不思議な世界

第8話:新しい仕事場

 門を抜けると、さまざまな武器を売る人、野菜やフルーツ、スパイスを売る店が所狭しに並んでいる。煌びやかな服を売る女性や、お酒を売るおじさん、大きな箱をラクダに引っ掛けて歩く人もいた。近くには港も見える。


「海があるんだ……」

 

 久しぶりの潮の匂いにサリーは内心喜んでいた。



 行き交う人を見ながらカターシャは呟く。


「相変わらず夕方っていうのに、今日も活気がいいな」


「カターシャ!!」


 どこからか声がする。

声の方を見るとタンクトップにムキムキの体のお兄さんが立っていた。


「売れ残りの魚だタダで持っていけ!!」


「ほうほう。売れ残りだというのにいい色だ、日持ちしそうだな。食材は全てサリーに渡してくれ」


「こいつは??」


「ああ、新しい料理人だ、よろしく頼むぞ」


(り、料理人?なんの話だ)


「そうかそうか。失念を。俺はリコリスだ!この辺では一番の漁船を持っててな、朝から晩まで漁に行っ…………」


「リコリス様、その辺で。また落ち着いたらきますので。お魚は私がお預かりします」


「あっっはっは!! ジン、申し訳ない!! ついつい喋っちまって。

じゃあな、じょーちゃん!!」


「いえ。ありがとうございます」


 不思議なリコリスさん別れたあと、急足でカターシャの後についていった。


 広い道を進んでいくと目の前にお城が見えてきた。


「大きなお城だね」


「お前の仕事場は今日からここだ」


「えっ?? 私お城で働くの??」


「まあついてこい」



「ーーーーサリー様、私は一旦ここで。ラクダを戻してきますので。この魚をお願いしてもよろしいですか??」


「あっはい。ジンさん、本当にありがとうございました」


「では。また明日お会いしましょう。困ったことがあったらなんでも言ってくださいね」


 魚をサリーに預け、ジンはどこかに行ってしまった。


「お前、疲れてないか??」


 まさか彼から誰かを気遣う言葉が出てくるとは思わなかったサリー、驚き固まっていると、カターシャは笑い出した。


「はっはっは!! 俺だって少しくらい心配はするさ」


(カターシャが笑うなんて聞いてない。しかもめちゃくちゃ綺麗な顔だ)


「わ、私は大丈夫よ!!ーーーーってちょっと待って!! 早く行かないでよ、私魚持っているんだから」


 カターシャは照れてしまったのか早歩きで進み出した。向かうその先には、大きな扉が。


「ーーーーここは??」


「食堂だ。明日からここで働いてもらう」



 大きな扉を開けるとそこには…………


「うっそ。何この広い場所」


 大きな机が二十ほど並べられていて、沢山の椅子が置いてある。



「ゾーイ!! どこに隠れている?? サリーを連れてきたぞ」


 カターシャが大声で呼ぶと、奥から声がした。


「隠れておりませんわ、今行きます」

  

 ーーーー声はするけど人影がない。


「初めまして、サリーちゃんの話は小耳に挟んでおります。ゾーイですわ」


「えっ?? どこにいるのゾーイさん??」


「サリーちゃんこっちよこっち!! 下ですよ!!」



 下?言われるがまま目線を下に下ろすと


「ーーーーえっ?? リスだ」



 サリーはパニックになりアタフタしていた。リスが何故か喋っているから。しまいには夢かと思って自分の頬を叩く始末に。


 それを見てカターシャは腹を抱えて笑っている。


 そして、一言こう放った。


「リスじゃない、そいつはシマリスだ」


「リスか、シマリスかなんてどうでもいいのよ!! 喋ってるなんてこと本当にあるんだ。お母様の昔話で聞いたくらいだったのに」


「そうだ、この町は動物と人間が暮らしを共にしているんだ。詳しい話はゾーイに聞くといい。とりあえず仕事は明日から、調理場のことは全てゾーイに任せてあるから教えてもらえ」


「はい」


「それじゃ俺は職務があるからこれで」


「ありがとう」


「おう」


 カターシャはサリーの頭にポンと手を置き


「また明日」

 

 優しくささやき食堂から出て行ってしまった。


(なんか今のすごいキラキラしていた、王子様みたいだ…………)


「そうよ、彼は王子よ〜まぁ正確には王様の弟さんで、騎士団の団長ね」


「えっゾーイさん!! 今の声聞こえていたんですか??」


「ええ。全部聞こえていたわ。それにしても可愛いトラさんだこと」


「ゾーイさん、その子はアズールと言います」


「初めましてアズール」


 大きなトラに近づくシマリスを遠目で見ながら、アズールがゾーイさんを食べてしまわないか内心ヒヤヒヤしているサリー。



「グルグルグル」


「そうね。分かるわ〜大変だもの、私たち」

(二人?? 二匹と言った方がいいのか。何やら話し込んでいるようだ)


 しばらくそうしているものだったから、サリーは食堂の中を見て回った。


  食堂に置いてある沢山の椅子と机はいたってシンプル。せっかくなんだから模様とかあったら可愛いのに、と思っていた。


 食堂の大きな窓からは町が見渡せる。広い大きな町。


(私はあの門から入ってきたんだね。ここまでよく来れたよ、ほんとよく頑張った……)


「カターシャはここの王子って言ってたっけ…………実はすごい人だったんだな」


 サリーは椅子に腰掛けこの二日間で起きたことを思い出していた。



 その頃ゾーイとアズールは私の話をしていたらしい。


「ーーーーアズール、サリーちゃんをよく連れてきてくれたわ。ありがとう。お母様にそっくりね」


「グルグルグル…………」


「ーーーーそう。カターシャがサリーちゃんの過去を知った?? 仲良くなるのが早いわね、若いって素晴らしいわ」


「グルグルグル…………」


「ーーーーなるほどね、任せてちょうだい」


「グルグルグル!!」


 サリーは遠くから二匹を見ていたが何を話しているかさっぱりわからなかった。


(けれど……確かに、アズールは最後ありがとうと言っていた。なんで分かったんだろう)

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