第23話:王様になれなかった影
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あるお城で、王様になって国を変えるため必死に勉強をする王位継承第二位の王子様が……
お城の人たちはなぜか彼のことを良く思っておらず、戦いばかりする国王や、村人から作物の取立てを厳しく行う第一王子を慕っていたそう。
第二王子は家族からのいじめにあい、戦を理由に戦地に飛ばされることに。邪魔者は排除したいという家族の思惑だったのかもしれない……
彼は国の不平等な現実、国王の一族だけが裕福に過ごせる現実を変えて、皆で仲良く暮らすことを目指していたけれど、戦いで亡き人に……
その後、彼の亡霊が影となって現れ、村人を自分の思うがままに操り、国王一家を殺してしまった。
「ーーーーという話……霊として家族に復讐をしたんだけど、自分の思い通りになる感覚にハマってしまい、色んな場所で色んな人を操り出したんだと思う」
サリーの話を真剣な表情で受け取るカターシャとノアール。彼らは時折目を合わせながら頷き合っていた。
「……よくありそうな話ですねぇ。お嬢さんは今までそのような現場に立ち会ったことはありますか??」
サリーが影の話をしている間静かにしていたノアールが口を開いた。
「いえ。今回初めてです。昔話も本当かどうか分からないのでなんとも言えませんが……あの影は、画陣の国の商人の体を借りて屋根の上に立っていたんだと思います」
「その影を成仏する方法はあるのか??」
カターシャがサリーに聞いた。
「魔法書で読んだことはある。けれど、とても難しいのよ……」
「間違えて身体を貸している画陣の国のお方を殺してしまわないようにしないといけない……ですよね??」
「ノアールさん……そうです。だから召喚魔法で……」
「ーーーーーーお嬢さん 危ない!!」
「ーーーーーー!!」
ノアールが術を発動させる。サリーとカターシャ、ノアールの周りがドーム状のバリアで覆われた。
黒い物体がサリーたち目掛けて飛んで来て、ノアールのバリアに当たって消えていった。
「なんだったの今の……」
サリーは数秒の間に起こった出来事が理解できずにいた。
「ノアール、これは厄介なことになってきたぞ」
「……影にバレてしまいましたねぇ」
「おい、今すぐ調査中の騎士団に繋ぐことはできるか??」
「ええ。ついでに術団にも繋ぐとしますかねぇ」
ノアールは相変わらず余裕のある表情をしているが、内心焦っていた。
(お嬢さんが魔法使いだという事が外部に漏れたらまずいですねぇ)
ノアールは調査中の団員達にうまく繋ぐ事ができたようだ。
繋ぐとは術を使って頭の中に入り込む事。そうする事で離れた場所にいても話しかける事ができるのだ。
「お前ら、聞こえるか。カターシャだ。術長の力を借りて話をしている」
ノアールの合図とともにカターシャが喋り出した。
「調査は中止だ……奴に我々が調査をしていることがバレてしまった。次にどんな手段を使ってくるかわからない……とりあえずすぐ動けるように準備していてくれ」
「皆さん、相手は影の魔法を使っておりますから……光のソードを発動しておいてくださいね。自分の命は守ってくださいねぇ……」
カターシャとノアールが話を進めているなかサリーは、いつもポケットの中に忍ばせている小さな魔法書を見ていた。
「影を光に変える魔法陣か……何を召喚するんだろう」
小さな魔法書には重要項目だけピックアップしたものが記されている。小さな字を目を細めてみるサリー。カターシャとノアールは調査中の部下への連絡を終え、ふと彼女をを見た。
「お嬢さんは何をみているんですかねぇ」
「なんだろうな……サリーの探し物が見つかるといいんだが」
「ーーーーーーあった!!!!」
「何か見つけたんですか??」
サリーにグッと近づくノアール。
「ち、近いですから……」
困っているサリーの前にカターシャがやってきた。
「ノアール、お前近すぎるんだよ!!」
「あら王子様の登場ですかねぇ」
「ーーゴホンっ!! お二人とも聞いてください。今回の影を成仏させる方法、影を光にする魔法が見つかりました」
「お嬢さん!!」
ノアールの表情がぱぁっと明るくなった。
「いっ!! いいですか!! 今回の召喚魔法では蜘蛛を召喚しなければなりません……」
「ほお……先日のドラゴンに続き気になりますねぇ」
ノアールが食い気味にサリーに聞いている。
「蜘蛛といってもただの蜘蛛じゃありません。光の蜘蛛です」
「本当ですか?? 昔私の祖父から光の蜘蛛の伝説は聞いたことあるのですが、今回こうしてお会いすることができるだなんて……嬉しい限りですねぇ」
「ノアール、お前、影を成仏すること忘れていないか??」
カターシャに図星を突かれた。
「いえ。大丈夫でございます。あくまでも成仏することが優先ですのでねぇ。私の興味は二の次ですよ」
そんなことを言っているノアールだったが、表情はとても楽しそうなものだった。
「召喚魔法はいつでもできるわ。ただ、何かペンのようなものがないとね……」
「ーーーーサリーちゃん!! これ使いなさい!!」
サリーたちの話を遠くから聞いていたリコリスの母親がサリーにペンを渡してきたのだ。
「私もこの騒動落ち着いてほしいと思ってるのよ。頑張ってちょうだいね!!」
「ありがとうございます」
リコリスの母親にぎゅっと手を握られたサリー。彼女の手は温かく、強いものだった。どことなく元気だった頃の母に似ている……
「それにしても綺麗なペンですね。木の木目があるみたいですけど、手作りかなにかです??」
「ええ。昔リコリスが生まれた時に私のおばあさんがくれたのよ。自宅の庭に植えている木の枝を切って削って作ったペンよ」
「そうですか……とても素敵……」
「よし、サリー。時間がない、早くやってしまおう」
カターシャがサリーの隣にやってきて、頭に手をおいた。思わず見上げるサリー。ふと目があい、にっこり笑ったカターシャにサリーは見惚れていた。
「あら、微笑ましいわね〜」
ふふふと笑うリコリスの母親。サリーこの時ばかりは否定することができなかった。
サリーはリコリスの母親からもらったペンを使い、店の床に魔法陣を描き始めた。
「確か……長さは二メートルで描きなさいってことだったよね」
一人でぶつぶつ言いながらサリーは魔法陣を描いている。
「ーーーーーーーー!!!!」
すると店のドアからリコリスが入ってきた。汗まみれで息も上がっている。
「カターシャやばいぞ!! あの黒い男が暴れている!!」
「え?? 大変!!」
「お嬢さん、ここは私たちにお任せください。あなたは魔法陣を完成させてくださいねぇ……」
ノアールにそう言われ、サリーは魔法陣を描き続けた。
「カターシャ、私はリコリス殿について行きます。あとは頼みましたよ」
「ああ。俺らもすぐ行くから時間稼ぎを頼む」
ノアールはリコリスに案内され、影の元へ向かった。
「サリー、心配するな。ノアールがいれば大丈夫だ」
「そうだよね」
少し急足で描いた魔法陣。氷のドラゴンの時とは違い、繊細な、美しいものだった。サリーの証を書き加えて、魔法陣は完成した。
「よくやった」
カターシャがサリーの頭を撫でる。
「ありがとう」
なんだか嬉しくなったサリー。カターシャの方を見て照れたように笑った。
「…………!!」
「カターシャどうしたの??」
「いや……なんでもない」
「そう?? 変なの」
サリーの笑顔に目が離せなかったカターシャ。彼と並ぶと頭二つ分くらい背の低いサリーが見せる上目使いの笑顔。彼はこの時サリーへの気持ちに確信がついた。
(俺もうダメだわ。サリーのこと……)
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