第36話 カレー華麗
あれから一月あまり、何事もなくゆっくりと時間が流れた。
正直おれは、家族の元に帰還したい気持ちはまだある。
だが、神の残滓が沈黙して頼みの綱のスマホは、ビスケットと種、検索以外で機能する事はなかった。
なので、そちらは潔く諦めてライフワークである食改革を目指す。
そして検索による現代知識の降臨は、ついに各スパイスの種の創造とレシピにより、かの物を造りたもうた。
『カレー』である。
フハハハ、ついに、ついに、ついに我は天啓を得たり。
神はもう寝たが。
「モモお姉さま、この黄色のドロッとしたものは、一体なんですの?」
「モモ、いや、これは、本当に何を作らせたのだ?」
城のコックに、レシピとスパイスを渡して、リンゴちゃんとメリダさんに出したんだけど、う~ん、食べる前から引かれてる?
そうだ!
「まずは、匂いを嗅いでみて、ほら、この白い物がお米、この上にこうやってかけて食べるんだ。これが、カレーライスだよ」
おれは、特注で作らせた日本の給食バケツから、温かいカレーをたっぷりご飯にかけてだしていた。
もちろん、カレーは大鍋で作るのが鉄則だ。
かつて大航海時代、良質なスパイスを求めて東を目指したヨーロッパ人達、その中にあって東インド会社を立ち上げたイギリスにおけるカレーパウダーの開発は、まさに今日のカレーのルーツと言えよう。
そして、日本に幕末から明治にかけて入ってきたカレーは、海軍で昇華され日本独自の進化を遂げて庶民の定番になったのだ。
我が野望は、この異世界でカレーを庶民の定番にする事。
その偉大なる第一歩が、この二人をカレーの虜にする事だ。
「モモお姉さま?!なんか、すっごく美味しそうな匂いがします!これは、食べてみますね」
「モモ、私も頂こう」
リンゴちゃんとメリダさんが、遂にスプーンを取ってカレーを口に運んだ!
ちなみに、野菜カレーしか作れないから当然、辛さは中辛だ。
「なんですの?!食べた事がない味なのに、美味しいですわ。モモお姉さま」
リンゴちゃんが頬を染めて、目を輝かせておれを見た。
さもありなん。
「病みつきになるような料理だ。この辛さが絶妙だな」
くっ、くっ、くっ、そうであろう、そうであろう。
しかーーも、良い具合で置かれた水がファクターなのだ。
おれは、○平のカレー対決は大ファンだ。
いつか、ブラックカレーを作りたい。
二人のお墨付きを得たおれは、コックに宮廷料理のメニューに加えるよう指示した。
コックの名は、メギウス。
前のメニューの改善や野菜の名前と合わせて、各野菜の特性や料理方法を教えてからすっかり意気投合したのだ。
お陰で厨房に立ち入る事が出来るようになり、時々、料理をさせてもらっている。
最近は、各料理道具の改善と新しい道具の作製と使い方のモニターをしてもらっている。
それともう一人、いつも一緒に相談に乗ってくれるのがリンレイさんだ。
実はこの給食バケツも、リンレイさんのお父さんの抱える職人さんに作ってもらったのだ。
リンレイさんは、元々ガルガ王国国民でお父さんが大きな商会を運営している。
リンレイさんも、あの残虐なガルガ王の被害者だった。
本人の意思に関係なく召喚されたあげく、日々王の暴力に晒されていたらしい。
ほんと、ろくでもないな。
ただ、一つだけ困った事がある。
「おお、食と叡知の女神様。また、私めに大いなる神託をいただけるのですね。ありがたや、ありがたや」
「食と叡知の女神様、また、新しいレシピと種をありがとうございます。こんどのは、『ゴムの木の種』ですか?え、車椅子と馬車の車輪を改良して振動を減らせる?!食と叡知の女神様、どうかこのリンレイめを第一使徒と任命下さい」
メギウスとリンレイさんが揃っておれを、❪食と叡知の女神❫と崇めてくる事だ。
そう、またおれに二つ名が増えてしまったのだ。
しかも、いつの間にか戻って来て、今、おれの後ろから抱きついてきた強姦魔2号、3号のように盲目的にだ。
厚ッ苦しい!厨房まで追いかけてくんな!触んな!
「ああ、やっと戻ってこれました。勇者モモ様、もう、離れたくありません!」
「おお、精霊モモどの!また、貴女の温もりを感じられます。このラーン、やっと愛しい貴女の元に戻りましたぞ」
いや、コイツらのは
ヤンスト強姦魔か、やだな~っ。
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「6歳?」
「そうだ。今度のガルガ王は、まだ6歳だ。宰相に、あのザルツ伯爵がついた」
「ザルツ?ああ、あのチョビ髭おやじ」
「ふ、他国の宰相をあだ名で呼ぶとは、お前くらいだろうな」
しばらくして、ガルガ王国のその後について被害者のおれ達は知る権利があるとして、ベルンが教えてくれた。
まあ、リンレイさんからも少しづつ情報はあったが。
結局、あのガルガ王は、国民に対してもいろいろやらかしてたらしい。
すでに失脚し、辺境に幽閉されたとか。
そんで誰得か分からんけど、公爵家から新王を迎えたんだけど、これがまだ6歳児でチョビ髭が補佐で宰相に就任したと。
「俺が、王の
おい、二人はおれの保護者か?
なんか、嫌なんだが。
ベルンは、おれを抱き上げておれの頬にキスをした。
「お前は、すぐ逃げ出すからな。二人は夫としてお前の保護者だ」
心を読まれてるようだ。
信用ないな。
しゃーない、厨房に引きこもろう。
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