第19話:トラの憂鬱

 サリーは疲れ切っていたのか、その場に倒れ込んだ。


「おいっ」


 サリーはカターシャに抱きかかえられる、力を使いすぎたんだろう。スヤスヤ眠っているようだ。


「ジン、とりあえずこいつを部屋に運ぶ」


「おやまぁ……ここの始末は私にお任せください」


「あぁ、頼む」


 カターシャはジンに食堂の始末を頼み、サリーの部屋に向かった。


「ノアール様、派手にやってくれましたね。仕方ないやりますか……」


 ジンは大きく息を吸こみ、ふぅっと息を吐いた。


「ーーーーーーーー」


 すると大きく風が吹き、ノアールによって破壊された椅子や机の残骸が一箇所に集まってきた。


「私は集めることはできるんですけど、直すことはどうも苦手だ…… …………できれば復元魔法はやりたく無いと言いたいところですが、そうも言ってられませんね」


 ジンは再び息を吸った。次に息を吐いた時には一箇所に集まってきていた残骸が自ら動き出し、元の椅子の状態に戻ろうとしている。


「いいですね。しばらく様子を見ましょう…………」


 ジンが魔法使いだということは、ノアールとカターシャしか知らない。サリーが知るのは随分後の話になる。



「アズール殿。君が知っていることを全部説明してもらいたい!! ドラゴンとは一体何者なんだ」


 ジンが食堂の後始末をしている時、廊下ではアズールが困った顔をしていた。

 興奮気味のノアールの質問攻めに合っていたのだ。


「ノアールさん、分かったからどこか誰もいない場所で話そうよ」


 向かった先は、術団の事務室。


「ーーーーーーそんなことが。ではあのドラゴンは一体何者なんだろうねぇ。さっぱりわからない。サリー様とどんな関係が??」


「それはね、サリーも知らないんだけど…………」


「ーーーーーーーー」


「ほうほう、それは面白い…………」


「サリーには内緒だよ?? まだ知らないんだから!!」


「ええ分かっていますよ。にしても、彼女が魔法使いだとは…………カターシャも見る目がありますねぇ」


 ノアールはニヤニヤ笑っていた。


「お嬢さんは貴重な人だ、こちらとしてもしっかり守らせていただくからねぇ安心しておくれ」


「うん、よろしくね」


 アズールは少しだけ心が軽くなった気がしていた。


「実はアズール殿も魔法が使えたりってことはないんですかねぇ??」


「…………さぁどうかな」


 質問の主は、尻尾をふりながら部屋から出ていくアズールを優しい目で見ていた。

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