第10話:衝撃的な出来事はすぐそこに

 食堂から少し歩いたところに私の部屋は用意されていた。ベットと服かけ、ドレッサーが置いてあるシンプルな部屋。奥にはシャワールームがあり不自由なく過ごせそうな空間があった。


「サリーちゃん、ここがあなたの部屋よ。私とボドは城の外に家があるから、また明日ね。ゆっくり寝なさい」


「はい、ゾーイさんありがとうございました」


「アズールもお疲れ様」


 サリーは不思議とアズールから「じゃあね」という言葉が聞こえてきた気がした。


 その日は疲れ切っていたのだろう。サリーはシャワーを浴びてすぐさまベッドに横になった。寝るときはアズールも一緒。いつもアズールのお腹を枕代わりにして眠る。


「アズール…………私はこのお城でうまくやっていけるかな…………」


 この二日間を思い出しなんだか心細くなったサリーは小さく丸まった。


「サリーなら大丈夫だよ〜」


 優しい声でアズールが言っている。


(ーー言っている?


ーーーーアズールが言っている?


ーーーーーーいやいや、ありえない。


ーーありえないよね?)


「って、え!!!! アズール話せるの!! ちょっと知らなかったよ!!」


 城に来てさらに衝撃的な事実が発覚した。アズールは話せる動物だったと言うことだ。さっき、ボトがこの世界には話せる動物が存在することを教えてもらっていた。生まれつき話せる動物もいるし、途中で覚醒して話せるようになる動物もいるらしい。


「ごめんね、サリー。実は前から話せてたんだけど、伝えるタイミングを逃しちゃって。ごめんよ」


 アズールは思っていたよりゆるい、優しい声だった。尻尾をパタパタ振っている姿が可愛い。


「さっきゾーイにね、僕が話せることを内緒にしているっていったら、早く言ったほうがいいって教えてもらったから今言ったんだ。本当にびっくりさせちゃってごめんね」


「ううん。大丈夫だよ、でもびっくりした…………ってことは私が今まで話しかけていたことも実は全部理解できていたの??」


「もちろん!! 分かっていたよ全部、全部ね。青い森でであった時からのことは全部知っているよ」


「そっか」


 サリーは、この城に来るまでの全てのことを想像していた。


 母を思って毎晩のように泣いていた時、何も言わないけどそばに居てくれたアズール。

 盗賊に襲われそうになった時に守ってくれた時のこと。サリーとアズールの思い出が沢山蘇ってきていた。


(アズールの存在は家族以上のものだったんだのかな……)


「アズール助けてくれて本当にありがとう」


 ぎゅーっと抱きしめる。


「いいんだよ。僕がいることはね、サリーのお母様と約束したことなんだから」


「そうだったんだ…………」


「サリー、大丈夫だよ」


 アズールの言葉には重みがあった。


「…………ところでさ、アズール男の子だったんだね」


「そうだよ!! サリー全然気づいてないから僕の前で全裸になってたよね…………変な人が見ていないか心配で仕方なかったよ」


「わーーーー恥ずかしい!! やめてよもう!!」


「ところでサリー、あれから魔法は使ってないの??」


「えっどうしたの急に??」


(私は何故か魔法が使える。訳あって昔の記憶が途切れとぎれなんだけど、何故か魔法という言葉は強烈に覚えているんだよね)


「魔法は旅で使った時くらいで、日常生活では使ってないよ…………って近くにいるから知ってるよね」


「少しぐらいやってみたらいいのに。僕見たいな〜この前みたいにサリーが魔法陣描いてるところ」


「気が向いたらね」


 アズールと旅をしている最中に何度か魔法陣を描くことはあった。川に流された村人を助ける為とか、井戸を作るために水源を探す為とか。コツを掴めば誰でもできるようなとても簡単なもの。

 あまり覚えていないが何故か使えるのだ。


「サリーが自称魔法使いになっても、僕は付いて行くよ〜」


「ありがとう、アズール」


 その夜サリーたちは、楽しく会話をしていて気づいたら眠っていた。


 その時はサリーの力がとてつもなく巨大なものだとは、誰も知らなかった。


 サリーとアズールが仲良く眠る中、廊下では何やら話し声が。


「あら、カターシャ、ジン、お疲れのようですわね」


「ゾーイ様、お疲れ様です」


 丁寧に挨拶をするジン。


「…………ゾーイ、サリーはどうだった??」


「あの子なら大丈夫ですよ。高貴なトラが守ってくれている。ボトとも打ち解けていたわ。私の記憶が正しければ、私の古い友人の娘よ。魔法使いのね……」


「やはりそうか……」


「にしても。なーんであんたはサリーちゃんを連れてくるのかしら〜??」


「いや、なんでもないんだ!! ほんと!! 困っているようだったから連れてきただけだ!!」


 何故か焦っているカターシャ。


「カターシャ様は素直じゃないんですよ、気に入ったと言えばいいのに」


 ジンがクスクス笑いながら言う。


「ふ〜ん、気に入ったのね〜」


 ゾーイはなんだか楽しそうだ。


「明日からサリーのことを頼んだぞ」


 これ以上この場にいたら根掘り葉掘り聞かれそうで、カターシャは廊下を後にした。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る