第24話 血
◆カイエン視点
「おい、隊長はいるか?第五王子カイエンだ!」
「は!私がガルガ方面国境警備隊隊長キンバリーです」
俺は、街道を塞ぐ柵を設けていた六名の兵士の前で叫んだ。
「悪いが急用でな、ガルガの姉のところに向かう途中だ。柵を退けて街道を開けてくれ」
「申し訳ありません。ベルン殿下より何人も通すなと、申し使っておりますので対応しかねます」
「俺の頼みでもか?!」
「たとえ、ベルン殿下本人であっても通すなとのご指示です」
く、流石、兄上だ。
どうする?蹴散らすか?!俺が最悪の選択をしようとした時、停止した馬車から伯爵の声が聞こえてきた。
「ほ、ほ、ほ、お前達、これを見るのです!」
なんだ?何をするつもりだ?
俺は兵士達と同じ様に、伯爵の方を振り返った。
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「なんか、手こずってる様子だな」
おれは、カイエンの後ろ姿と兵士達とのやり取りを遠目に見て、そう感じた。
「仕方ありませんね、乙女には一肌脱いでもらいますか」
「ああ、多少の事は手助けす?!」チャキッ、
「それを聞いて安心しました。では、このまま馬車を降りて彼らの前に行きましょう」
「いっ!?」おれの首すじから僅かに血がながれる?!手を後ろ手に取られた?
チョビひげおやじが、おれの首すじにナイフを宛がい、おれを馬車から押し出す。
チクショウ!何が親切で優しい人々だ!
危ない奴らの集まりじゃないか!
「お前達、乙女を縛れ」
「「「は!」」」
く、ネジあげられた腕が全く動かない。
こんなチョビひげおやじにも、おれは力で敵わないほど弱くなってるのか?
うう、騙された!
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◆カイエン視点
「は?!」
伯爵の部下の兵士が乙女を縛り、伯爵と乙女の三人が俺達の前にいた。
何をするつもりだ!ああ、乙女の首すじから僅かに血が流れた跡がある?
乙女を無理やり縛ったのか?!
国境警備の兵士達は動揺しているが、俺もだ。
伯爵があの娘に乱暴をしたと思うと、急に怒りを感じた。
何故だ!?
「この黒髪で分かるでしょう、お前達の豊穣の乙女です。ただちに柵を外して退きなさい。さもないと乙女の命はありませんよ」
く、伯爵は乙女の首すじにナイフを宛がった。
国境警備の兵士達が、後ずさりする。
俺は隊長に言った。
「あれは本気だ!お前達、早く下がれ。乙女を殺す気か?!」
「わ、分かりました?!全員、持ち場を離れて端に控えよ!」
兵士達が、柵を片付けて端に控える。
予定と違ったが、なんとかなったか。
う、乙女が俺を睨んでいる。
かなり怒っているな、あれは。
どちらにしても、早く縄を解いてやらないと。
俺はすぐに、伯爵のところに走って言った。
「伯爵!もういいでしょう、乙女の縄を外して」
「このままの方が、運び易くて良いでしょう。問題ない。貴方も言っていたではありませんか?道具は運び易い方が良いと」
う、確かに言った事があるが、なにもこのタイミングで言わないでほしい。
ああ、乙女がめちゃくちゃ睨んでくる。
完全に信用をなくしたな。
困った。
「確かに言った事はあるが、別に乙女の事を指して言ったつもりはない」
「いまさら、取り繕う必要があるのですか?はっきりおっしゃったじゃないですか。乙女を姉君と交換でガルガ王に渡すと」
「伯爵!っ」
くそ、乙女が完全に俺を見ない、馬車の外ばかり見ている。
はぁ~っ、胸が痛い。
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◆ベルン視点
「なに?乙女を人質に取られ、国境通過を阻止出来なかったと?!」
俺は、今、警備隊長のキンバリーから事の経緯の報告を受けていた。
「はい、乙女はガルガの兵士に縛られ、首すじに短剣を宛がわれておりました。街道を開けなければ乙女を殺すと明言され、乙女の首すじから少し血がでていましたので、本気と判断しました。」
「?!」、モモを傷つけたのか?!ザルツか?カイエンか?
「勇者様が血を流されただと!」
「精霊どの?!おのれ、ガルガ王国!」
2人が怒り出したので、俺はかえって冷静になれた。
これは、ザルツの仕業だ。
あの男はその場の状況で、上手く相手の心理を突く手法を心得ている。
おそらく、その手でカイエンを引き込んだのだろうが、流石はガルガの外交を任されているだけの事がある。
どちらにしても、ガルガに向かわねばなるまい。
コンコン、ノックの音がして、リンゴ姫が入ってきた。
「リンゴ姫、今は会議中だ。入室を許可していないぞ」
「こほっ、モモ姉様の事ですわよね?なら、私も聞く権利があります」
ふぅーっ、リンゴは言い出したら聞かないからな。
しょうがない。
「カイエンがガルガに唆されて、モモを連れ出したのだ。今はガルガ王国に向かっている」
「モモ姉様が?!」
「必ず、俺達で救出する。おとなしく待っていてくれ」
「分かりましたわ、これを」
リンゴ姫は、俺に一枚の絵を渡した。
見ると、リンゴ姫の名前の元になった果物の絵だった。
「それは、私です。私も救出に共に連れて行って下さい」
「わかった。吉報を待っていてくれ」
「はい」
俺はジーナスとラーンを見た。
二人とも、頷く。
よし、ガルガ王国へ出発だ。
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