第35話 国外追放


「……でも、カイエンはお前やメリダさんの弟だよね、家族だよね、だから」


「家族だからと許していたら、国は統治できん。国の法は、国民全てにあまねく平等なのだ。それを、率先して統治する王族が破ってどうする?王国民に対して完全な背信行為だ。それに」


ベルンは椅子から立ち上がると、おれを抱き込んだ。

な??!、こいつ、震えているのか?


「………おれは、カイエンを信じてる。最初からおれを、使い捨てみたいにするつもりじゃなくて、メリダさんを救っ!…………ん」


おれは、ベルンに喋ってる途中でキスで口を塞がれた?!、ん、ん、うっ、ぷはぁ!


「べ、ベルン?!」


「俺の気持ちはどうなる?最愛を連れ出された挙げ句、命の危険にまで晒された俺は」


ベルンが顔を寄せて、泣きそうな顔でおれを見た。


「…………ごめん…」


「…もう、この話しは終わりだ。いいな」


「…は…い」


もうこれ以上、カイエンの事でベルンと話すのは無理だ。

おれは、諦めてメリダさんの部屋に向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「メリダさん、ごめんなさい。カイエンの事、罪を無くす事が出来なかった」


メリダさんはリンレイさん?に、足に義足を付けてもらっていた。

メリダさんは、おれを見るとニッコリ笑った。


「ありがとう、ベルンに話してくれたのね。でも、十分よ。最期にカイエンに会ってあげて」


メリダさんは義足の具合を確かめながら、ゆっくりと立ち上がった。


「どう?リンレイの商会で良い木工職人を紹介してもらって、貴女の設計図にしたがって作ってもらったの。ほら、立てるようになったのよ。凄いでしょ!」


メリダさん、両手を広げて一歩、二歩、と歩いたところでバランスを崩した。


「きゃっ」、「メリダ様!」、「!」


おれとリンレイさんは、慌ててメリダさんを支えた。


「ふぅ、やっぱり練習が必要ね」


「当たり前です」


リンレイさんが、口を尖らせて言った。

おれは、メリダさんの行動に疑問を持ったので聞いてみた。


「どうしたんですか?こんなに急いで義足を付けて、歩こうとするなんて」


「カイエンが国を出る前に、私が大丈夫なところを見せておきたいの。あの子の行動は愚かだったけど、私の為に行った事だから」


そうかアイツ、シスコンだもんな。

国を出てからもメリダさんの事を心配するかもしれないから、メリダさん、一人で歩けるところを見せてやりたいのか。


「でも、困ったわ。これだと、あの子の出立に間に合わないかしら?」


メリダさんは、リンレイさんに車椅子に介助されながら、困った顔をした。


「いつの出立なんです?」


「それが、明日なのよ」


いや、それはさすがに無理があるな。

出立を遅らせられないか、後でベルンに相談するしかない。


その後、おれはベルンに事情を説明し、なんとか出立を三日後とした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして三日後、カイエンは国境にいた。

見送りは、メリダさん、おれ、アーノルドさん、リンレイさん、そして、離れてベルン。


「俺の仕出かした事で、いろいろ迷惑をかけてすみませんでした」


カイエンは、おれに膝をついて頭を下げた。


「おれは、何とも思ってないし結果がハッピーなら、それでいいじゃない」


「はっぴぃ?」


あ、異世界語だった。


「幸せって事」


「…幸せ、そうですね。 皆様、どうか幸せになれますよう、国外にいても祈っております」


「カイエン」


メリダさんの声に、カイエンは振り向いて驚きの顔でメリダさんを見た。


「メ、メリダ姉様?!」


メリダさんは車椅子から立ち上がり、一歩、二歩とカイエンに近づいていく。


ここは、あれだな。

そう、まるでアルプスのなんちゃらみたいに、○ララが立った、○ララが立ったって感動して小躍りしなきゃいかんのだが、まあ、うちの○ララは年がいってるから、いいか。

ヤギもペーターも居ないしな。


そんな事を思っていたおれの前で、メリダさんは3mあまりを見事歩き、カイエンにたどり着く。


「あ、姉様」


「どう?カイエン、私はもう歩けるのよ?だから、貴方が心配する事は何もないわ」


「………はい、もう、メリダ姉様は大丈夫です」


「そう、だから貴方は自分の幸せを掴みなさい、分かったわね」


「は…い」


これでカイエンも、姉離れが出来たかな?


「カイエン!」


「ベルン兄上?!」


ん?一人離れて見ていたベルンが近づいてくる、最期だから許す気になったか?


「カイエン、キハロス王太子が補佐官を欲しがっている。その気があるなら、行くがいい」


「!あ、ありがとうございます」


なんだ?、しっかり就職先を世話してるじゃないか。

なんだかんだ言ったって血の繋がった弟、やはり無下に送り出したりしないよな。


「モモ!なにをニヤついている!」


「いや、別に」


ほんと、素直じゃないんだから、この唐変木は。




こうして、カイエンの国外追放キハロス就職は無事、送り出す事ができた。

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