第42話 外伝◆暗黒竜その3

◆メキカ帝国

帝都 (旧カイオス王都)

帝国中央駅


ガシャンッガシャンッガシャン

プシューッ、ガシャン

『帝国中央、帝国中央、メテルナ方面は、6番線、キハロス方面は、階段下、8番線にてお乗り換えです。なを、次の発車時刻は…』


「ふう、相変わらず此方は、ガルガより暑いわね」

ガルガからの定期列車から、ひとりの女性が降り立った。

メヌエット商会会長、アメリアだ。

茶目に茶髪ロングで女性用スーツ。

まさに、キャリアウーマンスタイルである。


38歳での会長職就任は、過去最速だ。

その原動力は、モモからの無理難題を、ことごとく実現してきたからにほかならない。


アメリアが、大勢の乗降客に混じって駅の階段を降りていくと、数人の護衛騎士と共にメアリーが待っていた。


アメリアは、メアリーにお辞儀をした。

「これは、これは、第一皇女様。わたくしごときの為にお出迎えとは、痛み入ります」


「いえ、長年うちの御先祖様の話し相手になって下さっているアメリアさんを、護衛も付けずに叡知の塔までお連れしては、私が御先祖様から叱られます。どうぞ、お気になさらないでくださいな」


「はぁ、有り難うございます」

とはいえ、皇族に出迎えさせる一般平民。

さすがに、この絵面は不味いと思うアメリアだが、断ることも出来ない。

額に冷や汗をかきながら、愛想笑いをした。


「しかし、それが近年流行のレディーススーツですか?なかなか、精悍かつ躍動的ですね」

「はい、女性の社会進出の一助になればと、御先祖様から託されまして、紡績工場の改善に勤めた結果、平民にも手の届く価格にできました。お陰でようやく社会に浸透して、当たり前のように着ていただけるようになっております」

アメリアが着ているのは、黒のスカートスーツだ。

もちろん、パンツスーツもある。


「最近、ドレスを着用する女性が減って寂しく思う事もありますが、時代の流れでしょうね」

メアリーは、ドレス姿。

これでも、豪華さを抑えたシックなものなのだが、それでも平民レベルからはかなり、かけはなれている。

ただ皇族や貴族は、いまだドレスが主流。

平民の流行が皇族や貴族まで浸透するには、もう少し時間がかかるだろう。


「さ、お乗りなさいな。御先祖様を、お待たせしてはいけません」

「はい、有り難うございます」

メアリーに先導され、アメリアが乗るのは蒸気自動車だ。

まだ非常に高価で、ランニングコストの高いものだが、貴族を中心に普及している。


王都中心から王都の外れの叡知の塔まで約50分、貴族街を抜け平民街に入るとようやく、塔の先端が見える。

「平民街でも年々高い建物が増えて、塔が隠れて見えなくなりました。昔は、中央駅からよく見えたのですが、時代の流れでしょうか」

メアリーは、感慨深く言った。

メアリーは、今年で28歳。

公爵家に嫁ぎ、二人の子宝に恵まれている。


子供も大きくなった頃、王城よりモモの世話係の任命を受けた。

モモの助手兼世話係は、代々皇族が直接行う事になっている。


メアリーが最初に叡知の塔に訪れた時、モモのあまりにも若い姿に驚いた。

どう見ても20代前半、10代だとしても通るだろう。

王城からは、100歳以上と聞き及んでいた為、当初は別人ではと疑っていた。


だが、王城にある三国時代の肖像画と、20年前の写真が、本人であると信じざるおえなかった。


それから、すでに世話係として3年あまり、お互い心から信頼出来るパートナーとして、お互いが離れられない存在になっている。




塔に近づいた時、アメリアはある異常に気がついた。

塔の入り口付近に、大勢の職人の姿があったからだ。

「メアリー様?あの職人達は何をされているのでしょうか」


「ああ、あれは先日、突然塔の入り口の扉が吹き飛びまして、その修繕工事です」

「突然、ですか?」


「原因は未だ、不明です。騎士達が守っていたのですが、なんの前ぶれもなく吹き飛んだとの事です。ただ」

「ただ?」


メアリーは、ため息をしてから言った。

「前後して塔に侵入者があったのですが、見失っております。とくに盗まれた物もなかったんですが、侵入経路が不明です。その後、警戒体制は強化しましたが」

「それは、さぞかしご心配ですね。御先祖様は大丈夫ですか」


メアリーは、くすっと笑ってアメリアを見た。

「肝が据わっていると申しましょうか、本人はまったく動じてないですね。さすが、御先祖様です」


「はは、あの方らしいです。昔からあの方は、お強い意思をお持ちでしたから」

アメリアは、遠くの空を見つめながら、思い出すように言う。


ふと、メアリーはアメリアの顔を見つめ、アメリアに聞いた。

「アメリアさんは、いつから御先祖様とお付き合いを?」

「先代に連れられて、お会いしたのが最初ですから私が、6歳の頃ですか」

「まあ、ずいぶん長い付き合いなんですね」


「はい、本当に。でも、あの方はいつまでもお若く、変わりません。昔は、羨ましく思ったものです」

それを聞いたメアリーは、少し俯いた。


「そうね、端から見たらそうなるかしら」

メアリーが窓の外を見ると、車は塔の裏側に向かっていた。

正面入口は工事中の為、塔背面の裏口が今の塔の入り口になる。




「でも、私はそうは思わない。だって愛する夫、愛する子供、友人に先立たれる気持ちは、いかばかりかと思うわ。それでも、長い年月を過ごしていく。これからも」

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