第14話:サリーの憂鬱

 二人の間に流れる変な空気感を変えたくてサリーは話しかけた。


「ところで……カターシャ……朝は早いのね」


「ああ、騎士の稽古があったからな、それはそうと朝食の準備を一人でやっているのか??」


「いや…………それが…………」


 サリーはカターシャにボトが来ないことを話した。


「あいつ寝坊か、全くいつまで冬眠気分が抜けないんだ。よくあるんだよ……すまんが許してやってくれ」


 カターシャはどことなく優しそうな顔だ。


(きっとここの人たちの事カターシャは大好きなんだろうな)


「これ全部サリーが作ったのか??」


「そう。とりあえずあるもので色々作ってみたんだけど…………」


「よくやった」


カターシャの手が私の頭を撫でる。


「ちょっと…………」


 恥ずかしくなって俯いているとカターシャが聞いてきた。


「ははっ、変なやつだ。手伝うことはあるか??」


「からかわないでよ!! そうだね…………鍋が重すぎるから代わりに運んで欲しいのだけど、いいかな??」


 不意に私は上目使いになってしまったらしい。顔を赤らめたカターシャは何も言わず鍋を運び始めた。


「何か気に触るようなことしたかな??」


 ふと時計を見ると時計八時を示していた。


「よし、そろそろパンを出そうーーーーうん。いい感じ!!」


 カターシャに取ってもらったカゴにパンを乗せ、食堂に運んでいるとゾロゾロと騎士団の隊員さんが入ってきた。


「団長!どこ行ってたんすか!! いくらお腹がすいたからって、先に行くのはずるいですよ!!」


「すまん。今日はボトがいないみたいでな。少しだけ手伝いをしていたんだ」


「また冬眠っすか!! ボトのやつ…………」


「ーーーーこの方が噂の、サリーさん」



「うっ噂?やめてやめて、変なこと言わないで…………」


 恥ずかしがっていると、次々に隊員たちが自己紹介をしにくる。


「初めまして!! 俺は一番隊隊長のボールといいます!! よろしくっす!!」


「サリーさん俺はリョウです!! よろしくお願いします」


「初めまして!!自分は…………」


「お前ら自己紹介は後ださっさと食べろ」


「「「「「はいっ!!!!」」」」」


(なんだこの忠実感は。みんな団長のこと慕っているんだな…………)


「今日は野菜のスープに、焼き立てのパン、キッシュとお野菜を準備しました。たくさん食べて下さいね」


 犬のように食事をする隊員たちが可愛くってクスクス笑っていると


「サリー。疲れてないか??」


 カターシャから一言。


「大丈夫、ありがとう」

 

 そう私は言い返した。


「もしかして、団長、サリーさんのこと…………」


ヒューーーードン


 ーーーーーー団長の手から火のような物が出てきて、隊員の食事めがけて飛んでいった。


「ポール。お前のパン、全部焼くぞ??」


「分かったっす!! すいませんっす!!」


「あははっ」

 みんなが面白すぎて思わずわらってしまった。


「サリーさん!! めちゃくちゃ美味いっす!!」


「よかった。そう言ってもらえて嬉しい」


 隊員たちを軽くごまかし、私は調理場へと逃げた。


「全く…………あの人たちはカターシャのやること全てに反応するんだから。それにしてもこの町は美形が多いわね…………」


 ジンさんをはじめ、この城にはスラッとしていて、目がくっきりしていてモデルですか?という人が多い。隊員さんもみんなそうだ。目の保養になるわ〜と一人で喜んでいるサリーだったが、声に出てるわよとゾーイさんに叱られる始末。


……………………


 それからというもの、ボトの朝寝坊はしばらく続き、私はもう朝食作りの担当になった。その代わり、夜ご飯はボトが調理をしてくれることになったから、私の仕事は昼食を作ったら終わり。昼食作りをした後ほどんど近くの畑に足を運ぶようになった。


 今日は何故かカターシャも一緒だ。


「ーーーーサリー、これから用事あるか?」

 昼食を食べにきていたカターシャがこんなことを言ってきたのだ。


「あっ今日は畑のうさぎさんたちと約束があって…………」

 そう答えたのはよかったんだけど。


「じゃあ、俺も行く」


ーーーーとういうことで今一緒に畑に向かっているのだ。


 カターシャの背は高い。並ぶとさらに見上げる形になる。


「今日は仕事は休みなの??」


「いや、夕方から会議があるんだがそれまでの時間、暇なんだ。サリーに会いたいと思って」


「…………(さらっと言わないでよそんなこと、私が恥ずかしくなっちゃう)」

 実はこのところ、カターシャには毎日のようにあっている。そのたびにジンさんや、ゾーイさんからの冷やかしに会うのだが。


「ん?? どうした??」


「いや、なんでもない!!」


「ははっ相変わらずお前は変なやつだな!!」


「うるさいっ!!」


  早足で畑に向かう私をカターシャは追いかける。



「あの二人、なんだかんだ仲良しだね〜」


 そんな独り言がアズールの口から漏れた。


「そうね。けれどまさかカターシャがサリー様に恋心を抱くとはねぇ…………」


「ゾーイもそう思う?? よかった…………サリーには幸せになって欲しいんだ」


「ええ、好きよあれは。カターシャなら大丈夫だと思うわ」


「そっか。よかった…………」


 サリーとカターシャの姿を遠くから眺めるゾーイとアズール。2匹の尻尾は嬉しそうに、ふりふりしていた。

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