を飛び出した。
―――バンッ
二階の奥、
その音で目覚めた多恵子が、布団から起き上がる。
「おや、圭ちゃん、どうしたんだいこんな時間に」
「
布団に駆け寄ると、観月は苦しそうにうなされていた。
「多恵子さん、すぐに観月を連れて家を出て。できるだけここから離れて。俺も小金井さん起こしてから行くから」
――ここは危険だ。
圭一郎の本能が、そう言っていた。
「何があったんだい?観月ちゃん、熱あるんじゃ…」
「いいから早く!!」
圭一郎の気迫に押されて、多恵子は観月をおぶる準備をし始めた。
それを見届けてから、階段を一気に駆け下りる。
(何なんだ、一体)
邪気は、敷地全体を覆っているように思えた。
いつも小金井が寝室に使っている和室へ向かったが、姿が見えない。
布団はカラだった。
「
(返事がない、おかしい。それに何だ、この嫌な気配……外か?)
やけに月の明るい夜だった。
縁側から庭園へ出た、圭一郎の目に飛び込んできたもの。
それは―――――
(
松の木の下に、闇に溶け込むかのような黒衣を
圭一郎はその気配で、人間ではないことを直感する。
そしてその足下には――
「!!」
小金井が、血だらけで倒れていた。
圭一郎は、自分の心臓がかつてないほど激しく脈打つのを感じた。
「圭一郎様、お逃げください…!」
小金井が弱々しく叫ぶ。
『憎き
頭の内側に響いてくる、憎悪に満ちた声。
「……ッ」
頭痛に耐えきれず、圭一郎は膝をつく。
一瞬の内に、思考が巡る。
――奴らが襲ってきた?
――観月は?逃げられたのか?
――俺は死ぬのか?
その時。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
―――バシュッ!!
格子状の青白い光が、僧の
同時に数枚の呪符が、僧の体に張りつく。
「圭ちゃん!今のうちにこっちへ!」
呪符の効果で、虚無僧の動きが鈍る。
「
「走って」
泉穂は圭一郎の腕を掴むと、裏庭に向かって走り出す。
走りながら、泉穂はひたすら何かを唱えていた。
その声に合わせて、蘆屋家の敷地を結界が覆ってゆく。
泉穂は、裏庭の
「観月たちは…」
「大丈夫。裏口から逃がした」
それを聞いて、圭一郎はひとまず安心する。
「……何が起こってんだ?」
泉穂のこれほど取り乱した表情を、圭一郎はかつて見たことがなかった。
「――
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