第15話:うさぎの頼み
「おっきたきた!! サリーちゃーん!!」
畑のうさぎが飛び跳ねながらサリーたちを呼んでいる。
「あっエルさん!! 皆さんもこんにちは」
「あれ?? カターシャじゃないの…………」
うさぎたちは皆怪しい目でカターシャのことを見ている。
「皆さんどうかしましたか??」
「あっそういうことね〜カターシャはサリーちゃんの護衛なのね!! ふふふっ微笑ましいわ〜」
「エル、余計なことを言わんでいい」
「ん?? 護衛ってなんのこと??」
「いや、なんでもないから気にするな」
「そう?? よし、エル今日は何を手伝ったらいい??」
「今日はね、新しくニンジンの種を蒔いて欲しいの!! 思ったより早くなくなりそうだからね」
(そうだ。今年の人参はいつもより出来がいいみたいで、食堂では大人気、畑から収穫してきてもすぐなくなってしまうんだった)
「分かったよ!! 種まき任せて!!」
そういうとサリーは慣れた手つきで土をいじり始めた。
「エル…………サリーはいつもああやって手伝いに来ているのか??」
「そうよ。最近は毎日食堂が終わってから、手伝ってくれているの。私たちなんて言ったって体が小さいからね…………いくら沢山うさぎが居たとしてもなかなか進まないのよ。本当助かっているわ」
サリーの方を見ながら話すカターシャとうさぎのエル。
「あの子、セシェの生まれだったでしょ?? 野菜を作ることには慣れているから、何か手伝わせて欲しいって言ってきたのよ」
「そうか…………」
「この前、アズールちゃんも言ってたけど、あんた、たまには町にデートにでも連れてってあげなさい!!」
「でっデート!! ーーーーそんなことくらい分かっている」
取り乱していることが分からないように、取り繕った笑顔を浮かべたカターシャ。
(俺、なんで意識しているんだ……)
「カターシャ、そこのお水持ってきて!!」
「うわっ!!」
いきなりサリーに呼ばれたもんだから、カターシャは驚いたようだ。
「あら、王子様、何をびっくりしているんですか?? お姫様がお呼びですよ??」
「はいはい」
サリーに呼ばれてカターシャはジョウロいっぱいの水を、サリーの元へ持っていった。
「ここにかければいいのか??」
「うん、よろしく!!」
そう答えるサリーは太陽に照らされちょっとだけ顔を赤くしていた。他のうさぎたちともいつの間にか打ち解けており、ニコニコ笑っている。そんな様子を見ていると、自然と笑みが溢れてくるカターシャ。
「いい気分転換になりそうだな」
遠くの方ではうさぎが何やら集まって話をしていた。
「カターシャ様!! ちょっとこっちへきてください!!」
うさぎがカターシャを呼んでいる。それもそのはず、城の人間が畑にやって来ることはそうそうない。力仕事といったらクマのボトだが、暑い太陽の下働くことは苦手のようで、手伝ってくれないそう。
時々王様が様子を見にやって来たり、町のリコリスが二週間に一度くらい手伝いにきてくれるくらいだ。
うさぎたちにとってカターシャは、久しぶりの男手だから嬉しくって仕方ないらしい。
「サリー、ちょっと行ってくるから」
「はーい、気をつけてね」
「……あなたたち夫婦みたいね!!」
エルに言われて、カターシャは真っ赤になっている。
「…………」
(今回はカターシャ否定もしないし、何も言わなかったな……そうだよね。こんな私と夫婦だなんて言われたら嫌だよね……って何私、夫婦になりたいみたいじゃん!! やだやだ今のことは忘れよう……)
ニンジン畑から少し森へ入ったところから声がする。
「よし!! こっち終わったぞー」
何故かカターシャ以外に十人ほど隊員さんがやってきていた。
「騎士団の皆様、ありがとうございます!!」
うさぎたちが一斉にいった。みんな喜んでぴょんぴょん飛び跳ねている。
「みんなどうしたの??」
何かの騒ぎかと思ってニンジン畑から来た私とエル。
どうも、うさぎだけでは力が足りず畑を耕すことができなかったらしい。カターシャにそのことを話したら、騎士団の隊員を呼んできて、みんなで畑を耕してくれたそう。
うさぎさんが興奮しながら教えてくれた。
「俺らもここの野菜食べてるからさ!! 手伝いくらいはさせてくれよな!!」
隊員たちが口々に言う。
「みなさん…………ありがとうございます」
うさぎさんたちは本当に嬉しそうだ。いつもの真っ赤な目をさらに真っ赤にして泣いているうさぎもいる。
それを見ていたら私も自然と笑みが溢れた。ふとカターシャと目があったのだが、数秒見つめあってしまい、目を逸らした。
「サリー、何見つめあってるの??」
(ギクっ見ないで…………エル、私もよくわからないから…………)
「よし、お前ら仕事に戻れー」
「はい!!」
カターシャの一声で皆が畑から城へ戻り始めた。うさぎたちは、ぴょんぴょん跳ねながら隊員を見送った。
「よし、サリー戻るか」
「うん!! じゃあね、エル!!」
「カターシャ本当にありがとう助かったわ〜サリーもありがとうね。全部あなたのおかげよ。また遊びにおいで!!」
ーーーー城に帰る道中こんな話をした。
「カターシャ、あなたいい人だったのね!!」
「なんだいい人だったって、前は悪い人だったみたいじゃないか」
「ううん、そうじゃないけど…………動物思いの優しい人なんだな〜って思っ…………うわっっっ!!!!」
道に小さな穴があるのに気づかず私は躓いた。倒れるっと思った瞬間
「危ないっ」
カターシャの大きな手が私の腕を掴んだ。
「わっ」
カターシャの胸に収まる私。抱きしめられている形になっている。
「ご、ごめん。ありがとう」
そう言ってカターシャから離れようとするが、力強くホールドされており彼の胸から離れられない。
「ちょっと苦しい…………」
「あっすまん。大丈夫か??」
心配そうに私の顔を覗き込むカターシャ。
(だから、近いって…………)
「よし、行こうか」
何事も無かったかのように2人で城に向かった。
(サリー思ったより細かったな…………あいつちゃんとメシ食ってるのか…………)
サリーの細さに少し心配になったカターシャ。お城が見えて来た頃、思い出したかのようにカターシャが口を開いた。
「サリー明日用事あるか??」
「ううん、昼食が終わったらいつも通り休みだよ」
「そうか、なら町へ行かないか??」
「えっ本当に!! 私、服を買いに行きたくって!! だけど1人で行くのはどうも心配だったから…………だから…………でも本当にいいの?? 忙しいんじゃない??」
「いや、俺も実は明日は昼から暇なんだ。丁度よかった」
カターシャは少し前に、アズールからお願いされていたらしい。
『一緒に町へ言って欲しい』と。
(そういうことだったのか、サリーは服が欲しかったのか…………)
やはり女の子だな、とサリーのことを可愛く思ったカターシャ。彼の隣には、鼻歌を歌いながらルンルンと気分が良さそうに歩くサリーがいた。
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