第28話:優しい手

「んーーーー眠い。


……あれ?? かっカターシャ!! なんで!! なんでいるの!! うわっアズールかびっくりした〜」



「サリー。まだ暗いよ……僕寝たい」


 アズールがサリーの後ろから言っている。外を見るとまだ月が出ている。もう一度寝ようと思った時。いつもの部屋では見ない顔が目の前に……


 目の前でカターシャが眠っている。



「……近くで見ると、綺麗な顔をしているんだね。素敵なほっぺの色を……」



「サリー……」



 サリーがカターシャの頬を触ろうとした時、彼の目が開いた。同時に掴まれるサリーの腕。



「起きてるなら言ってよ!! まだ夜だし!!」



「独り言をいうお前が可愛くって」



 恥ずかしくて布団に隠れようとするサリー。



「そうゆうのやめてって言ってるじゃん……それよりなんで布団に入ってるのさ……」



「お前が泣いていたから、泣き止ませようと……」



「私泣いていたの??」



「ああ」



「嘘……ごめん。ごめんね迷惑かけちゃって……時々夢で母に会うから……そうなると……」



 次第に声が小さくなるサリー。



「だから大丈夫って何回も言ってるだろ??」



 サリーをぎゅっと抱きしめる。



「ちょっと、やめてよ」



「いやだ」



 ーーーーサリーが急に静かになった。


「また寝たのか?? 寝落ちは勘弁してくれ……」



 違う。少し震えているようだ。



「サリー?? 本当に嫌だったんだな。すまん。自分の部屋に戻るよ……」



 カターシャが布団から出ようとした時、サリーの腕がカターシャの服を掴んだ。



「違うの……そうじゃないの……」



 半泣きでカターシャを見つめるサリー。



「…………」


 カターシャは近くの椅子に座った。


 すると、サリーは起き上がり少しずつ記憶を辿るように話し始めた。



「あのね……私最近ちょっと変なの。カターシャや、ジンさん、ノアールさんに出会ってからなんだけど……」


「うん」


 サリーのペースに合わせて話を聞いている。


「母が死んでから私の心の支えはアズールだった。というかアズールしかいなかった。旅の途中、ふとした時に発動する自分の魔法の威力に怖くなってしまう毎日だったし……」



「……辛かったな」



 悲しそうな顔でサリーを見つめるカターシャ。



「アズールがいたからなんとかなったんだよ。それで私を心配したのかアズールが魔法の修行に連れて行ったくれたこともあった」



「修行に行っていたのか??」



「うん。アズールが前に仕えていた人が魔法使いだったから。今まで言わなかったけれど、実は魔法について色々教えてもらっていたの」



「なるほどな。だから母から習った召喚魔法以外の魔法が使えるんだな」



「そう。私たちが旅をしている時、魔法使いだというと、騙そうとしてくる人が沢山いた。私の力を戦いのために使おうとする人もいたし、実際何度か戦地にいって破壊の魔法をかけることもあった……」



「ーーーー自分の力が不安でしかなかったんだ」



 ぎゅっと自分の手を握るサリー。




「誰かの命を断つために魔法を使う自分が嫌だったから……魔法について教えてもらった時の記憶を全て消したの……正しくは記憶を消す魔法を自分にかけた……かな」



「だからかお前は魔法の記憶が曖昧なのか」



「うん。けど最近よく夢で蘇るの。魔法を使っている私や、亡くなった母が……だけどそれが少し怖くって……」


 サリーの手を大きなゴツゴツした手が包み込んだ。サリーは話を続ける。



「そう簡単に人を信用することが出来なくなっていたんだけど、なぜか今はみんなのこと信じてもいいのかなって思えるようになった……」



「…………」


 カターシャは何も言わない。ただ、手を握って話を聞いていた。



「……それでね……えっと……」


 カターシャがあまりにも真剣な顔で見るものだからサリーは話すのをやめてしまった。


「それで、なんだっけ?? 私何を話そうとしていたか忘れちゃった!!」


「はははっ」


 サリーの頭を撫でてクシャクシャにするカターシャ。


「お前は笑っている顔が一番いいよ」

 

 カターシャに釣られて、ヘヘッと笑うサリー。

 

「お前が元気になってよかった」



「ありがとうね」


 サリーの笑顔に満足したカターシャ。自分の部屋に行こうと椅子から立ち上がる。


「じゃ、俺行くわ」



「……もう行っちゃうの??」



「なんだ、まだ居てほしかったのか??」


 

 ぶんぶん顔を左右に振るサリー。


 悪戯っぽく微笑む彼は月の光が当たっているからか、いつにもなく色っぽかった。


 「じゃあな」


 そういってカターシャはサリーの頬にキスをして、自分の部屋に戻っていった。


(なっ何今の……私、キッ……キスされた)



 真っ赤な顔のサリーはしばらくフリーズして動かなかった。


(寝よう。うん。もう寝よう)


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