第18話 人身売買

「え~と、王様、お、私のお願い、聞いて貰えますか?」


「ほう、豊穣の乙女の願い、何でも言うてくだされ」


「実は月の女神様から、神託をいただいておりまして」


「ふむ、ふむ」


「成人前の女の子に、名前がないのは如何なものかとおっしゃりまして」


「それで?」


「今後は成人前の女の子に、名前をつけるべきとの神託がありました」


「なるほど、あいわかった。乙女はうちの姫達に名前をつけよ、そう、申したいのだな?」


「はい、さようで」


「その願い、叶えよう」


「へ?」


王様はその顎ひげを撫でながら、おれを見てニヤリと笑った。


「街の演説は聞いておる。すまなんだな、そなたのお陰で悪しき慣習は失くなったぞ」


そうか、あの演説は効果抜群だったというわけだ。

良かったなぁ、これで、ろーちゃんに名前が貰える。

その妹ちゃん達も。

ろーちゃんが、涙目でお辞儀をした。

良かった、良かった。

よし、これでもうここには用はないな。


「カイエン!なぜ、挨拶しない?!」


は?なんだ、痴漢天使が叫んだが?

ああ、そーいえば、きらきら男子は四人だったが三人しか挨拶してなかったな、どーでもいいが。

よくみたら、これ四つ子か?すると痴漢天使はどう見ても年上だから、一人で生まれた?

はれ?今は多産になってるけど、例外があるって事?


ん?最後のきらきら男子、なんかおれを睨んでないか?なんか、おれ、したっけ?


「ふん!」、「カイエン!何処に行く?!」


あ~らら、なんか急ぎ足で出ていちゃったよ。

まあ、別に構わんけど。


「すまんのぉ、前はもっと素直じゃったんだが、いろいろあってのう」


王様が、済まなそうに言った。


「いえ、大丈夫です」


よけいな事に、首は突っ込まないです。

はい。




◆◆◆




「済まなかったな、弟が無礼を働いた」


謁見が終わって、部屋に戻ってきたら痴漢天使が謝ってきた。


「気にしてないし、問題無い」


関わらない、関わらない、よけいな事はいらないです。


「俺の兄弟は、本来は13人だった」


関わらない、関わらない、え?


「13人?!」、あう、反応しちまった!


「俺が三つ子で、六の姫も三つ子だった」


「まさか」


「ああ、居ない兄弟は全部女だ。三人、成人前で死んだ」


そうか、ろーちゃんは三つ子だったが一緒に生まれた姉妹は、死んじゃったのか。

そして、痴漢天使の姉妹も、ん?


「そうだ、俺の姉の一人は成人して生きている」


「そうなんだ?今日は何処かに出かけてるのか?」


急に痴漢天使ベルンが、苦虫を噛み潰したような顔をした?


「姉、メリダは俺が売った」


「は?!」


撃った?打った?売ったか!売るってっ!


「おまっ、売ったって!」


「そうさ、成人女性は高く売れる」


コイツ、何を言っている?高く売れる?血の通った人間を?しかも、肉親を?!


「貴様、ふざけるなよ!高く売れるだと?!まして肉親だぞ、お前、それでも人間か」


最低だ!最近はなんかいい奴かな、って思いはじめてたのに、なんなんだよ。

この世界、女に厳し過ぎるだろ!


「なら、何か?おれも高く売れるから連れてきたのか!?お前、最低な奴だな!」


頭きた。こんなとこ絶対、逃げ出してやる!


「精霊どの、待って下さい!」


「うわああぁっ?!!」


おれの背中越しにストーカーが、いきなり声をかけてきた。

コイツ、最近よくおれの背中側にいるよな?背後霊でストーカーって、めちゃめちゃ怖いんだけど?!


「ベルン殿は、言葉が足りません。結果として売ったと表現されてますが、基本、他国への輿入れです」


「そうなんだ?」


なんだよ、めちゃ誤解したじゃないか。

言い方、改めろよ。


「変わらん、恋仲を割いて他国に嫁がせた」


いや、それ鬼畜だろ。


「おい、どっちなんだ?おれはお前を見損なうか、どうかの瀬戸際に立ってんだぞ」


「うちもそうでしたが、特にこのカイオス王国は暗黒竜が最初に出現した場所なのです」


は?なんだ、何の話だ?強姦魔が割り込んで話てきたが、最初に出現って言ったか?

アイツ暗黒竜は、湖に棲んでいたんじゃないのか?


「お前も、途中で見てきただろう。あの荒れ地はかつて、豊かな穀倉地帯だったのだ。暗黒竜が現れて、毒の黒い霧を吐き出すまでは」


痴漢天使ベルンの話は、暗黒竜という厄災にもっとも翻弄されたカイオス王国と、その影響を受けた二国の物語だ。


今から30年前、カイオス王国に突如、暗黒竜が舞い降りた。

暗黒竜は王国の半分を蹂躙し、多くの王国民の命を奪った。

隣接する国々は、自国に暗黒竜が移動する前に倒そうと、王国に援軍を送ったがことごとく敗退。

これについて、もっとも積極的だったのは、カイオス王国と同盟関係にあったキハロス王国だったが、数千人もの兵力を失ってレイク湖周辺に暗黒竜を押し留めるのがやっとだった。

その後、暗黒竜は湖周辺に住み着き、あまり動きまわらなくなったが、湖に隣接する三国はそれ以外の国々から自国に暗黒竜が移動しないよう、引き続きの暗黒竜討伐を要請されるようになる。

引き換えに、要請国からは討伐援助物資が定期的に得られる様になったが、実質的な討伐に関しては三国に委ねられた。

ちょうど、このころから大陸全土で成人前の女性の原因不明の病がまん延し、大勢の少女達の命が失われた。

同時に女性の妊娠出産が多産化したものの、その後も病の猛威は止まらず、今日に至っている。

この影響は只でさえ、討伐で人的資源が枯渇気味だった三国に取っては致命的だった。

特に暗黒竜の出現当初から直接的な被害を受けたカイオス王国は、大陸一の最貧国になり諸外国からの援助なしには、国の体裁が保てないほど疲弊してしまった。

国は荒れ、暗黒竜の影響か農産物の収量減と家畜の減少は、討伐に兵をだす余力すら奪った。

だが、討伐に兵を出せなければ援助物資は得られない。

いつしか、諸外国のからの要請が援助物資を送るかわりに、成人女性の移住を要求するものに代わっていた。

事実上の、人身売買の要求である。

すでに国民が飢える瀬戸際にあるカイオス王国にとって、もはや、この要求を飲む以外の選択肢は存在しなかった。

多くの成人女性達が恋人や夫から引き離されて、諸外国に物資と引き換えに送られた。

当然、国民の不平不満は国を統治する王家に向く。

そして国民にだけ負担を強いているだけにはいかず、ベルンの姉、メリダが他国に嫁ぐという名目で売られたのだ。

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