第43話 外伝◆暗黒竜その4
◆カイオス王国 150年前
城内
とある寝室。
たくさんの人々が、ベッドに集っている。
ベッドには、年老いた老婆が最後を迎えようとしていた。
すでに老婆は意識がなく、部屋は悲しみに包まれていた。
バターンッ、「サリー!!!」
突然ドアが激しく開かれ、年若い黒髪の女性が駆け込んできた。
「お婆様?!」、「曾お婆様!」、「曾曾祖母様?」、「え?あれが王太后さまのお母上?、若くない?」、「はあ?あんな娘が王太后様の母上?!」、「ま、待て、黒髪だ。間違いない。国母様だ」
質素なワンピースを着た黒髪の娘、ベッドに駆け込んで老婆の手を取った。
「サリー、サリー、サリー!死ぬな!おれを、おれを置いて逝くな。お願いだよ。死なないでよ」
娘は、ポロポロと涙を流し、老婆の手を握りしめる。
その涙が老婆の手に落ちた時、奇跡が起きた。
老婆の瞳が、ゆっくりと開かれたのだ。
「サ、サリー?サリー!」
「お母様?!」、「「「お婆様!」」」
黒髪の娘と、豪華なドレスや軍服のようなものを着た年配の人々が叫ぶ。
ポロポロと泣く娘を見る老婆。
『お、お母様、悲しまないで……サリーは、お母様の子で幸せだったんですから。どうか、末長くこの国と子供達をお願い…します』
「おれの産んだ子は、お前で最後だ。お前まで逝ってしまうのか?」
『もう、97です。長生きな方ですよ。あなた達、これからも、国母様をお願いね。大事な私のモモ母さ……』
「サ、サリー?、サリー、サリー!ああああ!?うわあああん!うわあああん!う」
◇◇◇
サリー▪フォン▪カイオス
孤児院や病院建設に尽力し、❪カイオスの良心❫と言われていた。
享年97歳、暗黒竜の病が克服され、女性の寿命が伸びたとはいえ、今だ子供の出産が命がけの時代。
当時の平均寿命が50歳であった中、大往生であった。
また、モモを除いて唯一の黒髪であった事から長く国の象徴として活躍していた。
メキカ帝国開国の一年前である。
◇◇◇
モモはベルン亡き跡、長く後宮に閉じ籠っていた。
その為、公式行事や公けの場はこれまでサリーが出席していた。
もちろん、他の子供達や親族の葬儀には出席していたが目立つ事を恐れ、黒のベールとローブ姿での出席であった。
「国母様、どうか国家の象徴として公式行事にご参加下さい。母も国を頼むと申していたではありませんか」
メキカ帝国初代皇帝となった曾孫のフィリップに言われてから、国母として公式の場に出席する事になったモモ。
本来は断りたかったが、サリーの遺言を持ち出されては、断ることもできない。
サリーの国葬から、公けの場に出る事になる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから、また数年がたった。
モモが公式の場に立ってから、モモは注目の的だった。
国母、そして召喚勇者のカリスマ。
また、国の象徴たる美しい黒髪とその美貌。
さらになにより、長く若さを保つその神秘性。
すぐに様々な国の王族から求婚がひっきりなしになり、帝城を訪れる王族が後を絶たなかった。
もちろん、そのことごとくはモモの耳に届くことはなかった。
三国が統一され出来た帝国は、大陸一の強国。
政略結婚も、政治的駆け引きも必要ないからだ。
まして、国の象徴たる黒髪を有し、国母でもあるモモをメキカ帝国が手放すはずはなかったのだ。
だが、モモがスマホから取り入れた日本の技術により帝国が豊かになると、状況が変わった。
様々な国がモモを独占しようと、誘拐を企てるようになった。
数度に渡り、危うく誘拐されそうになるモモ。
さすがに嫌気がさし、モモはまた後宮の奥に引き込んだが、その後もそういう輩は後を絶たなかった。
これを重くみた3代目の皇帝、レギンスは、その後も技術の独占を図る為に塔を造り、そこの最上階にモモを軟禁した。
もちろん、本人の同意の元である。
これが、叡知の塔の始まりであった。
そして逝く年月、モモが塔を離れる事はなかった。
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