――――――弐――――――
高校のある四条通りから、
緑が増えてくるあたりにある、
自転車やバスで通えないこともないのだが、圭一郎は
理由は簡単だ。自転車やバスだと、早く家に着いてしまうからである。
「圭一郎様ァ!お帰りなさいませ!」
玄関に入るなり、早く家に着きたくない最大の理由が現れる。
行く手を遮るように立つこの初老の男は、圭一郎の“ 自称 ” 目付役、
圭一郎を立派な陰陽師にすることが己の使命だと思っており、
母・
「今日という今日こそは修行を…!」
「しない。出かける」
圭一郎は、
「はぁ……」
出かける用事など特にないのだが、部屋にいるとまた隣の部屋から五行説を延々と説かれたり、呪文を聞かされたりしかねない。
圭一郎は鞄を置き、外へ出ることにした。
・
・
「あ、お兄ちゃん!おかえり~!」
裏庭へまわった圭一郎を、遊んでいたボールを放り出して迎えたのは、妹・
圭一郎は、駆け寄ってくる
「観月、ちょっと」
圭一郎は手招きすると、観月の目線に合わせてしゃがむ。
「今日、幼稚園以外でどっか行ったか?」
「あのね、遠足だったの!嵐山に行ったよ」
(……それだな)
圭一郎は観月の肩に手を伸ばし、デコピンをするように指を動かす。
すると、黒い
兄の不思議な動きに、観月は首をかしげる。
「虫がついてた。暗くなってきたからそろそろ中に入れ」
人が多く集まる場所には、「
多少なら放っておいても問題は無いが、蓄積すると人体に悪影響を及ぼす。
観月は、邪気を集めやすい体質だった。
そして圭一郎は、そのような悪い気を「祓う力」を持っていた。
霊や物の怪を寄せつけやすい、邪気を集めやすい体質の人間というのは、一定数存在する。圭一郎は学校で、そんなクラスメイトを何人も見てきた。そういう生徒は大概、体調を崩したり、学校に来なくなったりした。
圭一郎は、罪悪感に
――
――でもあいつ、苦しそうだった。俺が祓ってやってれば……
――見えなきゃ、一生気づかないんだ。助けてやる義理はない。
――でも……
これが、学校という場所から足が遠のいた理由の1つだった。
そうして「見えないふり」を続けているうちに、常に見えていた霊や物の怪の
(ただ、
妹にかかる災難だけは、どうしても見て見ぬふりはできなかった。
圭一郎は、妹がそういう体質だと分かった時から、観月のことに限っては意識して「見る」ようにしていた。
(俺が毛嫌いするこの力で、身内だけは助けたいだなんて……都合のいい奴)
自分が矛盾していることは、圭一郎自身が一番よく分かっていた。
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