第25話:優しい腕に

 息を切らしながら影の元へ走る。


「あなたにも仲間くらいいたんじゃないの?? 共に戦った仲間がいたんじゃないの?? 辛い時支えてくれた人がいたんじゃないの?? 家族に引っ張られすぎよ!! いい加減親離れしなさい!!!! 自分の道を歩きなさい!!」


 影の近くに来たサリーは大きな涙をボロボロこぼしながら伝えた。



「っ……あなたは、どんな時も一人じゃなかったはずだよ……」



 影を見てみると様子が少し変だ。辛そうな顔をしている。



「俺は今からでもやり直すことができるのだろうか??」



 さっきまでの威圧的な態度はなくなり、なんとも、弱々しい声で聞いてきた。



『あなたのこれまでの行いは許されるものではありません。ただ、仲間を思う気持ちに嘘はないと証明されたら……もう一度、生を授かることができるでしょう』


 金の蜘蛛はそう告げた。


「そうか……お嬢ちゃん、迷惑をかけて申し訳なかった。俺は自分のことばっかりで……もう一度出直すことにするよ」



『ーーーーーーーー!!』



 光の蜘蛛が魔法を唱えた瞬間、影が金色に光り空へと消えていった。



ーーーー静寂に包まれる町。



「金の蜘蛛様?? 影は、どこへ行ってしまったんですか??」


 サリーは尋ねる。



『きっと私たちがいる国へ来ているはずよ』



「そうですか。彼も、あっちの国で仲間に会えたらいいな……」



『大丈夫よ。彼はあなたのお陰で一歩が踏み出すことができたわ。感謝しているはずよ……』



 光の蜘蛛がにっこり微笑んだように思えた。



『大丈夫、サリー、あなたはちゃんと成長しているわ』



「氷のドラゴンもそうでした。なぜ皆さん私のことを知っているのですか??」



『時が来たら分かるわ…………さあ私はそろそろ戻ろうかしら。サリー魔法をよろしく』



「わかりました。私たちまた会えますかね??」



『ええ。あなたが心の中で強く願えば……』



 光の蜘蛛はサリーの魔法によって元の世界へ戻っていった。


「ありゃ??」

 

 影に体を乗っ取られていた画陣の国の者が意識を取り戻したようだ。


「ーーーーわしは今まで何をしておったんだ」


「おじさん、どうしたんですか?? さっきまでスパイスを売ってくれていたのに……」

 

 サリーが教えてあげている。


「そうか!! わしはスパイスを売っていたところだったか!! 教えてくれてありがとう!!」


 画陣のおじさんは香辛料屋に向かって行った。


(なるほど……乗っ取られる場合、影だった記憶は全てなくなるのですねぇ)


 今日の様子をノアールは事細かにノートに記していた。


 


 ーーーー影に操られていた町の人も元に戻ったようだ。調味料を求めて荒れ狂う姿はなく、お互いに譲り合い、スパイスを買おうとしている。




「はあ。終わった……」



 サリーが一息つこうとした瞬間



「お前はアホか!!!!」



 カターシャの雷が落ちてきた。



「いきなり影に突撃するなんて危ないだろ!! 何かあったらどうするんだ!!」



「だって影のことが心配になってしまっ……」



 サリーの言葉を最後まで聞くことなく、カターシャは彼女を抱きしめた。



「本当に何もなくてよかった……」


 いつもの声とは違う。カターシャは心細い声で呟く。


「……カターシャ。ごめんね??」


「ああ」


 ぎゅっとサリーを抱きしめるカターシャ。



 彼はきっとこの時間がずっと続けばいいと思っている。



 そんな二人に近づくピンクの影。


 

 ピンク……一人しかいない。ノアールだ。


「ゴホン。お取り込み中すみませんねぇ。一つ聞きたいことがあるんですが」



「なんだ、後にしてくれ」



 サリーを抱きしめたままカターシャは言う。


「お嬢さんの魔法、発動する際はどんなペンでもよろしいのですかねぇ??」


 力強い腕からすり抜けたサリーはノアールに向き合った。チッと舌打ちをするカターシャ。


「私も氷のドラゴンの時から考えていたんですが、それなりのパワーが備わったペンじゃないとダメだと思うんです」


「なるほど……」


「けど、この話はアズールの方が知っているんですよね。昔魔法使いに支えていたことがあるらしくって」


「なんと!! そうでしたか!! では早く城に戻りましょう〜」


 ルンルンなノアール。すでに城に向かって歩いている。


「サリーもあいつと一緒に行くんだ。俺は町を片付けてから行くから。」


 そういって騎士団の方へ走って行くカターシャ。向こうでは隊員たちが彼の指示を待っているところだった。


「カターシャ、彼はきっと部下に慕われているんだね……」


 ノアールの跡を追うサリー。



「王位を狙うものか……そういえばカターシャは第二王子だったな……色々思うことがあるのかな」



「そうだ!! お嬢さん!! これ先ほどリコリス殿のお母様から頂いたものです。お嬢さんに渡して欲しいとのことでしたので」


 サリーの前を歩くノアールがくるりとこちらを振り返った。


「ありがとうございます」



 ノアールから小さな包みを受け取り開けて見る。するとそこには、黄色の綺麗なビスケットが入っていた。小さな手紙も。



「ーーーー今日はゆっくり休みなさい」



 リコリスの母親からのメッセージに心が温かくなるサリー。自然と自分の母親とリコリスの母親の優しさを重ねていた……

 

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