第28話 脱出
◆ベルン視点
城内に入るルートで二つを確保した。
一つは、ラーンの草からの情報で城内に向かう隠し通路の存在。
一つは、水路から商船に紛れて侵入する方法。
俺達は、最終的に二手に別れて侵入する事にした。
俺とアーノルドが隠し通路、ラーンとジーナスが水路だ。
「アーノルド、城に侵入したらお前はメリダの救出に向かえ、俺はモモを探す」
「殿下、宜しいのですか、私がメリダ様の救出に向かっても?」
「なにを躊躇している?お前が向かわないでどうする、姉上を頼んだぞ!」
「殿下、有り難うございます」
「感謝される事ではない、当たり前の事だ。しっかり頼んだぞ!」
「はい、必ずメリダ様を救出します」
そして、俺達は隠し通路のあるポイントに向かった。
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◆メリダ視点
私達は、勇者を名乗る黒髪の娘に隠し通路の脱出経路を教えてもらい、ある時間に後宮にいる9人の女性全員で脱出する計画を立てた。
その事について、黒髪の娘が聞いてきた。
「なぜ、その時間なの?」
「王が今日の、日の刻に中庭にいるらしいの。だから、その間は誰も後宮に来ないわ」
あら?それを聞いた黒髪の娘が急に考えこんでるけど、どうしたのかしら?
「中庭か、中庭、中庭、と、有った!よし」
「?」
「おれは、暫く別行動するから商船の出入り口でまた会おう。もし、その脱出予定時間を過ぎておれが戻らなかったら先に脱出してね」
「駄目よ!一人でなんて危険だわ」
「大丈夫、他の脱出ルートあるから」
「何をするつもりなの?」
「王さまに借りがあるから、返して貰うんだ」
「はい?」
なんだろう?この娘、最初見た時は六の姫くらいの背格好だからてっきり10歳くらいの頼りない子供だと思ったけど、よくみたら胸もお尻も成人女性並みだし、話し方は男みたいな言葉を使う。
それにその度胸と行動力はいったいどこからくるのか。
「だって、やられっぱなしは体によくないからね」
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◆カイエン視点
「それでは、我がガルガ王とカイオス王国第五王子カイエン殿との決闘をとり行う。両者、中庭中央へお進みくだされ」
俺は、用意された木剣を握ると、言われるまま中庭中央に進んだ。
ガルガ王は、すでに中央に立って鞘に入った木剣?を持っていた。
「第五王子、楽しい余興だ。いくぞ」
「望むところだ。約束は守ってもらう!」
「勝てればな」、ビュンッ、ガシンッ
奴が鞘から剣を抜きながら俺に剣を振るう。俺は、奴の剣を木剣で受け止めた、?!奴の剣が俺の木剣に食い込む?!!
奴の剣は、真剣だ!
「貴様、卑怯だぞ?!」
「これは決闘だ。真剣のどこが悪い?安心しろ、あの女と姉にはすぐ後を追わせてやる」
くそ、始めからそのつもりだったのか!
すまない、姉上。
すまない、乙女。
俺は、愚かだった。
パキンッ、木剣が折られた。
奴が剣を上段に構える。
ここまでか、奴の後ろに乙女が掃除用モップを上段に構えている姿の幻覚が見える。
なんだ、これ?最後に観るのが乙女の幻覚か。
そうか、俺は乙女の事が好きだったのか。
こんな最後に気づくなんて、我ながら情けない。
ああ、乙女、許してくれ。
「チェストー!」ガンッ
「ぐわっ?!」ドサッ
「は?」、なんだ?乙女の幻覚が掃除用モップの持ち手の部分で王を叩いて、王が倒された??
意味わからん?これは幻覚ではないのか?
「やった!王さま、借りは返したぜ。ん?なんだ?嘘っぱち騙し男子、ここにいたのか?」
二つ名が勝手に変わってる~?!
「皆の者、王が曲者に倒されたぞ?!王をお守りしろ!出あえ、出あえ!!」
伯爵が叫ぶ。
不味い!早くこの場を立ち去らないと!
俺が乙女を見ると、乙女はその美しい黒髪を振り撒きながら俺に言った。
「あんたも早く逃げなよ、お姉さんはもう、城から逃げた頃だよ」
「姉上が?なぜ?」
「じゃあね!」
「あ、ま、待ってくれ!」
スッ?!乙女が庭の石の後ろに入ったら消えた!???
なんなんだ?
「カイオスの第五王子を捕まえろ!」
ま、不味い、くそ、出口は衛兵に固められた?!万事休すか?!
「な、何者?!がっ」、「ぐわっ!」、「ぎゃっ」
な、なんだ?衛兵の隊列が崩れた?、ローブの男が数人の衛兵を一気に倒した?!
「カイエン!こっちだ!逃げるぞ」
「な、ベルン兄上!!」
「乙女は?!どうした?一緒ではないのか?!」
「は?はい!どうも、姉上達で逃げたようで?」
「は?に、逃げた???!」
「衛兵!何をやっている?!早くあの曲者達を捕まえろ!」
伯爵の怒号が聞こえる!
「!お前にはいろいろ言いたい事があるが、今はいい。とにかく逃げるぞ!」
「は、はい!」
兄上は衛兵達を蹴散らすと、伯爵に肉薄した。
「ぐわっ?!な、なんだ?」
「よく考えるんだな、伯爵!あんな残虐な王はガルガに害毒だ!」
「は?べ、ベルン殿下?」
「せっかく出来たこの状況、このチャンスにガルガが政権交代しても、カイオスは新政権を認めるぜ?ああ、それと、お前が連れ出した乙女の夫は、メテルナの王太子とキハロスの第三王子、それと俺だ」
「??!!!」
「よく、考えるんだな、俺はあんたの味方だぜ?いくぞ、カイエン!」
「はい!」
「…………………」
俺達は立ち去ったが、その間、伯爵は微動だにしなかった。
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◆メリダ視点
「メリダ様、もう少しです。あの娘のいう通りなら、この先に商船の船着き場があるはずです」
「そうね、リンレイ。でも私を担いでいるの、疲れたでしょう?ここで休憩にしましょう」
「いえ、いつ追っ手が来るとも限りません。出来るだけ先に進みましょう」
また、この子は無理をして、私の足に責任を感じなくてよいのに。
「光が見えました。出口です!皆、もう少しよ!」
リンレイが皆を励ました。
皆の顔が明るくなる。
まもなく、私達は隠し通路を抜け、船着き場に出る事ができた。
「よかった!誰もいない。あの無人の商船を借りましょう」
「船を扱える人がいないわ」
「私、家が商家だったんです。父親の操船を見て育ちました。だから、船を扱えます」
リンレイがガッツポーズをした。
あの娘といい、リンレイといい、みんな、なんて元気なの?!
は?あの娘は?
「黒髪の子は?」
「とにかく、メリダ様、先に乗りましょう。皆もそれでいいわね?」
皆、頷いた。
そうね、皆疲れきってるものね。
「さ、メリダ様、コチラに?あ、!」
いけない、リンレイの体制が崩れて私共々、川に落ちる?!
「きゃああ?!」、「危ない!」、「「「「「「「「?!」」」」」」」」
その時、私は夢を見ていたのかも知れない。
だって、川に落ちそうになった私を優しく抱き上げたその人は、そこにいるはずのない人で、でも、この確かな感触は?!
「アーノルド?」
「はい!メリダ様」
「本当に、本当に?アーノルド?」
「はい」
「あ、ああ、あ、アーノルド!!お願い、夢なら覚めないで、アーノルド、もう離れない!」
「はい、私も二度と離れるつもりはありません」
ああ、本当に、本物のアーノルドだ。
うれしい、うれしい、うれしい。
「あれ?お邪魔だった?」
「「「「「「「「「「?!」」」」」」」」」」
そこには、なぜか壁から頭だけ出した黒髪の娘がいた。
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