第16話 慣習と病
女だから、育つかどうかわからない?
女だから、名前すらつけてもらえないだと?
女だから、軟禁されて自由がない?
男尊女卑だと?
おれだって、今は女だぞ!
「このくそ男ども、女を差別するな!」
こうなりゃ、婦人運動だ!!
(婦人に対する差別を撤廃し、社会的地位・権利の向上を目的とする女性による自覚的な社会運動。 近代以降、女性の参政権獲得運動を中心に、男女平等の実現を求めて展開されてきた。 女性を主体とする平和運動・消費者運動なども含める。)
「いたしかたないのです。人口問題が国力に直結する今の状況で、確実に子供を産める成人女性の確保はすでに国家戦略です。女性への誘拐、略奪が国家レベルで行われている現状であり、軟禁は女性を守る苦肉の策です」
わかっている、判ってるよ、強姦魔。
その事実を知っていたから、森に隠れ住んでいたんだからな。
だが、今おれが怒っているのは其処じゃない。
「そうじゃない!子供は親の愛を感じながら成長するものだが、その中で親から様々なものを受け取る事は子供にとって、親の愛を感じる一つの手段だ。名前を貰えないという事は、生まれて最初に受け取るべき親の愛を感じる事が出来ないわけで、それは子供にとって最大の不幸だ」
強姦魔とストーカーが、うんうん頷いてる。
ほんとにお前ら、判ってんのか?
「まったくその通りですが、我々は世間の慣習まで規制出来ないし、してません。誕生後に名付けする、しないは各、家庭の自由です」
「そうなの?」
「ただ王家は影響が大きいので極力、世間の慣習を踏襲するのが慣例ですね」
「なに?じゃあさ、ここの、ろーちゃんが名付けして貰えないのって」
「たぶん、世間の慣習に従っての事でしょう、ろーちゃん?」
「あ、ああ、六の姫だから、ろーちゃんって」
「なんか、安直ですね」
「ほっとけ!」
なんだよ、それじゃあ、ろーちゃんが名前貰えないのって世間の慣習なのか?!
「ばっかじゃないの!」
「勇者様?」、「精霊どの?」
「そんな悪しき慣習、ぶち壊してやる!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆ベルン視点
「六の姫、いるか?」
こほっ、こほっ、「ベルンお兄様?」
六の姫は、ベットからずり落ちて床に座りこんでいた。
俺は、慌てて六の姫を支える。
「大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます。今朝は調子が良かったのですが、夕方から体調が崩れまして、こほっ」
「早くベットに」
「大丈夫です、いつもの事なので」
苦しいのに、無理してにっこり笑う六の姫。
居たたまれない。
発病して3ヶ月、余命はあと半年あるかないか。
「私、豊穣の乙女様にお会いしましたの。本当に素敵な方で、こほっ、お兄様は果報者ですわ」
「もう、喋るな。苦しいのだろう」
「お兄様、私の願い。叶えて下さいませ」
「……俺だけで出来る話しではない」
「判っております。だから、私、豊穣の乙女様にお願いするつもりです」
「?!ま、まて、そう言う事は順序だてが必要で」
「あら?日頃、強気のお兄様がこんなに奥手だとは、知りませんでした」
「…………とにかく、その話しは乙女にはするな、判ったな」
こほっ、「判りましたわ」
「また、あとで寄る」
「はい、お待ちしております。あ、あと妹達の様子も後で教えて下さいませ」
「ああ」
バタンッ、俺はドアを閉めて上を見上げて暫し、佇んだ。
はぁ、今言えばあいつ、逃げ出すだろうな。
どうするか、参ったな。
「とりあえず、七の姫と八の姫のところに寄るか」
俺は、二人いる方に足を向けて歩きだした。
そこに、従者のアーノルドが駆け込んできた。
「殿下、た、大変です!」
「なんだ?何事だ?」
「そ、それが豊穣の乙女様が」
「あいつがどうかしたか?また、逃げ出そうとでもしたのか?」
「それが、二人の夫候補の方々と街の広場で、演説を始めました」
「はぁ?!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「はーい、皆さん注目、私が皆さんのアイドル豊穣の乙女でーす」
おれは、あの後、ストーカーと強姦魔をお供に人々が集まる広場の真ん中、噴水前に来ていた。
おれは、必殺技で作った簡易拡声器で街行く人々に話しかける。
効果は
「豊穣の乙女から、皆さんにお願いがありまーす。今後、皆さんのなかで成人前の女の子がいるご家庭の方、については、ただちに良い名前を与えてください。と、月の女神様からの神託がありました。宜しくお願いしまーす」
おお、何人かの人々が走っていったぞ。
これで、慣習の上書きが出来たかな。
よし、これでろーちゃんの御両親に
「何をしている」
後ろを振り向くと、青筋を立てた痴漢天使がおれを睨んでいた。
は?!こ、これは、まさか。
カルト教団の教祖の相場は死刑です。
良かったね、教祖ちゃん。良かったね、教祖ちゃん。良かったね、教祖ちゃん。良かったね、教祖ちゃん。良かったね、教祖ちゃん。良かったね、教祖ちゃん。良かったね、教祖ちゃん。良かったね、教祖ちゃん。良かったね、教祖ちゃん。良かったね、教祖ちゃん。
おれは、滝の様な冷や汗をカキながら、奴の次の言葉を待った。
「とにかく、城にもどれ。お前たちもだ」
あれ?思ってたんとちがう、なぜ頬を染めておれから目をそらす?
なんだ、これ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます