第21話 人質

◆ベルン視点


今日、ガルガ王国から使者がやって来た。

メリダが嫁いだ先だ。

ガルガ王国、近隣諸国にあって唯一、今だ奴隷制度を採用している国だが、広大な穀倉地帯を持ち、もっとも裕福な国でもある。

しかし、ガルガ王は大変好色で残忍な性格だ。

この女性が少ない時代にあって、後宮に沢山の女性を囲っていると聞く。

メリダの時も、奴からの物資供給の第一条件とされた。


「殿下、どうか、同席させて下さい」


「アーノルドか、確かに近況は聞けるだろうが辛くないか?」


「いえ、メリダさまとの事はあの時点でお互い、整理できておりますので」


「すまん、思い出させて悪かったな」


「大丈夫です。国の為にメリダさまも了解の上でしたから」


アーノルドとメリダは相思相愛だった。

それを俺が、断腸の思いで引き裂いた。

俺はアーノルドに憎まれても仕方ない事をしてしまったのだが、アーノルドはその事について一度も俺を責めない。

それがまた、辛い。


「これは、これは、ベルン王子、お元気そうで何よりですな」


「これは、ガルガ王国ザルツ伯爵、わざわざこのような国に足をお運びいただき、有り難うございます」


相変わらず、デップリと肥えたいけ好かないおやじだ。

また、わが国に援助物資と引き換えに、無体な要求をしようとしているのだろうが、モモのお陰で一番の問題だった食糧問題は解消された。お陰でもはや援助物資は必要ない。

残念だったな。


「ところで貴国に、豊穣の乙女なる麗しい女性がいるとか?」


ぴくっ、こんどのこの男のターゲットはモモか!だが、貴様の思い通りにはさせん。


「来週に、その女性と結婚式を予定しております」


「おお、それは、それは、おめでとうございます。ベルン王子も遂に身を堅められますか。まっこと、良いお話が聞けてよかった。しかし、弱りましたな。我がガルガ王が先般、貴国から頂いた貢ぎ物に不良品が混入していたらしく、えらくお怒りでして」


「不良品だと!?」


「はい、少し無理をしましたら立てなくなりましてな、ご返品して別の品物に交換したいのですよ。たしか、メリダとかいう名前で」


ガタッ「なんだと?!」


「きっ貴様!!大事にすると、決して無体はしないと!その約束のもとに送り出したのだぞ?!」


アーノルドが怒りに震え、剣に手を添えて身構える。

俺も目の前の男を、すぐにでも叩き斬りたいがメリダの身が心配だ。くそっ!


「なんですかな、この無礼な男は?」


奴は怪訝そうにアーノルドを睨み、俺に言った。


「俺の従者で、メリダの婚約者だった男だ」


「ほう、それは、それは、さぞかしご心配でしょう。では、こうしましょう。豊穣の乙女と引き換えにお返しするという条件でいかがですかな?」


「な、何を言っている?!」


コイツは一体、何を言った?モモとメリダを交換だと?!!


「少し、考える時間をあげましょう?一週間後にまた参ります。その時までにご決断ください。ああ、もし、この提案を拒否される場合は不良品は私共で処分させて頂きます」


「処分?処分だと?!!」


「わが国に、奴隷制度があるのをご存知でしょう?歩けなくても子供は産める成人女性、それなりの使い道はあるのですよ」


「きっさまーっ?!!」


「まて!アーノルド!!」


くっ、ここでアーノルドをキレさせてこの男を斬らせたいが、今は我慢だ。

俺はアーノルドを片手で制し、ザルツを睨んだ。


「それでは良いご回答をお待ちいたしますよ、ああ、それと支援物資が欲しかったら言ってください。良品成人女性と交換いたしますよ」


「ぬかせ!」


「耐えてくれ、アーノルド!」


「ふふん、それでは」


俺がアーノルドを押し留めているのを見て、薄笑いを浮かべてザルツは部屋を出て行った。くそがっ!


カタンッ、「?誰だ!?」


「………」


一瞬、音がして誰かの気配を感じたが、気のせいか。


俺はこの時よく調べればよかったと後々、後悔する事になるとは思ってもいなかった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



◆豊穣の乙女の部屋


「それで、何処に逃がしてくれるって?え~と、キラキラ睨み男子のカイエンちゃん?」


「変な二つ名を付けるな?!カイエンだ!それになんで❪ちゃん❫呼びだ?!」


「だって、君の方が年下だよね?」


背は高いが顔は微妙に幼い、高校生くらいだよ。

ここは大人の貫禄ってやつを見せつけて、主導権をとらないとな。


「は?年下?嘘つくな!俺は17だぞ?お前、どう見ても14か15だろ!」


「29だけど、信じろって言っても無理か」


「29~っ?!!ふざけるな!どう見てもガキだろうが!」


は~って、仕方ない。

取り敢えずは、この部屋を脱出してからだな。


「ま、いいや。取り敢えず、ついていくから案内してくれる、何処に行くんだっけ?」


カイエンちゃんはニヤリと笑って、おれに言った。




「裕福な国で親切で優しい人々が暮らすところ、ガルガ王国さ」

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