第17話:母の事実


「よし。確かのこのあたり」


 パラパラめくるページの中で重い当たる箇所があった。


 誰かがよく言っていた言葉。


「困った時は反対の力を使いなさい」


「煙は火が素で作られる。だから反対の水のジャンルのところに書いてあるはず……そうそう確かこの辺に……あった。これだ」



 サリーが開いたページにはこんなことが書かれてあった。


【死を呼ぶ煙の消し方と作り方】


「複雑な魔法陣ね」


「ほほう。お嬢さんは魔法書の文字が読めると……」


「ええ。これもなぜか読めるんです」


「なぜか……ね」


 考えるそぶりを見せるノアール。



「サリー……煙の色が緑に変わってきたぞ!!」



「大変、1時間も持たない。カターシャ、城の避難は終わっている??」


「いや、まだ半分くらいだ」


「とにかく急いだ方がいいわ!!」


「わかった!!」


そういうとカターシャはどこかへ行ってしまった。


「サリー何が必要??」


 心配したアズールがサリーに聞いている。


「私のバックの中に青いペンがあるはず、それを持ってきて欲しい……」


「いいの?? あれを使って??」


 (仕方ない。幼い頃に亡くなった父が使っていた大切なペン。ピンチになったら使いなさいと譲り受けた物だ)


「うん!! 今が使う時な気がする!!」


「分かったよ」


 アズールはサリーの部屋に向かった。



「では、私はしばし城をできる限り守りましょうかね」


 そういうとノアールはピンク色の髪を輝かせ何やら呪文を唱えている。


(あれ??あの人魔法使えるんだっけ??)


ーーーーーー


すると強い風が吹き、食堂一体が白いバリアに包まれた。



(ーーーーこれは、一体)


「仮に魔法爆弾が爆発したとしても城への被害を最小限に抑える魔法です。食堂は粉々になっちゃいますけどねぇ」


 不気味な笑みを浮かべて話すノアール。それはサリーに対して失敗するなと言っているようだった。


(みんなが時間を稼いでくれている。私も早くやらなくちゃ……)



「サリー持ってきたよ!!」


「ありがとうアズール!!」


(なんだこのペンは。キラキラ光っているぞ…………)


 ノアールはサリーが持っているペンの近くまでやってきて、まじまじと見ている。



 サリーはペンを持ち頭の中で昔を思い浮かべた。すると、何故か幼い頃の母との記憶が蘇る。


ーーーー


「サリー、魔法書の通りに書いちゃいけないわ。コピーしちゃうとね、ドラゴンに受け入れてもらえないのよ」


ーーーー


(ああ。懐かしい。確かにそうだったな)



「「サリーの証をどこかに必ず入れること。」」


 どこからともなく母の声とシンクロした。


(もしかして私の母は魔法使いだった……の)



 (私なら絶対に大丈夫……いける)


「ノアールさん、ここの机と椅子を全部避けて欲しいんですが…………」


「お嬢さん、承知しました」


 そういうとノアールさんは何やら術を唱え始めた。


「ーーーーフィン」



ーーーーバキバキバキバキ


 全ての椅子と机が崩れ始めた。


「サリー、広々と使えるね!!」


 アズールが言った。


「そうだね。ちょっと広すぎるかな」


(机と椅子が粉々になってしまった……)


「お嬢さんが動きやすい方がいいと思ったので!! 魔法陣を描かないといけないですからねぇ」


 自信満々にノアールは答えている。


(よしっ……描こう)



 魔法爆弾を中心として、魔法陣を描き始める。


 サリーは力強く、大きく、何故か思い出した昔の母との記憶。大切な母に言われたことを思い出しながら描いている。

 

 継ぎ接ぎだらけの母との思い出を。


 サリーが想像した通りの魔法陣が出来上がった。描き終わる頃にはカターシャと、ジンが戻ってきている。


「ノアール、これは??」


「あぁカターシャか。お嬢さんに頼まれてだよ?? 椅子と机全部避けてくださいって頼まれちゃったかららねぇ」


 ジンさんはカターシャの隣で苦笑いをしていた。


「ジン…………これがドラゴン召喚の魔法陣なのか」


「そのようですね……」


 ジンとカターシャが見る先には食堂いっぱいに大きく描かれた魔法陣があり、ドラゴンの大きさを物語っているようだった。


 サリーが描いた魔法陣には小さな模様と、母のラズリがよく描いていた森の輪が書き加えられている。


「サリー完璧だね。」


 アズールが頷きサリーの元へやってきた。


(魔法陣、完成した…………)


「あとはここで唱えるだけです。皆さんは危険だから城の外に出てください!!」


「いや、私たちはここにいますよ」


 ジンが言う。


(何言ってるんですか…………失敗したらどうするのよ)


「サリー様は魔法使いなのですよね?? 失敗して私たちが犠牲になることなど…………」


 ノアールが皮肉たっぷりに言いながら魔法陣に入るギリギリの場所までやってきた。


(分かったよ。やってみるから、頼むからプレッシャー与えないで……)


 サリーは魔法陣の中心に来ている。アズールも一緒のようだ。


「サリー、大丈夫。何があっても僕が守るよ」


「ありがとう、アズール」


 するとサリーの右隣に人影が。


「カターシャ?? 魔法陣の真ん中が一番危ないのよ。ノアールさんの方へ…………」


 するとカターシャは左手でサリーの肩を寄せた。


「何かあった時の為だ…………俺にも、守らせてくれ。いいだろ、アズール??」


(って私じゃなくてアズールに確認するの??)


「うん、そっちはカターシャに任せたよ」


 アズールが答えている。


(カターシャとアズールって仲良かったっけ??)


 カターシャに触れられる左肩が熱い……




「今から術を唱えるね。氷のドラゴンが出てくるはずだから、出てきたら必ず膝をつく事。ーーーー敬意を示さないといけないの」


「……分かった」


(何が始まるんだ。実に興味深い……)


 ノアールさんはニヤリと笑って、この光景を魔法陣の外から見ていた。


「ノアール様、頼みますからニヤニヤしながら見ないでください。後でカターシャ様に怒られますよ」


「あっごめんねぇ。ついつい…………ラズリの娘、サリー。彼女は一体どんな力を持っているのですかねぇ……非常に気になってしまいます」


「ノアール様、その件はくれぐれも内密に……」


「分かっていますよ。さぁ見るとしましょうかねぇ」


 ノアールとジンはラズリという者の名を口に出し、サリーたちの方をじっと見ていた。



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