第12話 ヤクソク

「ちょっと、まったーっ!」


誰だ、○るとん(1984~1994)みたいな掛け声する奴は?

皆と一緒に声のする方を見ると


「ひぃ!?」


おれは、思わず悲鳴を上げた。

おい!なんでお前ら、ここにいるんだ?


そこには、なぜか強姦魔と痴漢魔が仲良く並んで居やがった。

強姦魔と痴漢魔とストーカーが揃って何が起きるんだ?フィーバーか?、時短に入ったって必ず当たるとは限らんぞ!


おれは、両手で胸を隠して座り込んだ。

終わった。

強姦魔と痴漢魔が出来てるとは思わなかった。

これで背中からストーカーに刺されれば、万事休すだ。

すまん、妹、弟、兄ちゃん、魂になって皆のところに帰るよ。


「抜け駆けは困る、先に約束を取り付けたのは俺だ」


痴漢魔がなんか言ってるな、ヤクソク?ヤクソクってなんだ?○ルソックか?

警備保障がなんの用だ?


ん?痴漢魔がストーカーとおれの間に入ったな、なんだ?また、おれの尻を触るのか?気持ち悪いんだが。


「おい、岸まで泳げるか?泳げるなら行け、あとは面倒みといてやる」


痴漢魔が背中越しに、おれに言った。

なに、逃がしてくれるの?痴漢魔が急に痴漢天使に昇格したんだけど?!

おっと、今は考えている場合ではない。

おれは、服とローブが入った蔓織り籠を掴むと、そのまま湖に飛び込んだ。


「精霊どの!!」


「おっと、そのまま動くなよ!」


おお、後ろで痴漢天使が見事に足止めしているのが聞こえる、流石天使、とか思いつつ、おれは全力で岸を目指した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



◆ベルン視点


「おい、お前、詳しく説明しろ!なんであの女の事を勇者と呼んでいる?」


俺は、女を追ってきた男に質問した。

しかしこの男、何処かで会った事があるような気がするが。


「そのままの意味です。とにかく、私と彼女の問題に口を挟まないでいたたぎたい」


奴は俺を無視して女を追って行こうとしたので、回り込んで奴の前に立ちはだかった。


「まて、ならなにか?キハロスは勇者を他国に奪われるのを恐れて、男だと偽っていたのか?」


「そんな事はしない。勇者様は召喚された時は確かに男性だった。だが、討伐時に浴びた暗黒竜の血のせいで女性になってしまったのだ。だから、私は王族としての責務を果たそうと求婚した。そして、勇者様は求婚を受け入れてくれた。それなのに、勇者様は私から逃げてしまわれたのだ。なにか、誤解があったに違いない」


「だから、追いかけているのか。キハロス王国第三王子ジーナス」


「!何故、私の名を」


「何度か、会ったことがあるだけだ。俺はベルン▪フォン▪カイオス。カイオス王国の第一王子だ」


「な、何故、ベルン殿は我が国の領地にお出でなのか?!」


俺が、身分を明かした事で奴は焦っている、このまま畳み掛けて、俺を認めさせよう。


「そりゃ、俺も勇者様に求婚しているからな、さっき正式に了解を貰ったところだ」


「?!!」


「悪いな、第一夫は俺で決まりだ。だが、お前が第二夫になるならその誤解を俺が解いてやってもいいぜ」


ジーナスは苦虫を噛み潰したような顔をしたが、俺に手を出してきた。


「………ベルン殿、よろしくお願いいたします」


よし、これで主導権は俺のものだ。



◆◆◆



それから、俺達は勇者の後を追って森の奥にやって来た。


「ベルン殿、勇者様の居どころが判るのですか?」


「ああ、多分な。ついて来な」


俺は、前に女を見失った大樹の前に来ていた。

女が使っていた土遁の術?と同じような蔓と枝で編んだような場所があるか?!あれだ!

俺は大樹に周りの枝や蔓に混じって、蔓と枝が不自然に編み込まれたところを発見した。


それを掴んで動かすと、大樹に空洞が現れた。

中に入ると蔓で編み込まれた敷物や、籠、町で買ったと思われるナイフやまな板、包丁などが置いてあった。

間違いない、ここがあの女の隠れ家だ。

だが、女がいない。


「ここが、勇者様の隠れ家ですか?」


「そうだ、だが、留守のようだな」


まてよ、女は泥の上に寝そべっていたな、かなり汚れていた。なら、目的は湖か!

俺は最短ルートで、湖に向かって歩いた。

もちろん、ジーナスも俺に続く。


だいぶ辺りは暗くなってきたな、む、これは、女の足跡だ?!湖に続いている?泳いだのか。


俺は湖の先を見た。

メテルナ王国の帆船が、ある岩礁に近づいていた。

不味い、いやな予感がする。


「ジーナス、泳げるか!勇者はあの岩礁だ。メテルナの帆船が狙っている。俺は行くぞ!」


俺は、すぐに湖に飛び込んだ。

ジーナスも、後に続いているのが判る。

間に合え!!


岩礁に到着すると、数人の男達に女が囲まれていた。

野郎、その女は俺のだ!俺はすぐに叫んだ。


「ちょっと、まったーっ!」


よし、奴らの動きが止まった。

だが、男達の中に見知った奴がいた。

ラーン▪フォン▪メテルナ、メテルナの王太子だ。

なんだ、あいつも勇者狙いか、なら、話をつけてやる。


「抜け駆けは困る、先に約束を取り付けたのは俺だ」


俺は奴が躊躇している隙に、女と奴の間に割り込んだ。

女は諦めたように、肩を落として座り込んでいる。


「おい、岸まで泳げるか?泳げるなら行け、あとは面倒みといてやる」


女は目を丸くして驚いていたが、すぐに湖に飛び込んだ。

初めてまともに顔を見れたが、凄い美人だ。

国の女共が霞んで見える。

必ず、俺の女にする。


「精霊どの!!」


「おっと、そのまま動くなよ!」


「お前は?!何故、私の恋路の邪魔をする!」




「何故?そりゃあ、俺があの女の第一夫だからさ、あんたが第三夫になるなら話してやってもいいぜ」

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