第10話 町

野菜を収穫してから気がついた。

考えてみたら、まな板も包丁も皿もない事に今更ながら気がついた。

いかん、さすがにこれでは何もできん。

ビスケット生活だったから、使う必要がなかったからなぁ。


「やはり、町に行くしかないか」


うーん、ローブをかぶって行くとして、背丈の低さはいかんともしがたい。

どうしたものか、ウエッジソールサンダルとかトールシューズとかみたいなの、作れればいいんだが、いかんせん道具がない。

ちなみにシークレットシューズは、ん、ま、いいか。


いやいや、この世界の人間は本当に皆、背が高い。

平均が180~200cmくらいか、対しておれは150cm、目立つよな。

討伐成功パーティのとき、数人の女性に会ったけどそれでも180以下はいなかった。

皆、綺麗だったけどおれを見ると扇子で口元を隠して、フンッ、だと!見下しやがって。

好きで背が低いわけではないわ。


どちらにしても塩も無いからなぁ、どっかに岩塩でもないか?な。

うう、いちかばちか町に行くか?

金は、討伐の時に支度金としてもらっていた金貨が数枚ある。

あ~、王都を出る時、変態、いや、強姦魔にジョブチェンジしてるか、奴のせいでドタバタだったからな。

もっときちんと準備する予定だったのに。


次の日、おれは町の近くまでくると、なるたけ人目にふれないように道端の荷馬車や荷積みの樽の影に隠れながら、目当ての店に向かう。


あれ、なんか前に来た時より活気がある?あ、荷馬車の荷台に積まれてるの、おれが植えた野菜じゃん。

おう、スイカもあったか、あとで採取に行こう。

いいね、活気があるの!町はこうでなくっちゃいけねぇ、江戸っ子だねぇ!


と、店についたな、ここは討伐時にローブを買った雑貨屋だ。

店主は眼鏡かけたじーさんだったはず、なんとか売ってくれるかな。

おれは、他の客が居ないのを確認して店に入る。


「らっしゃい」


じーさんがなんか新聞?みたいなものを読みながら言った。

よく、おれを見てないな、チャンス!おれは急いで目当ての物を蔓で編み込んだ籠に入れると、じーさんの前に金貨と一緒に出した。


じーさんは、出された物を確認して、「金貨2枚」って言ったあと、おれを見てフリーズしやがった。

ヤバい、おれはすかさず金貨2枚をカウンターに置いて、籠を引ったくると慌てて店をでて、元来た道を足早に森に向かう。


町の外れまで来れたので、ようやく一息ついたな、と、歩き出そうと


「勇者様ーっ」


ジョーズのBGMが、聞こえてきやがった?!!

ぎゃーっ、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバいーっ、おれは一目散に逃げ出した!!

奴の背中に、サメの背びれが見える?!

くそ、ポリペイモスめ、こっそりクラゲに監視させていたか!って、速い、速い、速い、

お巡りさーん、強姦魔がいるよーっ!助けてーっ!!




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




◆ジーナス視点


私はやっと、イデアの町に戻ってきた。

考えて見たら、最後に勇者様の目撃情報があったのがこの町だ。


ふと見ると、王家の馬車が停車している?

町の商業ギルド前に停車か、私はギルドを素通りして市場方向に足を進めた。


「ジーナス?!ジーナスではないか!」


ちっ、やはりベンツェン兄上、面倒だな。

何故、兄上がかような辺境にいるのか?まったくもって理解できない。


「ベンツェン兄上、こんな遠隔地まで如何されたのですか?」


「久方ぶりに会った弟は、私に質問でかえすか、まあ、それもよかろう。なにな、この町で食用の野草が大量に収穫できると聞いて、真偽の確認に来たのだ」


「野草?」


「見ろ、この荷馬車の中を!量だけではないぞ、その種類も豊富、質も上質、味まで良い!しかも、成長が速いのだ」


「これは?初めて見ますが、一体どこに生えているのです?」


「湖を囲む森の中だ、森の中心に行くほど物量が増える、最初に採取した者が言うには黒い妖精の贈り物だとか」


「!!、兄上、その採取者に会う事ができますか?」


「あ、ああ、なんでも、この先で雑貨屋をやっている年寄りらしいが?!、おい、ジーナス!どこに行く!?」


まさか、勇者様、そこにお出でですか?私が向かった雑貨屋は、あの勇者様がローブを購入された店だった。


ガラン、「失礼する」


「らっしゃい」


カウンター奥で、眼鏡の老人が挨拶した。

私は、さっそく老人に事の次第を確認する。


なんでも、暖炉にくべる薪を取りに森の奥に行ったところ、なにやら若い女の歌が聞こえてきた。

それで隠れて見ていたら、森の奥から黒髪の美しい少女が聞いた事のない言葉で歌を歌いながら、手に布の包みを持って歩いてくる。


さらに観察していると、木が枯れてまばらになった荒れ地に、木の棒でスジ掘りを始めた。

そして、そのスジに掘った地面に布の包みから出した、いくつかの粒を蒔いていく。


そして、また歌を歌いながら森の奥に消えて行った。

老人が地面を見ると、先ほどの少女が蒔いていたと思われるスジ掘りの地面から、すでに芽がでており、みるみるうちに成長して実を付けた。

老人はそれを採取して、商業ギルドに持ち込んだとの話だった。


間違いない。

黒い妖精は、勇者様に違いない。

であるなら、勇者様は森に居るのだろうか?


老人の店を後にした私は、野草の確認をしようと一旦、商業ギルドに向かおうと足を進めた。


ふと、すでに遠くに見える老人の店からローブを着た人物が出てくるではないか。

あのローブ!私は迷わずローブの人物を追いかけた。


ぬ、意外と足が速い?!不味い、声をかけねば!




「勇者様ーっ」

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