第15話 二つ名

「理解できんわ」


「お前が理解する必要はない、まあ、お前が王妃になる為の肩書きみたいなもんだ」


「王妃だと?!そんなもん、なりたくない!」


「却下」


くそう、さっきから却下、却下と言いやがってこの俺様野郎!


王都に入ると沿道には沢山の人びとが、空に拝みながら盛んに何か言っている。

おれは、痴漢天使に聞いた。


「おい、皆、何を言ってるんだ?」


「お前の事を称えているんだ」


「は?おかしいな、なんか女神がどうたらこうたら言ってる気がするが」


「俺もちょっとやり過ぎてな、豊穣の乙女は月の女神の使者だと言っていたら、❪豊穣の月の女神❫になってな、一部の市民が神殿を作れといいだしたんだ」


「なにしてくれてんの?!おれをカルト教団の教祖にでもするつもり?ヤバいじゃん!!」


お~いお茶、じゃない。

お~い、教祖ちゃん、いらしゃい。

あなたは、きょうから教祖ちゃん。

あなたは、神輿で、金づるで、お飾りです。

信者の暴走は、あなたが責任とりましょう。

カルト教団の教祖の相場は死刑です。

良かったね、教祖ちゃん。


良かねぇわ!!ふざけんな!


「カルトの意味は判らんが、嫌がってるのは判るな」


「当たり前だ、おれに二つ名はいらんわ」


「申し訳ありません、その、精霊さま、是非とも我が国にもあの野草の種を頂きたく」


ストーカーが話しに割って入った、お前もか。


「種はやる、だが、二つ名はよせ!」


「申し分けありません、すでに我が国ではあなた様は、湖の精」


「あ~、もう、いい!とにかく、おれを教祖にするな、やめろ」


「その、すでに我が国の湖の畔に神殿を建設中で」


取り壊せ?!!」


「勇者様、実は我が国にも勇者教の団体が」


「………………」



◆◆◆



城に着いたおれ達は、痴漢天使の両親に会う前に身支度をする事になって、別々の部屋に案内された。


ふぃ~っ、やっとアイツらから解放された。

奴ら、馬車の中じゃ何かと密着してきやがって、厚っ苦しいわ、おさわりするわ、ほとほと参ったわ。

とにかく、どっかで逃げ出さないと、あの犯罪者どもに何時襲われるかわからん。


トンッ、トンッ、「豊穣の乙女さま、いらしゃいますか?」


ん?女の子の声?!久方ぶりに聞いたぞ。

豊穣の乙女、おれの事か?!


「はい、おります」


カチャッ「失礼します」


ありゃ、茶髪な可愛い女の子じゃん。

10歳位かな。

女の子はおれが座っているソファまで来ると、おれの横に座った。


「あの、ベルンお兄様とのご結婚おめでとうございます」


「いや、あの」


結婚しないよ!って、「お兄様?」


「私、妹です、ベルンお兄様の」


妹!そうか、そうだよな。

兄弟が9人もいれば、妹だって生まれるよな。

あまりにも最近、女を見ないもんだから男同士で子供を作ってるのかと錯覚してたよ。


「はい、よろしく。えーと?」


「……六と申します」


「はい?」


「六と、皆からは六の姫と呼ばれております」


ろく、ロク、六か、あれかな?旋毛つむじに6の数字が三つある子かな?

ホラーだな。


「あの、六番目に生まれたと意味で」


「そうなんだ?それが名前なの?」


「………女は成人に、15歳にならないと名前を貰えないんです」


「え?なんで?」


「………成人まで生きれる女は少ないから…」


何、その理屈?最低だな。

親の愛とか、家族愛とか、そういうなかでの名前じゃないのか?


「あの、お姉さま、とお呼びしてよいですか?」


「お姉さま?」


「私達、他の女性の方にお会いした事がないので、嬉しいんです」


そうか、ただでさえ、ほとんど軟禁状態。

その上、同じ同性の友達も難しい。

辛いな。


「いいよ、お姉さま呼びで」


ぱあっ、「お姉さま」


いい笑顔で笑ったこの子に、幸せがくればいいな。



◆◆◆



「六の姫にあったよ」


「そうか」


「可愛い女の子だな」


「ああ」


翌朝、おれは痴漢天使に六の姫に会った事を伝えた。

だが、奴の返事は感情のない淡々としたものだった。

だから、おれはブチキレた。


「お前、妹の事!どう思ってんだ?家族だろ?」


「ああ、大事に思ってる」


「なあ?あまり、気持ちが伝わってこないんだが?」


「そんな事はない」


「………」


なんだ?こいつ、妹の話しを出した途端、いつもの覇気が感じられない。

どういう事だ?


「ちょっと用事を思いついた、失礼する」


奴は立ち上がって、部屋から出ていってしまった。


「おい、ストーカー、お前のところの妹達は名前はあったのか?」


おれは、後ろでおれの髪を梳かしているストーカーに聞いた。


「ラーンとお呼び下さい。そうですね、私の妹達は住んでいた宮の名で呼ばれていましたね」


「宮の名前?それって住んでいる場所の名前で呼んでいたって事か?」


「そうですね」


ストーカーは遠い目をして、何かを思い出している様子だった。


「なんか悪い、変な事を聞いたな、忘れてくれ」


「いえ、妹たちも精霊さまに気にして頂き、喜んでいるでしょう」


奴はニコニコしながら、おれの頭にキスをした。

は~、こいつはほんと、おれの背後にまわるのが好きだな。

霊か?


「勇者様はお優しいのですね」


「?優しい、なにが?」


強姦魔がなんか言ってるな、さっきからおれの左手をもて遊んでるが。

おい、あまりおれの手を舐めるな。

犬か。


「育つかどうか、わからぬ者にも気をかけていただける、そのお気持ちのありようがお優しいのです」

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