第5話 家と水浴び、そして
さて、住む家を一から作るとなると結構大変だな。
なにか洞窟とか、木がうまく繁ってるとか、なんか土台が欲しい。
なにせ大工経験などあるわけなく、さらに道具すらない。
うむ、安直な考えだったな。
だが雨露凌げる場所は必要だ。
ふうっ、おれはため息をしながら木々を見上げた。
こういう時、はやりライトノベルズの主人公ならご都合主義よろしく、魔法で簡単に建てたりできるものだが、おれは勇者として召喚されたのに言語理解の能力以外、なにもなかった。
暗黒竜の討伐で竜の首が斬れたのだって、聖剣クサナギがめっちゃ切れ味がいいからだ。
まあ、今のおれはあの時よりさらに力はなくなって、剣すら持ち上げられない。
なのでクサナギは借り物でもあったので、城に置いてきた。
今、おれが持っているのは護身用短剣だ。
と、見ると向こうにかなり大きい木が見える。
このままでは埒が明かないので、すこし周りを探索してみよう。
おれがその木の周りを探索しながら、その大きな木に近づくと、木には大きなうろが開いていた。
木の幹の太さは10m 以上、うろの直径は3m近い。
おれは意を決して中に入った。
中は以外に広い、八畳はあるか。
良かった、これなら住めそうだ。
うろの穴を樹木の葉や細かい枝を織り込んでドアのように入り口を塞げば、それだけでカモフラージュになる。
正直、おれはこの姿になってからかなり弱気になっている。
あの町での目線を思い出すと、何故か鳥肌が立つのだ。
女が男に見られる感覚、なんかいやらしい欲望をぶつけられるような、ねっとりとした感じは凄く気持ち悪い。
おれも、そんな目で女を見ていたのだろうか?
どちらにしても、ここに住んでいる事は人から隠した方がいいだろう。
少なくともおれは、強姦魔から狙われているのだから。
くん、くん、なんか臭い?この密閉空間に漂うこの匂い!あう、おれの汗の臭いだ。
はは、そういえばこの5日間体をふけなかったな。
桶がない、どーするかな、湖か、そうだ、泳ごう!
おれは、早速湖に向かって歩きだした。
湖畔に着くと岩場の陰に衣類を隠し、そのまま湖に飛び込んだ。
湖の中は意外とあったかい、20度?くらいある。
気持ちいい、おれは背泳ぎでゆっくりと泳ぎを満喫した。
ふと見ると、岸から結構離れていた。
ありゃ、いつの間に?まあ、いいか。
なにか、急ぎの事がある訳ではない。
あるとしたら、元の世界に帰る為の情報を得る事だが、正直、町に行く勇気がない。
あとで考えよう。
おれは岸に戻ろうとして周りを見た時、湖の中央付近に小さな岩の小島を見つけた。
距離的に今の位置からは岸も小島も同じ位か、せっかくだ。
あの小島に上陸して、一休みしてから戻ろう。
おれは小島を目指して泳ぎだした。
そこは小島というより、ただの岩礁だった。
だが、上陸して休めるスペースはある様だ。
おれは、満を持して水から上がった。
ぐっと胸に荷重が掛かる。
自慢ではないが、おれの胸はCカップ以上あるだろう。
水中ではお陰で浮力を感じたが、今は重力が胸を引っ張る。
いや、これ女の子が肩が凝るの、わかるわ。
あ、おれ、今は女の子だった。
ちなみに、おれは今、全裸だ。
ああ、湖面に映る自分に欲情はしないぞ。
何故か?だってたしかに髪が伸びて、若返って、女の子の身体だが顔はおれの中学生の頃の顔のままだからだ。
ん~っ、風が当たっていい気持ちだ。
まだ、太陽は1個が真上にある。
この世界の太陽は二つ、だからかこの国の季節は冬がない。
春、夏、秋の三つらしい。
らしい、というのは、おれはまだ一年を経験していないからだが。
気分がいいので、大好きなアニメソングをおもいっきり歌う。
どうせ、誰も周りにいないのだ。
これまでの鬱憤を吐き出そう。
♪♪♪、♪♪♪♪♪、♪♪、♪♪♪♪♪
ふぃ~っ、歌った、歌った、何時以来かな?こんなに気持ちよく歌ったの。
転移する2ヶ月前だから、半年前か、もうあの駅前のカラオケボックスにいけないかな。
ああ、どうせコロナだった。
ぐすっ、あれ?なんで涙が、いかん、いかん、この身体のせいか最近、涙もろいわ。
姉弟達は元気かな、親父はもう治ったか?
「すまない、湖の精霊どの」
「ひ?!、だ、誰?」
な、なに~!?ここは湖のど真ん中、誰も居なかったはず!
おれは慌てて岩陰に隠れる。
「ああ、どうか逃げないで、美しい精霊よ。」
後ろを見ると、いつの間にか大きな帆船があった。
帆船の上を見ると、煌びやかな軍服を着た金髪イケメンがおれの方を見ていた。
あう、歌うの夢中で全然気がつかなかったわ、ヤバい、ずいぶん人が乗ってる!逃げなくては!
おれは岩陰からそのまま、後ろを振り向いて岸に向かって泳ごうとした。
「待ってくれ、また、ここに来て歌を、その美しい歌声を聞かせてくれないか?」
歌?おれの歌を聞きたいだと!?ん~っどうしようか、頷いたら引き下がってくれるかな?正直、あの人数が一斉に飛び込んで追いかけて来たら逃げきれる自信がない。
おれは頷いて、そのまま湖に飛び込んだ。
潜水で岩礁から、30m位離れたところで浮かび上がる。
どうか、追いかけてこないでくれ。
おれはそのまま岸に向かって泳いでいった。
おれは、岸に上がって服を隠してある岩場の陰に飛び込み、そこで初めて後ろを振り向いた。
追跡はなかった。
帆船はかなり遠くになっていた。
ふぃ~っ、怖かったな、あんなに沢山の人がおれの方を指さしたり、もう、駄目かと思ったよ。
おれは服を着ると、あの木のうろに入って早速、入り口を塞ぐドア作りを始めた。
が、枝を集めたところで疲れて眠ってしまった。
◆◆◆
あれから三日かけて入り口を塞げば、かなり快適に過ごせるようになった。
おれは今、夕食を食べている。
もちろん、ビスケットだ。
おれのうしろには、山のようにビスケットが積んである。
まあ、旨いんだ、旨いんだよ、ん、それは認めよう、なんたって埼玉銘菓だから。
それはよいのだが、おれの献立表は代わり映えしない。
何故なら明日の献立は、朝食がビスケット 、昼食がビスケット、夕食がビスケット。
明後日は、朝食がビスケット 、昼食がビスケット、夕食がビスケット。
明明後日は、朝食がビスケット 、昼食がビスケット、夕食がビスケッ
おれは頭を抱えて叫んだ。
「たまにはビスケット以外のものが喰いたーい!!」
おっと、また出やがったな、エプロンした牛がお手玉牛丼してやがる。
うお、今回は牛丼の他に鰻丼とカツ丼ですか?豚さんも鰻さんも友情参加?そうですか、暇なんですね、え、鰻さんは日本産?凄いですねーっ、と、ここでおれの目がキラっと光った。
シュパッ、シュパッ、シュパッ
三匹とも、あっかんべーして消えていった。
ちくせう
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