第11話 備えあっても憂い有り

備えあれば憂い無し。

用意周到。

まあ、そんな訳で。


「勇者様ーっ、どちらにいられますか?!早く、姿をお見せください!」


「…………………」


強姦魔に姿をお見せください言われて、ここよーって、出ていく女子、何者だ?


「……………様、どちらに………………」


「……………」、シーン


ばさっ、「ふぃーっ、やっと行ったか。まったくほんと、しつっこい」


おれは、枝と蔓で編んで作った蓋を放り投げた。

おれは、いま縦穴式住居(後期旧石器時代~)?いや、縦穴式隠れ家に潜んでいた。

町に行くにあたり、事前に森の入り口付近数ヶ所に、縦穴式隠れ家を作っておいたのだ。

地面をちょっと掘って、枝と蔓で蓋するだけの簡素な物だが、効果は絶大だ。


「くく、これがいわゆる土遁の術よ」


「土遁の術?」


「ああ、昔の忍者の術で追跡者から身を隠す技の事さ」


「なるほど、貴女の国ではそのような者達がいるのだな」


「昔の話、現代にいるのは観光客目当てのなんちゃって忍者だよ、たいした技もな…い…………?」


あれ?おれは今、独り言を言っていたよね?

なんで、それに返事がある??


「え~と?どなたかいらしゃいますか?」


「後ろだよ、我が妻よ」


後ろを振り返ると、そこには茶髪、茶の瞳のイケメンが一人、しゃがんでおれを見つめていた。


「………………」


「ふむ、よい子が産めるよい尻をしている」


「ぴ」


「ぴ?」


「ぴぎゃあーっ?!!」


「どうした、何故驚く?」


お、おれは、今、隠れ家にうつ伏せになっていたのだが、そのおれの尻を後ろから茶髪痴漢野郎が触りやがった!!

あまりの事に、思わず叫んで飛び起きた。


「勇者様?!そこにお出ででしたか!」


「ぎゃーっ?!!」


ヤバい、ヤバい、ヤバい、強姦魔と痴漢魔が揃い踏みしやがった。


「勇者?おい、勇者って女だったのか?!どういう事だ?」


痴漢魔が、おれと強姦魔を交互に見ながら言う。

絶体絶命なこの状況、起死回生の策は?!あ、あった!肉を切らして骨を断つ作戦!!

おれは、痴漢魔に言った。


「おい!そこの痴漢魔!」


「は?誰が痴漢魔だ!?」


「あんたが奴を足止めしてくれたら、言うこと後で聞いてやる!」


痴漢魔は目を見開いて、おれを見た。


「!!、約束だぞ?」


「男に二言はない!」


強姦されるより、触られて気持ちの悪いくらいなら、そっちの方がましだ。


「?とにかく、そういう訳だ。お前は俺が相手だ」


痴漢魔は、おれと強姦魔の間に割って入った。


「勇者様?!な、なにを!あの日の約束を反故になさる気か?私は貴女に身も心も捧げたのに」


「こら、おれがお前を襲ったみたいに言うな!」


おれは、後は痴漢魔に任せてその場を逃げ出したのだった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




おれは、ようやく大樹のところに戻ってこれた。

朝、大樹を出発したのに太陽はすでに、西日になっていた。

普通なら、昼に帰れる予定だったのに!

全て強姦魔のせいだ、くそ。


うう、今日は町に買い出しに行っただけなのに、なんでこんなに疲れるんだ?

おまけに縦穴式隠れ家の欠点、泥まみれがおれを悩ませる。


汗だくで泥まみれ、ん、やっぱり洗剤は○タック▪ゼロか○リエールか、あ、洗濯洗剤は洗濯機でないと駄目か?いや、洗濯洗剤自体、無かったわ。


「ええい、また、岩礁まで泳ぐべ」


おれは、服とローブを蔓で編んだ籠に入れ、その籠を蔓で身体に巻き付ける。

見よ、必殺、❪泳ぎ洗い❫だ。

スイミング▪ウォッシュ?

なんか、ネーミングセンスないな。


おれが、岩礁まで泳ぎ着いた時、周りはすっかり夜になっていた。


ブルッ、「さすがに冷えるか」


ん~、勢いで泳いできたが、帰る時間を考えてなかったな。

ちょっと寝てらんないし、身体を温める為にも歌でも歌うか。


♪♪♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪


ふーっ、魔法少女プリプリを六番まで歌ったぞ。

しかし、なんでアニメでは一番しか主題歌に使わないのに、こんなに有るんだ?

多いよな、そーゆーの。

まあ、それを6番全て歌えるおれ、ヤバいわ。


「精霊どの」


「どわぁあああ?!」


今度こそ一人だったはず?!お化けか?


「やっと、やっと来てくれたのですね」


ボワァッ、いきなり松明に火が?!え?あああ?!人が周りに何人もいる?

げっ、囲まれてるじゃん!!


あ、おれ、今、下はズボンを履いてるけど、上は裸じゃん?!!

え、不味い!


「あーっ、と、ごめんなさい。皆さま、それ以上、近寄ると、お、私は精霊世界に強制的に帰されますので、ストープッ、願います」


「なんと?!皆の者、そのまま下がれ!」


よく見たら、銀髪イケメンのやさ男って?!あれ、こいつ、あの帆船野郎か!

まさか、あの日からずっとここに通ってたわけじゃないよね?


「あの日からずっと、貴女に逢える事を思い、ここに通っていたのです」


「………………」


こいつ、ストーカーだわ、やべぇやつだわ。


「どうか、私の事はラーン、ラーン▪フォン▪メテルナとお呼びください」




さて、どうやってここから脱出すればいいのか、……ぜぇん、ぜぇんわかりましぇん。

だれか、おせーて。

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