不吉な予感
第16話:厄介事は突然に
あのあと、私とカターシャは城に戻った。カターシャは王室の会議に行ってしまい、私はボトの夕食を食べるために食堂に来ていた。
食事をしながらボトとゾーイさんに質問攻めにされたのは言うまでもない。けど、サリーには今朝感じることのなかった空気の変化を察知していた。
「ねぇ、ボト。私が畑に行ってる間に誰か来たりしなかった??」
「いや、誰も来てないと思うが」
「そう…………」
「サリー、あんたなんか感じるのかい??」
「なんとなくなんですけど、何かこの辺り…………」
サリーの予感は大体当たる。サリーが指差す先は机だった。
「え?? この机だって」
「待って、ボト今日の夕方に何か荷物を持ってきた人がいたわねぇ」
「ああそうだったな、確かゾーイがサインをして…………」
サリーはアズールと目を合わせる。
頷いた次の瞬間…………
「ーーーーガァォォォォ!!」
アズールが飛び上がり机を真っ二つにした。
ドォォォォォン
食堂中に机が割れる音が響き渡った。食堂で食事をしている人は皆驚き固まっている。そして割れた机の下から逃げる小さな黒い影が。
「アズール、追いかけて!!」
「ーーーーガァォォォォ!!」
アズールの猫パンチが効いたらしく黒い影は動かなくなってしまった。影を加えるアズール。
「なっなんだそりゃ??」
不思議に思うボト。ゾーイは見たことがあるらしく対処を考えていた。
「アズール、こっちに持ってきてごらん」
「ゾーイさん、封印できるんですか??」
「まぁね、ちょっとだけど、このくらいだったらいけそうよ」
するとゾーイはアズールが咥えてきた黒い影に、呪文を唱えると……みるみるうちに白い球体へと変わっていった。
「なっなんだこりゃ??」
ボトの頭の上には沢山のハテナマークが浮かんでいる。
「これは厄介なことになるわ……」
サリーはまたもや不吉な予感を感じ、アズールが破壊した机の下へ戻った。
この食堂で食事をしていた人は皆動けずにいた。城の人もいれば、町の人もいる。
なんだなんだと様子を見にくる人も。
真っ二つに割れた机。私は机をひっくり返した。
(あれの影は昔見たことがあるような気がするんだよね…………)
サリーがひっくり返した机から黒と紫が混じった不気味な煙が上がってきている。
「やっぱり前にも見たことがある煙だ…………みんな危ない、とにかくここから離れて!!」
血相を変えて叫ぶ私を見て、只事じゃないと判断したゾーイとボト。
「爆発するわよ!! とにかく早くここから出なさい!!」
周りにいる人たちに伝える二人。
「俺外の奴らに言ってくる!!」
ボトは外で作業をしている動物に伝えに向かってくれた。
食堂にいた人は一斉に扉の方へ向かった。
「急げ!! 早く逃げろ!!」
扉から出る人をかき分けながらこっちにくる人影が見える。
「大丈夫か!!」
聞き覚えのある声の主が部屋に入ってきた。カターシャだった。そのあと、ジンさんと、見たことないピンク色の髪の毛をした人。隊員さんが数人入って来た。
(うわっこのピンクの髪の毛の人モデルさんみたいだ〜かっこいい…………いけないいけない、そんなことを考えている場合ではない)
「サリー様、何事ですか?? おや、ゾーイ様の手にある球体は…………まさか影を封印したのですか??」
「ええ、サリーとアズールが見つけてくれたのよ。私はここまではできるんだけど、魔法爆弾が厄介で…………」
ゾーイが渋々答える。
皆の目線が机から出ている煙にいった。
難しい顔をして考え込むサリー。
「サリー、魔法爆弾の破壊やったことあるっけ??」
アズールが言った。
「ない…………止める方法は一つだけあるんだけどね」
「ーーーーん?? サリー様はやはり魔法使いでしたか」
「いや…………ちっ違うんですよ!! たまたま、今回はたまたま分かっただけです」
「お話はよく分かりました。サリー様、私たちに詳しく教えてくれませんかねぇ」
ピンク色の髪の毛の人が近くにやってきた。
「これは、旅をしている途中で見たことがある煙なんですけど、まずさっきのゾーイさんが封印した影が魔法爆弾を仕掛けにどこからかやってくるんです。
この魔法爆弾には根っこがついていて根付いてしまったら最後、1時間後ダイナマイト並みの爆発が起こります。そして、爆発を止める方法はただ一つ、魔法陣で氷のドラゴンを召喚して、根っこを破壊してもらわないといけないの……って、旅の途中で出会った人に教えてもらいました!!」
「ほほう……影が魔法爆弾を仕掛けるとは。本当にある話なのですねぇ。噂で聞いたことはありましたがまさかこの場所で起こるとは…………」
ピンク色の髪の人が呟いている。初めて見る顔だ。
「サリー様、失礼いたしました。この者は戦術団の術長、ノアールです」
気を利かせてジンさんが教えてくれた。
「初めまして。ノアールさん」
「初めまして。お嬢さん……一つ疑問なのですが、破壊すればいいとなると、私たちの術で破壊することは出来ないのですかねぇ??」
ノアールが不思議な顔でサリーに質問をしてきた。
「それがですね……氷のドラゴンを召喚するのには理由がありまして。シェードステイルの根っこはマイナス二千度以上にならないと対象物から離れないんです…………」
「なんと厄介なことになってきましたねぇ…………」
ノアールは頭を抱えている。
「いくら素晴らしい術師でもマイナス二千度で凍らすことは出来ません。なので、氷のドラゴンを呼ぶしかないんです」
サリーも困った表情でノアールを見た。
「ほぉ……それで、お嬢さんはドラゴン召喚の魔法陣を作ることはできるのですか??」
「それが…………何故か知っているんです。詳しいことはあまり覚えてないので何とも言えないんですが」
「ほう。興味深い。なるほどなるほど」
ノアールは考え事をしているようだ。
「旅をしていた時この煙を封印する現場にたまたま立ち会ったんです。あの時も嫌な気配がして、その場にいた人たちとあたりを探したところシェードステイルと、魔法爆弾を発見したのです。その時もドラゴンを召喚したのですが私は召喚する魔法陣を作った本人ではないので…………」
「魔法陣を作っているところ、近くでは見ていたのですか??」
「ええ。一応は」
「では作れることができると思いますよ!!」
いきなり笑顔になったノアールさん。
「いやっ、そんなこと言われましても…………けど、ノアールさん術使いなんですよね??」
「はい……ですが、私は召喚魔法が専門ではありません。それに動物とはどうも相性が悪いんですよねぇ。ドラゴンが私の言うことを聞いてくれるかどうか」
(あーーーー確かにノアールさん、動物と相性悪そうだな)
それを静かに聞いていたカターシャが騎士団の隊員たちにこういった。
「あと1時間か……お前ら、城の者を全員町へ避難させろ!!近くの動物にはボトが言ってくれているみたいだが応援に回ってくれ!!」
「はいっ!!」
隊員さんたちが一斉に動き出した。
あと1時間、私はやるしかないと思い記憶を辿った。
「サリー、多分これがヒントになるよ!!」
「アズールありがとう」
いつの間にかアズールがサリーの部屋から魔法書を持ってきてくれていた。
「母がよく見ていた魔法書。なぜ見ていたのかは覚えていない。母が魔法使いだったことも知らないし……確かこの辺に書いてあって気がする………………」
パラパラとページをめくる。
ノアールはというと、じっと魔法爆弾にに近付き観察をしていた。本当に見るのが初めてなんだろう。ボソボソと呟きながら何かをメモしている。
(相変わらずノアールさん、研究熱心だよね)
ジンとカターシャは騎士団や城の従事者に何やら指示を出している。
サリーの周りにはアズールとゾーイがいた。
「サリーちゃんならできるから大丈夫よ」
ゾーイが言う。
すると畑のうさぎが数匹、食堂に入ってきた。
「何やら不吉な予感がしてね!! 動物の避難は私たちに任せなと言いたいところなんだけど、なんせ動物の数が多すぎて……ボトがきてくれたんだけど間に合わないんだ」
「私も手伝いに行くわ。アズール、サリーちゃんのこと任せてもいいかしら?」
「うん。僕に任せて!!」
アズールが深く頷いたところで、ゾーイは城を後にした。
(みんなが城を守るため、仲間を守るために動いている。私も何かなんでもドラゴンを召喚しなきゃ。失敗は許されない)
サリーの決意はいつにもなく力強いものだった。
(サリー、頼もしくなったね……)
アズールは昔のサリーを思い出していた。
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