第3話:料理の魔法

 道中はとくに会話もなく、空からくる暑い太陽の音が鳴り響いた。時折カターシャと長身の男が何やら会話をするくらい。



 そろそろ当たりが暗くなる頃。


「今夜はここで朝まで休むことにしよう」


「そうですね」

 

 カターシャは歩みを止め、長身の男は荷物を下ろし始めた。


「グーーーー」


 沈黙が流れる中、サリーのお腹が大きな音を立てて鳴った。


「そうだったな、サリーたちは何も食べてないんだったな」


「大丈夫です一晩くらい」


「そう言わず、とりあえずこれだ」


 そういって麻の袋から出してきたものは、なんと鶏の生肉だった。


「火はないし、フライパンも…………」


 サリーたちが持っていたフライパンは砂嵐で飛ばされてしまっているから調理器具は何もない。道具がないと何もできないなんて悲しいものだ。


「こちらをお使いください」

 長身の男が出してきたのは年季の入った小さなフライパンと、木の枝。そして芋みたいな野菜。


(作れないことはなさそうね。まぁあとは火があればってところか)


 サリーはフライパンの上で持っていたナイフを使いお肉と野菜を切り分け、カターシャに見つけてもらったスパイスで味をつけた。


「あとは火ね…………」


「サリー、木をここにまとめて」


 カターシャが言った。


「分かった…………」


 木の枝を組み立てると、カターシャが手をかざした。


 (一体何が始まるの??)


 すると、なんということだ。手をかざした木から火が出たのだ。

火は勢いよく燃え出す。


「すごい!! カターシャ魔法使いなの??」


「いや。ただの術だ」


(魔法……か。なんだろう魔法という言葉に何か引っかかるものがあるんだけど……なんだっけ。思い出そうにも思い出せないや)



 カターシャの術を見た長身の男は近くから木を拾ってきて、焼べた。


「カターシャ様、火の使い方が安定してきましたね」


「まだまだだ。調節するのは難しい」


「あなたたちは一体何者??」


「いいから早く焼け。腹が減った」


「はい」


 火の上にフライパンを置き、お肉を焼き始めた。いい香りがする。


 お肉の香りにつられてアズールも寄ってきた。


「アズールもう少し待ってね。」


「サリー様、ご挨拶するのが遅くなってしまいました、私ジンと申します。よろしくお願いしますね」


 長身の男は自らをジンと名乗った。少し変わったフレームの眼鏡をしていた。


(金でできているのかな?キラキラしている)


「サリー様とアズールさんは仲がよろしいようですね。兄弟のように見えますよ」



「私の唯一の家族ですから…………ね。さっ!! お肉がいい感じに焼けましたよ!! みんなで食べましょう」



 プレートに取り分け、皆に配った。


「さすが料理人、うまそうだな。」


「サリーさん、頂きます。」


 そういって二人は重そうな帽子と、鼻から下を覆っていた布を取り外した。


(びっくり。二人ともイ……イケメンだ)


 カターシャは綺麗なシルバーの髪に、ブルーの瞳がよく似合う。


 ジンさんは長い赤い髪を後ろでまとめ、メガネの奥は黒い瞳をしていた。月の光が二人を綺麗に照らしている。


 ふとカターシャと目があった。


 するとニコッと笑って一言私に向かってこう呟く。


「これうまいな」


(ズッドーーーーーーン、爆弾級のスマイルが私に降ってきた。何この人笑うの?? イケメン過ぎる)


「サリー様、料理はどちらで勉強されたんですか?? 初めて食べるお味です」


 ジンが前のめりになって聞いてきた。よっぽどお肉が美味しかったのだろう。


「私の母に教わったんです…………お肉の切り方から野菜の切り方、スパイスの調合方法まで全部」


「そうでしたか。とても美味しいですよ」


「ありがとうございます。まだありますから沢山食べてくださいね!!」



 サリーとジンの会話をカターシャは静かに聞いていた。



「どうぞ。はい、アズール」


 トラはグルグルグルと喉を鳴らし、お肉を食べた。


「サリー、お前食べないのか??」


 カターシャが聞いてサリーにきた。


「私は大丈夫!! アズールに沢山食べて欲しいから!!」


「そうか、じゃあこれ食べろ」


 そういってカターシャは自分の食べかけのお肉をサリーに差し出してきた。


「いいですいいです!! 食べてください!! 私は本当に大丈夫ですから…………最悪倒れてもアズールが運んでくれるし」


「いいから口を開けろ!! お前が倒れたらどうするんだ!!」


「そ、そんなぁ」


 お肉を箸で掴み、そのままサリーに差し出すカターシャ。


 半泣きになりながら、仕方なく口を開けお肉に被りついた。


「ーーーーうん!! やっぱり私の作る調理は美味しいわね!!」


「ふっ!! うるさいやつだ」


(急に笑わないで…………カッコ良すぎるから…………)


 サリーの心の声なんてカターシャには聞こえていないけど、なぜか隣でジンがクスクス笑っていた。


「ジンさん、どうしたんですか??」


「いや、カターシャ様がいつにもなく笑うものですから」


「おい!! ジン!! 余計なことを言うな」


「申し訳ない、失礼しました…………クスクス」


「全く、早く食べてラクダの様子を見てきてくれ」


「ええ、分かっていますよ」



(この二人は、兄弟というかなんというか、仲良しね)


 久しぶりにお肉を食べれて大満足のサリーはアズールに抱きついた。


(フラフワで可愛い私のトラ〜癒される)


「アズール、今日は砂まみれにしちゃってごめんね。帰ったら綺麗にブラッシングしてあげるから」


 アズールはグルグルグルと喉を鳴らした。


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