第20話 隠し通路
おれはその夜は布団をかぶっていたが、一睡も出来なかった。
全くなんて奴らだ。
おれの貞操は風前の灯だ。
なんとか、逃げられないだろうか?!
コンッ、コンッ、「モモ様、お出でですか?」
ろーちゃんの声だ。「はい、どうぞ」
ガチャッ、「お姉様、すみません」
ろーちゃん、今日は赤と白リボンの可愛いドレスだ。
ろーちゃんは、おもむろにおれの前に来ると、綺麗なカーテシーをした。
「お姉様、今日は折り入ってお願いに参りました」
「ろーちゃんのお願い?なんだって聞くよ」
「有り難うございます。それを聞いて安心しました」
ろーちゃんのお願いか、何だろうな?
「二つ、ありまして、よいでしょうか?」
「なんでも言って!ろーちゃんの頼みなら断らないよ」
「うれしいです。一つ目なんですが」
ろーちゃん、手に持ってきた1個の果実を取り出した。
てっ、それ、リンゴだよな?!
「この果実、お姉様の国の果実と聞きました。じつはこの果実の名前が知りたいんです」
「いいよ、その果実はリンゴっていう名前だよ」
「リンゴですか、いい名前です。私、赤い色が好きでこの果実の名前が気になっていたんです」
「そうなんだ、おれの世界でもそういう子がいたかな」
ろーちゃんは、ニッコリ笑うとおれに言った。
「お姉様、私の名前、リンゴにしたいんです。いいでしょうか?」
「え?リンゴに?でも御両親はいいの?」
「二人には許可頂きました。私の好きなようにしてよいと」
そうなんだ、ろーちゃんからリンゴちゃんか、この子、頬っぺも赤いほうだし似合いかも。
「いいんじゃない、ろーちゃんに似合いの名前だよ。あ、リンゴちゃんでいいかな」
「ありがとうございます。それで二つ目のお願いなんですが」
「ん、なんでも言って。リンゴちゃんの頼みは断らないよ」
「うれしいです。私のもう一つのお願いは」
「もう一つのお願いは?」
リンゴちゃんは、上目遣いでおれに言った。
「ベルンお兄様の、赤ちゃんを抱きたいんです」
「ああ、いいよ、それならお安い御用さ?、ん?」
ベルン、ベルン?って誰だっけ?その人の赤ちゃんを連れてくる?
「リンゴちゃん?ベルンさんって何処のどなただっけ?」
「いやですわ、お姉様、いつもお会いしてるじゃありませんか。となりにいますわ」
いつも会ってる、❪となりのベルン❫さん?
傘さして、猫バスで来る人かな?
「なにを話している?」
「あ、ああ、なんかベルンさんの赤ちゃんを抱きたいっていうから、いいよって、うわああ!?」
な、なんで痴漢天使がおれのとなりにいる~っ???!
ああ、隠し扉か!
「!い、いいのか!?」
「は?いいも悪いも、リンゴちゃんのお願いは叶えないと?」
なんで、痴漢天使が喜んでるんだ?
やたら、顔がにやけてるんだけど??
え、わ、触るな、抱きつくな、あうう、はなせ~?!なんなんだ?!!
「私はお邪魔みたいなので、これで下がりますね。お兄様、無理は駄目ですよ」
「わかっている、すまんな、六の姫」
「リンゴです。お姉様から名前を頂いたんです」
「そうか、よかったな。リンゴの姫」
「はい」
リンゴちゃんは、ニッコリ笑って部屋から出て行った。
待ってくれ!コイツを引き離してくれ!くそっ
「俺が、ベルンだ」
「あ?なにがベルンだ?」
「お前、俺の名前、忘れてるだろ」
あれ?コイツはたしか、痴漢天使だよ…な?
痴漢が名字で天使が名前?あれ??
「仕置きだ」
!!???!?!!、ぶはぁっ、はぁ?コイツおれのファーストキスを奪いやがった!
おれのファーストキスが男になっちまった。
なんだよぅ?!泣くぞ。
ああ、なにするんだ!横抱きにするな、どこに、うわっ、ベッドに放り投げるな!覆い被さるな、重い~っ
「俺の名前を言え、モモ」
ヤツがおれに覆い被さったまま、聞いてくる!これって、かなりヤバイーっ!!
「ベ、ベルン?」
「なんで疑問系だ、ベルンだ」
「ベルン」
「忘れるな、モモ。来週、結婚式だ。式が終われば、もう待たん」
やっと解放された、来週だと?!ベルンのヤツ、隠し扉から部屋を出ていきやがった。
ヤバイ、ヤバイ、時間がない。
くそ、どうすれば、この部屋から逃げ出せる?
おれは、全ての窓を確認したが、見事に施錠されている。
『逃がしてやろうか?』
窓を割るのはだめだ。
奴らに感づかれる。
どうしたものか?
いまさらだが、おれは部屋の中を歩き回った。
もしかしたら、他にも隠し扉があるかもしれない。
『おい?聞こえてないのか?』
ビクッ、ヤバ!?見つかったか?
『ここだ、ここだ!』
おれが恐る恐る声のする方を見ると、ベッドの下から手がお出で、お出でしていた。
駆け寄ってそーと、ベッドシーツを上げるとそこにいたのは、謁見の間でおれを睨んでいた、キラキラ男子が床から身体半分出していた。
「え~と?」
「あんた、記憶力ないのか?兄上が俺のこと、叫んでたろ。カイエンだ」
すまんな、❪キラキラ睨み男子❫でメモリーしてたよ。
「なんでおれが、逃げようとしてると?」
「は?だってあんた、部屋の窓の鍵、全部確認して回ってたじゃん」
おい、いつからソコにいた?!って、そんな所に隠し扉があんのか?!
キラキラ睨み男子は、ビックリしているおれをみて、ニヤリと笑った。
「この城は、隠し通路があちこちにある。ここを含めて兄上が知らない通路も、結構あるんだ。だから、俺に付いてくれば逃がしてやるよ」
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