第9話:仕事仲間

「さっサリーちゃん、まずはその魚を冷蔵庫にしまってもらおうかしらこっちよ」


 シマリスのゾーイに案内されサリーは奥の調理場へ入る。


「えっ…………今度はクマですか…………」


 調理場の椅子にクマが腰掛けている。首にはバンダナのようなものを巻き、白いジャケットを着ている。コックらしき風貌のクマ。


「サリーちゃん、この子はボトよ」


「は、初めまして。サリーです。こっちはアズール」


「よっ!! 俺はボト!! よろしくな!!」


(クマが喋ってる……)


「サリーちゃん。ボトはね、見ての通り喋るクマよ。ずーっと昔から働いてくれているんだけど、最近提供する食事の量が増えてね…………困っていたところアズールの計らいでサリーちゃんがきてくれたって訳よ。いきなり喋る動物に会うなんてびっくりしたでしょ?? ごめんなさいね」


 ゾーイが申し訳なさそうに話す。


「そ、そんなことないです!! 私動物好きですし、話す動物に会えるなんて夢にも思ってなかったからちょっと嬉しいです!! あまりお気になさらないでください…………」


「サリーは噂通りの子なんだな!!」


「う、噂!!」


「そうさ!! 女嫌いのカターシャが女の子を連れてくるなんておかしいだろ?? 腹の据わった子なんだろうなと話してたのさ」


「そうでしたか」


「私たちも可愛い子が入ってくれて嬉しいわよ。食堂が賑やかになるわねぇ」


 ゾーイはとても嬉しそうだった。


「おっと、とりあえずサリーお前の持ってる魚はそこの冷蔵庫だ!!」


「はい!!」


 倉庫のような大きな冷蔵庫を開けるとそこには、色々なお肉や魚、お野菜に、カラフルなフルーツ、チーズや牛乳、見たことのないものまで所狭しに並んでいた。


「綺麗な野菜だ…………そして、冷蔵庫広いですね」


「っだろ!!これは俺が特注したスーパー冷蔵庫なんだ。隣は冷凍庫、間違えて閉じ込められないよう気をつけろよ!!」


「はい!! ボトさんの身長より大きいなんて、こんな冷蔵庫初めて見ましたよ」


 サリーとボトが盛り上がっている時、アズールとゾーイはまたまた何やら話し込んでいた。


 そんなことお構いなしにボトは話を続ける。


「サリーお前そのボトさんってやめろ!! ボトでいいし、敬語じゃなくていい、クマ的に言うとどうも恥ずかしくってな」


(クマ的?? クマ的ってなんだ)


 サリーは思わず笑ってしまった。


「そうですか?? でも…………」


「いいからいいから!!」


「ーーーーわかった、ボト…………??」


「よし!! いいだろう!! 軽く説明だ。とりあえず調理は俺がいつもやっている。だからサリーには補助を頼む。切ったり、盛りつけたり、表に並べたり!! 腹が減ったらここにあるものなんでも食べていいからな、適当にやってくれ!!」


 ボトの説明は大雑把すぎる。


(見て覚えろという感じなのね)


「分かった!! 明日からだね、ちなみに、朝は何時から準備するの??」


「五時からだ!!」


「なんだ、思っていたより早くないのね」


「そうか?? まあ、ここで食事をとる奴らは朝、団長の稽古を受けてからくるからな…………朝食は大体八時からスタートだな」


(団長の稽古…………団長ってカターシャだったよね)


「十二時から昼食、俺らも休憩して夕食は十八時からだな。大体三時間前から準備をすれば間に合うから、安心しろ!!」


「…………大変そうな予感しかしない」


「まあこれからやりながら覚えてくれ!!」


「分かった。ねぇねぇボト?? ここは一階でしょ」


「ああそうだな」


 サリーはこの食堂に入ってきてからずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。


「あそこにある大きな扉はなに??」


「よく聞いてくれた!! これはだな…………付いてきて」


 大きな扉というのは、サリーたちが入ってきた入り口の向かいにある扉のこと。どうやら外につながっているよう。


 サリーはこの扉の先にどんな景色が広がっているのか、ずっと気になっていた。

 

 そんなことを考えていると扉の前に到着し、ボトが扉を開ける。大きな花の模様が入った扉、開けるとそこには広い町へと続く立派な一本道が続いていた。


「おぉぉぉ…………すごい、整備された綺麗な一本道」


 隣にはハーブ畑が広がっていて、作業をするうさぎが五、六匹いた。


 水やりをしているようだ。


 少し遠くにはニンジンや、キャベツが植っている畑が見える。いつの間にか動物が話すということに違和感もなくなり、これからどうなるのかウキウキしているサリーだった。


「あいつらが作る野菜は絶品なんだ!! 甘くて美味しいんだぜ〜」


「ふふっ早く食べてみたいな」


 うさぎが野菜を育てているなんて、絵本の中のようなシチュエーションに思わずほっこり、昔いた町もこんな感じだったっけと思わずサリーから優しい笑みが漏れた。


「お前、可愛い顔して笑うじゃねぇか!! 団長が気にいるだけあるな!!」


 はっはっっは〜と笑うボトの力強い腕がサリーの背中をドンっと叩いた。


(痛い…………クマ力強すぎだ)


「まあここの食堂は城の奴らじゃなくても利用できるからな!! 動物も商店街の奴らも来るから面白いぜ〜」


「そうなの?? 動物もこの食堂でご飯食べるんだ……」


「そうさ、面白いだろ??」


 後から分かった話、この城には、街の人たちと城で働いている人が交流できる場所がない。交流の場を作りたいと思った城の幹部たちが、この場を作ったらしい。

 

 みんなで自由に食事をしたり、あわよくば食材も分けてもらえるし一石二鳥の交流スポットなんだぜ!と得意げに話すボト。

 クマ曰く交流スポット案を考えたのは団長なんだとか。


「城と街をつなぐ特別な場所なのね、ここは…………」


「ははっ!! 深い顔してどうした!! とりあえず今日は疲れているだろうし早く寝たほうがいい。ゾーイ、そろそろサリーの案内をしてくれ!!」


「ええ!! ごめんなさいね、アズールと話が立て込んじゃって。サリーちゃん行こうかしら。あなたの部屋はこっちよ」


 ボトに夜ご飯用のサンドイッチをもらい、サリーはアズールと食堂を後にした。

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