第23話 道具
◆ベルン視点
あれから、俺達はベッド下から続く通路を通り、その出口付近の隠し扉を当たってその全てを確認した。
そして、最後に確認した通路の終点、空き家になっている貴族屋敷をジーナス、ラーン、アーノルドと俺の4人で確認中だ。
「最近、人が入った形跡があります」
「!アーノルド、何時頃か分かるか?」
「ここ、2日でしょうか。2~3人の足跡があります」
やはり、モモはここに居たのだ。すると、手引きしたのは今朝から姿が見えないカイエンか?!
「ここに間違いないな。だが、ここから何処に向かったかだ?」
ここで、ラーンが言った。
「ガルガ王国に忍ばせている草の者から、連絡がありました。近々、豊穣の乙女が国に訪れると王城から市民に告示があったそうです」
「なんだと?!」
「ラーン殿、勇者モモ様はガルガに?」
そこに、アーノルドが割って入る。
「殿下!今、部下から連絡がありました。ザルツ伯爵の馬車が今朝、王都を発ったと!」
「「「?!」」」
そうか、カイエン、お前は!モモをメリダと引き換えにするつもりで!!
「アーノルド、ただちに馬を引け!それと国境警備に全ての国境の閉鎖を指示せよ!」
「は、ただちに!」
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「ねぇ、キラキラ睨みカイエン君、そのガ○ラ王国ってカメの甲羅の上にある?」
「二つ名つけるな!それにガ○ラ王国ってなんだ?ガしか合ってないし、カメ?ってなんだ?!」
「あ、いや、いいや」
「いいのかよ!?」
どうやら、この世界にカメは居ないようだ。
「ほ、ほ、ほ、乙女は面白い方だ」
「はは、ど、どうも」
うう、このチョビひげおやじ、どうも好きになれないな。
なんか、目付きがイヤらしいってうか、気持ち悪いんだけど。
屋敷を出たおれは、キラキラ睨み男子とチョビひげおやじ、あと、数人の兵?の守る馬車でカイオス王国国境に向かっていた。
「ねぇ、睨みカイエン君、これから行く国は本当に裕福な国で親切で優しい人々が暮らす国なのか?」
「カイエンだ、なんで睨みを付ける!?そうだ、お前にとってはな」
「そうですぞ、この世界でガルガ王国こそがそれらを体現できる理想郷なのですぞ」
「民主主義国?」
「みん?なんですか、それは?」
「あ、いや、いいや」
「?」
王国を名乗ってるんだから、ないな、この世界、君主制しかないのかな?
取り敢えず、今は彼らについていくしかない。
この世界の情勢とか、どんな国があるのとか、どんな人々が住んでいるとか、まったくわからんからな。
間違いで秘境の先住民族に出くわして、「あなた食べる、食べられる」なんて言われたら、目も当てられないわ。
「伯爵様!ガルガ方面の国境に兵士の姿が見えます!」
兵士の1人が駆け込んできた。
おれは、慌ててカイエンに言った。
「ヤバいよ、掴まりたくないんだけど」
「伯爵、どうするんだ!」
カイエンも焦った顔をした。
「ほ、ほ、ほ、仕方ありませんな。貴方に兵士達を下がるように言ってもらえますか?」
「無理だ、兵士達は兄上の指示でしか動かない、第一俺はまだ、政務や軍部の指導をやった事がない」
「情けない第五王子ですな、時間を稼ぐだけで結構です。それくらいやってください。姉を返してほしければね」
「?!」
「おい?なんの話だ??」
「うるさい、お前に関係ない!くそっ」
おい、おい、勘弁してくれ。
おれは、なにかに巻き込まれてるのか?
間もなく、チョビひげおやじの馬車がとまった。
「おい、俺が戻るまで馬車は出すなよ!」
「もちろんです。ちゃんと乙女と二人で待ってますよ」
うへぇ?チョビひげおやじと二人っきり?!なんかやだな~っ、おれは、恐る恐るチョビひげを見た。
う、気持ち悪い笑みを浮かべてる。
「カイエン君?おれがついて行ってやろうか」
「は?お前!俺が1人で兵士達を下がらせられないと思っているのか」
「い、いや、そうじゃなくて」
あちゃーっ、怒り出しちゃったよ。
反抗期だな。
「困りますな、乙女は馬車に居てもらわないと。大事な御身ですからな」
「………………」
「行ってくる!」
ああ、カイエンが走って行っちゃったよ。
参ったな、出来るだけ窓の外を見ているしかないじゃん。
チョビひげおやじの顔、見ないようにしないと。
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◆カイエン視点
「カイエン君?おれがついて行ってやろうか」
「は?お前!俺が1人で兵士達を下がらせられないと思っているのか」
「い、いや、そうじゃなくて」
まったく、この女はいつまでも俺を子供扱いしてイラつく。
自分の方が華奢で小さくて、簡単に手折りそうなのに。
俺の姉みたいなつもりか。
くそ、俺の姉はメリダ姉様だけだ。
どうやって兄上に取り入ったのか知らないが、お前が義姉になるのは認めない。
なにが豊穣の乙女だ。
魔法使いだって手から僅かな水や、小さな火を出すのがやっとだっていうのに、凄い早さで成長する多種の野草を造りだした?ありえない。
そんな事が出来るのは、神だけだ。
兄上に神がその野草の種を頂いたのを、たまたま近くにいたあの女が奪い、後からさも自分が造り出したのように振る舞い、兄上を誑かしただけだ。
そんな可愛い顔で珍しい美しい黒髪で、そんなきれいな声で俺を見つめる黒い瞳は、翡翠のように美しい?っ、俺は、何を考えている?ありえない。
「困りますな、乙女は馬車に居てもらわないと。大事な御身ですからな」
「………………」
「行ってくる!」
うむ、今は姉上の救出が最優先、あの女はその為の道具………、そうだ、道具と思えばいい。
だから、あの女がどうなろうと構わない。
だが、
……それでいいのか、カイエン?
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