第18話:魔法使い始動?!

 サリーは魔法陣の真ん中に円を一つ書き加え、術を唱えた。


「ーーーーーー」


 すると……冷たい、白い風が食堂に流れ込んだ。ーーーー相変わらず魔法爆弾からは不気味な煙が立ち上がっている。


 アズールがサリーの足元に寄ってきた。


「……そろそろ始まるわね」


 あたり一面が真っ白になり、目の前は何も見えなくなった。


 サリーは、左にアズール右にカターシャの温もりを感じ、特に怖さはなさそうだ。


 するといきなり青い光が地面から湧き出てきた。


「みんな!! 膝をつけて」


 カターシャは剣を抜き、地面につける。アズールは頭を深く下げた。魔法陣の後ろではノアールとジンが膝をついている。



『ーーーー久しぶりだな、ムルハントの娘……』


 ドラゴンはサリーたちが思っているよりずっと、低い声だった。


「父の名前を知っているのですか??」


『あぁ、どれ、顔をよく見せてくれ……』


 ドラゴンにそう言われ、サリーは顔を上げた。


(心の中を全て見られている気がする。にしても綺麗なドラゴンだ……)


 ブルーの瞳に、黒い鱗、尻尾の先には氷で出来ている宝石のようなものがキラキラと輝いている。


『ムルハントによく似ている……いや、ラズリに似ているのか……』


「母のことも知っているのですね」


『まさか、お前さんに呼ばれるとは思ってもいなかった……隣の高貴なトラ、お前は……アズールか』


「久しぶりです。氷のドラゴン、ダ・シュメール様」


 アズールはさらに頭を深く下げた。


「えっ?? アズール、ドラゴンのこと知っているの??」


 サリーはコソコソと聞いてみた。


「そうだよ。昔むかし、僕がお世話になった方だよ」


『ほっほっほ。アズール……いいから顔をあげるんだ……』


 アズールは地面から顔を上げ、ドラゴンの方を向いている。


『隣の者も上げたまえ……名はこちらの世界でも有名だ、カターシャであろう……サリーの男か……』


「男だなんて!! そんなことありません!! ダ・シュメール様、ちっ違うんです……」


 顔を真っ赤にするサリー。ドラゴンはサリーを見て大きく笑っていた。


 少しの沈黙があった後、カターシャは立ち上がりドラゴンと目を合わせた。


「ダ・シュメール様、急にお呼び立てして申し訳ありません。第二王子のプルメール・サイ・カターシャと申します」


『あぁ……カターシャ。これから、サリーのことをよろしく頼むぞ……』


 ドラゴンは力強い目でカターシャを見た。



『サリー、お前が書いた魔法陣にラズリの証、森の輪を描き加えたのはなぜだ??』


「何故か描いている途中に母のことを思い出してしまって……忘れたと思っていたんですが」


『そうか……あまり深く考えすぎない方がいい……サリーが思っているより近くでラズリは見守ってくれているぞ……』


「良かった、近くにいてくれているのね」


 サリーは嬉しくなって泣きそうになっていた。


『よし、時間だ。今回は魔法爆弾であったな……やるとするか……』


『ーーーーーー』


 ドラゴンが魔法爆弾に近づいて氷の息を吐いた。


 

 なんていうことだろうか。魔法爆弾がドラゴンの息で凍りつき、煙が出てこなくなっている。魔法爆弾をよくみると、机に張ったはずの根っこが爆弾の核に戻ってきており、剥がれ落ちている。


 根っこはマイナス二千度の力を受けたというのに、まだうねうね動き回っている。次の付着場所を探しているのだろうか。


『……もう一声だな……』


 ドラゴンがもう一度魔法爆弾に向かって息を吐いた。



『ーーーーーーーー』


 剥がれ落ちた魔法爆弾は完全に氷ついてしまった。根っこも氷の中にいるようだ。


「す、すごい、そして気持ち悪い…………」


『今回は氷魔法に毒を含ませてみたが、あと一息だな……カターシャ、お前さんの火の破壊魔法をこいつに浴びせるんだ……』


「わかりました……サリー、少し離れるんだ」


 

 サリーとアズールは少し離れたところで、彼らを見守った。


「ーーーーーー」


 カターシャが術を唱えると、一瞬にして凍っていた魔法爆弾が火の塊に。最後は小さく爆発して消えてしまった。


「すごい、消えてしまった」


『さすがだ、カターシャ……力の加減も申し分ない』


「ありがとうございます」



『ではサリー、私はひとまず帰るとするよ……魔法陣の術を解放してもらおうか……』


「はい。やってみます……あっそうだ、ダ・シュメール様、私の父と母を知っているのは何故ですか??」


『そうだな。サリーは知らないんだな……いや、それは今度話すことにしよう。またすぐ会う時が来るはずだ……』


「わかりました……では」


『そうそう。最後に、言いたいことが』


「なんですか??」


『サリー、よく聞け。消した記憶は嫌でもいつか思い出すものだ……それではまた会おう』


「ーーーーーーーー」


 サリーが解放の呪文を唱えると、強い風が吹きドラゴンは消えていった。


「サリーやったね!!」


 アズールが言う。


「嘘、夢見たいだった……私がドラゴンを召喚できるだなんて……そんな……」


パタっ


「おい!! サリー!!」


 心配したアズール、カターシャ、ジン、ノアールがサリーの元に駆け寄ってきた。

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