港町での要請
第21話:恋の予感
魔法爆弾騒動から約三ヶ月が過ぎた。季節は秋に差し掛かろうとしている頃だろうか。
サリーはようやく食堂の仕事にも慣れ、沢山の知り合いもできていた。何度か動物を助けるために召喚魔法を発動することもあった。最近は食堂に来る、町のお客さんも増え、調理に魔法に忙しい日々が続いている。
魔法爆弾騒動があった後、カターシャは城の警備や騎士団の編成を変える準備で大忙し。城の警備は穴だらけであったらしく、毎日のように頭を抱えている。
サリーにもなかなか会えないようだ。
代わりにと言ってはなんだが、術師のノアールが食堂に訪れるようになった。来る理由はただ一つ……
「お嬢さん。今日もお元気そうですねぇ。そろそろ私に魔法陣を見せてください……」
このようにサリーの魔法陣を見たいからである。
「嫌ですよ!! 動物たちにしか見せたくありません!! というか私魔法使いじゃないですから!!」
「そんなこと言わないでくださいよ〜、お嬢さんは立派な魔法使いです」
「アズール助けて!!」
何故かノアールの近くに行くアズール。
「ノアール、元気だった??」
アズールはトラ特有のふわふわした尻尾をふりながらノアールの横に座った。
「えぇぇぇなんで!! なんでそこ仲良くなってるの??」
サリーは、アズールとノアールが仲良くなっていることに驚いているようだ。
「なぜでしょう。アズール殿とは気が合うんですよねぇ」
「嘘だ!! ノアールさん魔法爆弾の時、自分動物に嫌われるって言ってたじゃないですか!!」
「あ〜あれですね。多分私の勘違いだったんですよねぇ……」
サリーは呆れた顔でその場に立ち尽くしている。
動物に好かれないと話していた術師のノアールと、思いっきり動物なトラのアズール。意外な組み合わせだが、どうやら考えていることが似ているようだ。
「はぁ。最近カターシャどうしてるかな……」
仲良く話しているノアールと、アズールの姿を見ながらサリーはつぶやいた。
「ほう……恋ですかねぇ」
ジロリとサリーを見るノアール。
すると調理場の方からボトの野太い声が聞こえてきた。
「サリー!! 明日の昼カレーを作ってくれないか?? うさぎたちが食べたいってうるさいんだよ」
「分かった。私のスパイスだけじゃ足らないから町へ買い出しに行ってきてもいい??」
「おう!! 片付けはやっとくから行ってきてもいーぞ!!」
「ありがとう。アズール今日は私一人で行ってくるよ。お仕事あるでしょ??」
「サリー、ごめんね。本当は一緒に行きたいんだけど……」
そう。アズールは最近術団の講師まではいかないが、アドバイス役として一役買っているそう。時々術長のノアールに呼ばれて事務所へ出向き、魔法の相談に乗っている。
サリーは荷物を取りに部屋へ向かった。
サリーが作るカレーは万人受けしやすく、大人気メニューになっている。リクエストされることもよくあるのだとか。
「今日は夕方雨が降るって言っていたよね。傘を持って行こう」
財布に傘に、大きな鞄、スパイスを入れる沢山の袋を持って城を出た。
城から町へ続く大きな通りを歩くサリー。久しぶりにスパイス屋へ行けるからウキウキしていた。
「あのお店、沢山の香辛料があって、見ているだけで癒されるんだよね〜」
足取りは軽いようだ。少し冷たい風が吹くようになった。
「昨日髪の毛切り過ぎちゃったかな……ちょっと寒いな。」
サリーはバックに忍ばせていた真っ青に染められた麻のストールを首に巻いた。ベリーショートに青のストールがよく映える。
視線の先に町が見えてきた。今日はいつにもなく賑やかそうだ。
「なんかやってるね……」
「よっ嬢ちゃん!! また髪短くなったな!! 元気だったか??」
サリーの肩をバシバシ叩くのは漁師のリコリスだった。今日もテンションが高い。
「リコリスさん!! お久しぶりです。それはそうと、今日はなんのお祭りをしているのですか??」
「いや、それがな。祭りじゃないんだよ……」
「ーーーーーー」
リコリスの話によると、町の人だかりは輸入物が影響しているそう。最近、ここは画陣の国と貿易をするようになったらしい。画陣の人たちは見たこともない色、味の香辛料や、布を持ってきているそうで、ここの商人たちは我先に買おうとしているみたいだ。珍しいものだからこの町の人に高値で売れるそう。
「ーーーー香辛料か。一体どんな見た目なのかしら。気になるわね」
「嬢ちゃんも行ってみるといいぞ。見るだけタダだからな!!」
ニヤリと笑うリコリス。
「そうだね。行ってみようかな」
「気をつけて行ってこいよ!!」
リコリスと別れ、サリーは人集りの方へ進んだ。
どこから湧き出てきたのか分からないくらいの町の人が集まっていた。
「にしても、人が多すぎる……」
なんとか人混みを抜けたサリーは香辛料屋のもとへ向かった。歩いている途中、町の人の違和感に気づくサリー。
「目の色がなんかおかしいわね……どこかで見たことあるんだけど思い出せない」
よくないことが起こっているのでは無いかと心配するサリー。
「行くしかないわね……強行突破よ!!」
とにかく香辛料が気になって仕方ないようだ。勢いよく人集りに飛び込んだのは良かったが、サリーは案の定もみくちゃにされている。
「痛い!! ちょっと押さないでよ!! わぁ!!」
サリーが倒れると思った瞬間、誰かがサリーの方へ手を伸ばし、サリーを人混みから引っ張り出した。
「アホか!! 人混みに突撃するなんて危ないだろ!!」
「ごめんなさい…………ってカターシャ??」
「久しぶりだな!!」
キラキラ笑うカターシャはどことなく疲れているようで、サリーは少し心配そう。
「元気だった?? なんか髪伸びたわね」
「サリーは短くなっているな」
サリーの髪の毛をいじり始めるカターシャ。
「ちょっと!! ぐしゃぐしゃにしないで!!」
「はっはっは。久しぶりに会えたから嬉しくって」
(さらっと言わないで〜恥ずかしいから)
顔を真っ赤にするサリー。この光景前も見たことがあるような……
「で、お前は今日どうしたんだ??」
「そうそう。明日のお昼のメニューをカレーにしようと思ったんだけど、スパイスが足らなくて買い出しに来たの」
「それであの店の前にいたのか」
「そう。でもね、あの人集り、集まっている人たちを見ると少し変な気がするのよね……」
「そうか……サリーも思うのか」
カターシャは深く考えているようだ。
「よし。詳しく話したいからとりあえず店に入ろう」
きっと聞かれたらよくないことなんだとサリーは察知し、二人で近くのお店に入った。
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