第33話 吸引
◆ベルン視点
バタンッ、ガチャ
「!!」
モモがリンゴ姫の部屋に入り、鍵を閉めた。
弁解する余地もないか、仕方ない。
俺たちは、モモの訴えをまったく聞いてやらなかったからな。
まあ、あの段階だと自制がきく、きかないの状態になかったが。
「ジーナス、お前は何時からモモの言葉が翻訳魔法?なるもので、俺たちと違う事を知っていた?」
「翻訳魔法ですか?私は勇者モモ様の召喚に立ち会いましたが、新官達からそのような魔法を付与したとの話しは、聞いておりません。ただ、ベルン殿も知っているようにモモ様の一部の発音が我々に理解できないものがあるのは、名前の一件で知っただけです」
俺はラーンと顔を見合わせた。
「俺達と同じか」
仕方ない、どちらにしても今、モモに何を言っても無駄だな。
「とりあえず、時間をおいてモモに折れてもらおう。その間に、俺はガルガ新政権との交渉を詰めよう」
「そうですね。こんな形でしたが精霊モモ様と、肌を交わした一時を帰国前に得られた事は、私にとって僥倖でした。これでメテルナの王太子として、ガルガ新政権との交渉に専念できます」
「私もベンツェン兄上の補佐の為、一時キハロスに帰国いたします。その前に勇者モモ様をこの手に抱けた事、この温もりは決して忘れない」
俺は二人を城外に見送った後、アーノルドを呼び出した。
だが、急にメリダに呼ばれて、リンゴ姫のところに向かったと衛兵から報告があった。
リンゴ姫のところは、今、モモが滞在しているはず。
何かあったのか?!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
おれが目覚めて横をみると、強姦魔1号がベッドの端で眠ってやがった。
なに、目に隈をつけてやがる?
「う、モモ?目覚めたのか?!」
「あ、ああ、目覚めたよ。って、近寄んな!あっちいけ!」
「よかった、俺はお前が二度と目覚めないのかと、うぐっ、し、心配だったんだ!」
「…………何を大袈裟、な?!」
なに?こいつ、泣いてるのか?
あのベルンが?
あの人の話しも、気持ちも無視の俺様ベルンが?
「リンゴちゃんは?リンゴちゃんはどうしてる?」
「ああ、無事だ。お前とは逆に元気だ」
そうか、なら、あの魔力吸収は上手くいったのか?
「お、お前は一時、心臓が止まってた。俺が駆けつけた時、お前は冷たかったんだ、だから、死んでしまったかと」
「おれの、心臓が止まっていた?」
ガバッ「モモ、モモ、俺のモモ、よかった、よかった!」
「……………」
おれは、ベルンに抱き締められなから考えていた。
おれが、魔力を吸引してリンゴちゃんは元気になった。
だが、おれは死にかけた。
おれが吸引したのは、魔力だけでなく病の特性も吸引したのではないか?
だとすると、この手法はもう使えない。
ただの命の交換では、本末転倒だからだ。
「おい、分かったからもう、離れろ」
「いやだ、お前が居なくなるのは許さない。俺より先に逝くのは、許さない!」
「………」
はぁ、まったくの駄々っ子だな、子供じゃあるまいし。
ああ、こいつ、おれより年下だったな。
いくつだっけ?二十二歳か、七つ下だったな。
おれの世界なら大学生か、青二才だな。
仕方ない、大目にみるか。
暫く、ベルンのやりたいようにさせていたら、途中から強姦魔の本領を発揮してきたので、ベッドから蹴りだしてリンゴちゃんのところに向かった。
◇◇◇
「モモお姉さま?!!、お目覚めになられたんですか!」
「モモ!大丈夫なのか?!」
「ああ、大丈夫。だいぶ、心配かけたみたいだね」
リンゴちゃんに泣きながら抱きつかれ、メリダさんから叱咤された。
「もう、こんな事は絶対駄目だ。弟が倒れているお前の前で、自分の首を切ろうとした時はアーノルド一人で止められなくて、衛兵を呼んだんだぞ」
「は?!」
なんだよ、それ?アイツ、自殺しようとしたのか?
なにをやってるんだ?!
「弟は、お前が死んだと半狂乱になって、手がつけられなかった。医者がお前の心臓が動き始めたと報告するまで、大変だったんだ」
「………………」
「モモ、頼む。お前の命はすでにお前だけのものではない。その事を忘れないでくれ」
「…はい」
ベルン、そんなにおれの事を想っていたのか?
は~っ、重いな。
おっと、先にリンゴちゃんの方だ。
「それでリンゴちゃんは、調子は?」
「モモお姉さま、ほら、見て下さい!」
バッ、リンゴちゃんが胸元を広げた。
また、この子は羞恥心がないのか。
男の前で胸をおっぴろげて………あ、今はおれ、女だったわ。
リンゴちゃんを見ると、リンゴちゃんの胸にあったヒトデのような黒いシミは、跡形もなかった。
「よかった、治ったんだね。苦しくない?」
「もう、嘘のようにスッキリしてるんです。これも、モモお姉さまのおかげです。私、モモお姉さまのおかげで大人になれる、本当にありがとう」
リンゴちゃんがまた、抱きついて涙を流しながらおれに言った。
「はー、よかった、よかった。これでおれも死にかけた甲斐があったな」
「もう、モモお姉さま!死にかけたは駄目です!もし、同じ事があったら私もお姉さまの後を追いますわ」
リンゴちゃんが、口を尖らせていった。
「リ、リンゴちゃん?!」
「はははは、大変だなモモ!もう、おいそれと死ねないな?」
メリダさんが笑いながら、おれの背中を叩いた。
もう、重いわ、勘弁してくれ。
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