第34話 罪と罰
「ところでな、モモ。カイエンの事なんだが」
カイエン?ああ、嘘っぱち騙し男子か。
メリダさんが、言いずらそうに言った。
「戻ってから、ずっと城の地下牢に入っている」
「は?なんで?一応、王子様だよね?」
王子が、地下牢は不味いだろ。
「本人の意向もあるが、国の救世主であり、次期王妃でもある者を連れ出した挙げ句、命の危険にも晒した罪は重い。なにより、ベルンにとって心から愛する者があの残虐なガルガ王に害された事が、許せないらしい」
ああ、前にリンゴちゃんが言ってたおれと二股かけてた人か、たく、そんなに大事ならずっとベルンがその人に付いてればよかったんだ。
おれなんか、構ってるからそんな事になる。
なんか、ムカムカするな?!
ちくしょう!なんだよ?そんな人がいるのに、なんで、おれを抱いたんだ?
結局、
やっぱり、ただの強姦魔1号なのか?
なんで、なんで、なんで
「モ、モモ?!泣いているのか?」
「モモお姉さま?!」
おれは、今、泣いてるのか?
おれは、慌てて腕で目を擦った。
「い、いや、目にゴミが入って、う」
おい、くそ、涙が止まらない!
おれは、二人に見られたくないので、そのまま、スカートを上げて顔を覆った。
「モモ、足が太ももまで出ているが?!」
「あ、直ぐ終わるから。だけどカイエンとおれは、結構長く一緒だったけど、そんな人には会わなかったけどな」
おれは、顔を覆ったまま言った。
「なにを言っている?カイエンと一緒にいたのは、お前だけだろう」
「そうだけど」
おれが、スカートから目だけ出してメリダさんを見ると、メリダさんは呆れ顔で言った。
「何を勘違いしている?さっきから話しているのは全部、お前の事だぞ」
「は?、だ、だって国の救世主で次期王妃になるって」
は~っ、メリダさんが首を左右に振りながら、額に指をあててため息をついてる?!
リンゴちゃんも同調して、呆れてる?
「モモお姉さま、今、この国で誰が一番名前を知られているか、ご存知ですか」
「いや、知らない」
「豊穣の乙女です。そして、豊穣の乙女はカイオス王国に不思議な種をもたらし、それまで食料難に喘いでいた王国を救った、まさに国の救世主です。そして、その乙女を妻にすると宣言したベルンお兄様は次期王であり、その妻は必然的に王妃になります」
「豊穣の乙女、それはモモ、お前の事だろう」
メリダさんが、優しい目でおれを見た。
「う、勝手にベルンにそう呼ばれてる」
「なら、そういう事だな。お前は自分自身に嫉妬していたんだ」
「……………」
じゃあ、何か?おれは、自分の事と知らずに、見ず知らずの架空の人物を気にしていた?
嫉妬?いま、メリダさん、おれが自分に嫉妬していたって、嫉妬?おれが?ベルンの事で嫉妬……………
「モモ、お前、今、顔が真っ赤だぞ」
「モモお姉さま、よかったですね。ベルンお兄様にそこまで愛されてるんですよ」
おれは、恥ずかしさの為、また、スカートで顔を隠した。
駄目だ~っ、顔を見せられないよーっ!!
「モモ?!スカートが凄いことになってるぞ!女がそんなはしたない格好、するんじゃない!」
「大変、モモお姉さま、おへそが見えて、とても殿方に見せられないですわ?!」
その後おれは、しばらく悶絶した。
◆◆◆
「申し訳ない」
しばらくして、平静を取り戻したおれは、二人に謝った。
メリダさんが、手をお出でお出でするので車椅子に近寄って床に膝をつくと、頭をなでられた。
「可愛い義妹が出来たのだ、謝る必要はない」
「そうですよ、私もモモお姉さまが義姉になってくれて、凄くうれしいです」
リンゴちゃんは、おれに抱きついて言った。
「あ、ありがとう」
「それでだな、本題にもどるがモモにカイエンの減刑の為の嘆願書を頼みたいのだ。今回あの子が行った愚行は、全て私を助ける為に行った事。お前を巻き込んだ事は許されないが、あの子にとって他に選択肢がなかったのだと思う。もちろん、モモが断るならそれでかまわない」
そうか、あいつはお姉さんの為に動いたのか。
なら、おれの答えは決まっている。
「いいよ、おれに異存はない」
「すまないな、あの馬鹿はあれでも私の弟なのでな」
それからおれは、カイエンの為に嘆願書を書いてメリダさんから国王陛下に提出してもらった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから数日後、カイエンが牢から開放されたと報告を受けた。
だが、カイエンが罰として国外追放処分を受けたと聞いて頭にきたおれは、ベルンの部屋に怒鳴りこんだ。
「カイエンを国外追放にするって聞いた!どうしてだ?」
「モモ?」
ベルンは、執務席で書類を整理していた。
奴は、書類を見る為にかけていた眼鏡を外して、おれを見た。
「なんだモモ?なにが言いたい?」
「カイエンの減刑の嘆願書を、おれが出したはずだ」
「そうだ、たから減刑した」
「は?だって、国外追放って?!」
「カイエンは、本来なら処刑されるはずだった。それを、国外追放に減刑した」
ベルンは淡々と語ったが、おれはビックリだ!
「おま?!処刑って!元の罪が重過ぎるだろう?」
「カイエンは、お前が国の救世主で次期王妃である事を知った上でお前を連れ出し、確実にお前が害されるであろうと予測出来たのに、ガルガ王にお前を引き渡した」
「う、そ、それは、メリダさんを助ける為に他に方法がなかったから」
「しかも、実際にお前はガルガ王に暴力を受け、意識を失くした。その時の状況は、城にいたメテルナの草の者から聞いたが、お前の状態は生きているのが不思議なくらい酷い有り様だったと聞いている」
パキンッ、ベルンが手に持っていたペンを二つに折った?!
「………………!」
「モモ、俺は怒っているんだ」
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