第27話 メリダ

◆メリダ視点


ああ、もう駄目かもしれない。

私は、メリダ。

メリダ▪フォン▪カイオス、カイオス王国の王女だった。

この国、ガルガ王国に来るまでは。


私は、国が暗黒竜の被害以降、作物は育たず食料不足から国が困窮した為、支援物資と引き換えにガルガ王国の王に嫁いだ。


嫁いだのだが事実上の身売り、だが国の為に嫁つぐのは王族としての責務だと思っていた。


ただ、心残りはアーノルドの事だ。

近衛騎士団団長だったアーノルドは、私が幼少の頃から私の護衛として、いつも付き従ってくれていた。

いつでも私に寄り添い、助けてくれたアーノルドとは、いつしか自然と好いた仲になっていた。


「すまん、姉上。この通りだ。ガルガが姉上を寄越さねば、物資の搬入を止めると通告してきた。貴族の子女に成人女性はすでになく、身代わりを立てる事もできん。しかし、物資が入らねばこの冬は、国民にどれほどの餓死者がでるか知れん。不甲斐ない俺を許してくれ」


弟が悔しさで唇を噛んで、血を流して土下座している姿が目の前にあった。

いろいろ他の手がないか、アーノルドと二人で奔走していたのを私は知っていた。

だから一言、二人に伝えた。


「大丈夫、私は行きます」と


アーノルドは、涙を流しながら私を強く抱きしめた。

私達は無言で抱き合っていたが、知らず知らずに泣き崩れていた。


それでも、嫁ぐからにはと相手の気持ちに沿うようにしようと、気持ちの整理をつけた。


だが、ガルガに嫁いでそんな考えは幻想だと知った。

ガルガの王は、利己的で残忍な性格の男だった。

しかも、王は女を道具として扱い、王の近くにいる女達は皆日々、王からの虐待を受けていた。


ある日、一番若いリンレイが王に茶を運ぶさい、王に茶をかけてしまった。

激怒した王は、リンレイを鞭で叩きだした。

リンレイは、あまりの痛みに気を失ったが、王はさらに鞭を振るおうとした。


私はあまりの無体に、二人の間に入って王の振る舞いを諭した。


「ならば、そなたが代わりに罰を受けよ!」


ザシュッ「?!ぎゃあああああっ」


その日、私は左の膝下を失った。

そして、その日から私は不良品として城の1室に閉じ込められた。


その後、私は辛うじて命を取り留めたが、食事を1日一食にさせられ、固いパン一つとコップに水の、ぎりぎりの生活を余儀なくさせられた。


だが、リンレイが自分の食事を削って持ってきてくれて、なんとか今日までしのいできたが、だいぶ身体が弱ってしまったようだ。

もう、あまり先はないような気がする。


そんな中、弟のカイエンが私を引き取りに来るという。

私の代わりを用意して。


あり得ない、私が可愛がったあの子がそんな酷い事をするだろうか?

万が一、あの子がその様な事に及んだなら、私はその代わりの方に一生謝らなければならない。


「メリダ様、どうか召し上がって下さい」


「大丈夫よ、貴女か食べなさい」


「いえ、私はお腹はいっぱいです。どうかメリダ様、食べて下さい」


またこの子は、自分も満足に食べてないだろうに、私にできるだけ食べさせようとする。

でも、もういいのよ。

私は自分の死に方くらい、自分で選びたい。


「リンレイ、もういいのよ。私はもう食べる必要はないわ」


「メリダ様?」


「死ぬ時ぐらい、自分で選びたいの」


「そんな、死ぬだなんて思わないでください。きっと助けがきます。どうか、諦めずに

希望を持って下さい」


「リンレイ、ごめんなさい。私、もう、疲れたのよ。そろそろ楽にさせて」


「メリダ様、私もお供させて下さい」


「駄目よ!あなたは、まだ若いし良い未来がきっと来るわ。私ね、国に将来を誓い合った人がいたの。でもね、国の為にここに来たのよ。こんな身体になって動けないの。だから、死ねば魂だけであの人のところに帰れると思うの」


「メリダ様………」


ガコンッ「痛!天井が低んだよ?ん?」


「「?!」」、は?いきなりクローゼットの扉が開いた。

クローゼットの下板が上がって、見たことない黒髪の娘が頭を出してきた!?


「あれ?ど、どうも。元気?」


「な、何者だ!ここがメリダ様の部屋と知っての狼藉か!?」


「メリダ?あれ?どっかで聞いた事があったような??ベルン?」


「!弟を知ってるのですか?!」


「弟?痴漢天使ベルンが?」


「ち、痴漢?!え?弟は痴漢なのですか???!」


何て事!あのベルンが痴漢をしているなんて、ああ、だめ、駄目よ!

しっかりベルンに罪を償わせないと、まだ私は死ねない。

死ねないわ!


「え?もしかしてベルンのお姉さん?」


「はい、私が姉のメリダ、こちらがここで知り合ったリンレイです」


リンレイは、ぺこっとお辞儀をすると、黒髪の娘も、返しのお辞儀をした。


「ええと?貴女の事はなんと御呼びしたらよいのかしら?」


「え?んーっ?▤▶/▩□◇が名前なんだけど、たぶん、発音が理解出来ないと思うから、勇者?」


「ゆ、勇者!?」


「ん、二つ名の中で一番?」


「なぜ、疑問系!?」


ええと?この娘はオツムが弱い娘さん?

勇者といえば、キハロスが召還し厄災の暗黒竜を倒してくれた英雄だ。

それに、勇者は男性だったはず。

でも、この娘の髪は勇者と同じ黒髪。

私の知る限り、近隣諸国も含め黒髪の民族はこの世界にいない。


「貴女、勇者の関係者なの?」


「ん~、本人?」


私とリンレイは顔を見合せてため息をついた。

駄目だ、この娘、顔は良いのに頭がくるくるだ。

また、疑問系だし。


「それで?貴女、なんでそんな所から顔を出したの?」


「ああ、ヤられそうなんで、この隠し通路から逃げようと?」


「だから!なんで疑問系って!?隠し通路?!」


「メリダ様!」


「あん?」


「貴女!その隠し通路から城外に出られるの!?」


「ああ、なん通りかわかるよ?っていうか、この城の全ての隠し通路、部屋、人の集まる場所、全部、分かるよ」

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