第12話:懐かしい記憶

「よしっ、まずは何を作ろうかな…………」

(朝はみんな何を食べるんだろう、野菜が沢山あったからスープにしようかな。主食はパンでいいか…………)


 ぶつぶつ独り言を言いながら私はパンの材料を集めた。


「よし、あとはこれを袋に入れて…………アズール!! あとよろしく!!」


「分かった〜」


 トラがパンを捏ねているのは不思議な光景だろう。こねるというかひたすら袋に入った材料を潰している。


材料は全て袋にまとめてあるから、あとは袋の上から潰せばパンの生地が簡単にできる。うどんのような感じだ。これも旅の途中で閃いたこと。


「あの時は大変だったよね。100人分のご飯を作ったんだもんね」


「そうそう、懐かしいな〜」


 私たちがここにくる前滞在していた町でのこと。そこで旅の資金を集めるためにキッチンを借りてパンを作って売っていたんだけど、パン百個の注文が入って……アズールと徹夜でパンを作った時のことを思い出した。


 懐かしい思い出を噛み締めながら、私はスープの準備に入った。野菜庫を見るとたくさんの種類の野菜が。そういえばここには動物も食事に来るんだっただよね。


「野菜たっぷりの方がいいよね!!」

 私は人参、トマト、玉ねぎ、ほうれん草、かぼちゃ…………たくさんの野菜を切って巨大な鍋に放り込んだ。味付けはもちろんハーブとお塩。そして、私が持ってきたスパイス。


 あとはグツグツ煮るだけだ。


 アズールの方を見ると楽しそうにパン生地を潰している。


 まだ時間の余裕があるから、ちょっとしたおかずも作ることにした。卵がたくさんあったから、キッシュにしようかな…………玉ねぎとズッキーニを細かく切り、大きな鍋で炒めた。


 いい香りが食堂に広がる。ついでにジャガイモも蒸しちゃおっと。


 そんなことをしているとアズールの仕事が終わったみたいだ。


「ありがとう。じゃっこれを切り分けてオーブンに入れよう!!」


 あとは私の仕事だから、アズールは外の様子を眺めていた。



「んっ重い。もしかして、作り過ぎちゃったかな…………」


 大きなテーブルに粉をひき、生地を広げる。多かったら昼も食べればいいか〜と思いながら切り分ける。そして、オーブンに入れて順番に焼くことにした。


「さすが、お城の調理場!! オーブンが5つもあるなんて〜快適快適」


 調理場の設備に感動しながら調理をしていた。


 キッシュを作り、スープに味をつけ、ジャガイモをバターであえてもまだ時間があったから人参ドレッシングの野菜サラダまで作ってしまったサリー。


 もう少しで八時か…………そろそろパンが焼き上がるころだと思い、サリーはパン用のカゴを探した。


「あっ…………あんな所に」


 棚の一番上に置いてあるカゴを取りたくて、一人で手を伸ばしている。


(あ、全然届かないや……)


 あと十センチくらい先にあるカゴ。近くの椅子を持ってきて登って取ることにした。


「これなら楽勝ね」


 サリーは無事にカゴを取ることができたみたいだ。


 しかし、降りようとした次の瞬間……


「あっ、落ちる……」


 全ての動きがスローモーションに見えた。そう、サリーは椅子から落ちているのだ。


(あれは……)


 落ちる瞬間、サリーの元へ走ってくる人がはっきりと見えた……


「危ない!!」


 カターシャだ。椅子から落ちるサリーを見ると全速力で走って来て彼女を受け止めた。


 ぎゅっとからの大きな身体がサリーを包み込む。


「うわっ!!」


「いってぇ」


 バタバタっと地面に倒れ込む音がした。


(何でだろう。全然痛くない)


 サリーはカターシャの上で抱き抱えられるようにして倒れている。カゴも地面に落ちているようだ。


「カターシャ、ごめんね……私の下敷きになってくれて。痛かったでしょ??」


 サリーは瞑っていた目を開けた。


(って、近い。息がかかりそうなくらい近いよ……)


 カターシャに抱きしめられた腕が想像以上に強くてなかなか抜け出せなくて、数分抱き合っているかたちになってしまった。


「カターシャ、離して……」


「ああ」


 緩まる彼の腕。


 上半身を起き上がらせ、カターシャに馬乗りになるサリーと、いきなり真っ赤な顔になるカターシャ。


「……とにかくお前、俺から降りろ」


「ああ、そうだよね ごめんね!!」


 そう言いながら立ち上がるサリー。


(カターシャ、身体分厚かったな〜筋肉質なんだな……いかんいかん、変な妄想が)

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