第3話 ジーナス
◆第三王子ジーナス 視点
神託により勇者召喚が行われた。
そして、輝く魔法陣の中から一人の人物が現れた。
その人物を見た瞬間、私の心臓は激しく高鳴り周りの制止も聞かず勝手な行動をしてしまっていた。
運命の出会いだと思えた。
だが、勇者様は彼女ではなく彼だったのだ。
私はショックだった。
だが、それでも私は彼の親友になりたいと思い、勇者様の護衛騎士を願い出た。
皆には反対された。
守られるべき立場の人間が、護衛任務などありえないと。
自分でもなぜこのような感情になるのか、理解できなかったが少しでも彼の側にいたかった。
もし、彼と心を許せる親友になれたらどれほど世界は楽しいものになるだろうか。
しばらくして彼が暗黒竜の討伐隊に志願したとの話しがあり、私は愕然とした。
暗黒竜討伐といえば、これまで幾度も討伐隊が組織されたが大半が多大な犠牲者を出しての帰還を余儀なくされ、もはや討伐不能とさえ言われるようになっている。
そんなことで最近は近隣諸国との盟約に基づき、最低限の部隊を編成し討伐遠征をしたという既成事実を満たす為のみのイベントになっている。
なので、志願者など自殺志願か名を売りたい荒くれ者くらいしかいない。
それなのに、何故、神殿長は止めないのか。
まさか、勇者の義務として彼を人柱にするつもりか。
私は激しい憤りを感じ、神殿長に彼の討伐参加を辞退させるよう説得してほしいと願い出た。
だが、神殿長からはすでに何度も説得をしたが彼の意思を変える事が出来なかったとの話しだった。
なら、私の覚悟は決まった。
彼と共に討伐に参加するのだ。
「ジーナス!何を考えている。第三王子としてお前は俺の補佐の任に付く予定だったはずだ。何故、討伐に参加した?!」
「私は王族として召喚を行なった事に責任があると、考えております。その上で勇者様が討伐に参加するからには、王族として自分が同行するのは当然の責務であると」
「討伐参加は勇者様の自由意思、勇者としての自覚に目覚められたのであろう。我らがその事に責任を感じる必要はない」
「それでも、自分は同行したいのです。ベンツェン兄上」
「いまの討伐は他国にたいしての盟約履行の証明なのだ。一定割合で犠牲者を出し続ける必要がある。解っているのか?彼らは人柱なのだ。だからこそ、最小限の人員にしている
のだぞ」
「知っております」
暗黒竜討伐盟約、暗黒竜が居座るレイク湖に国土が接する三か国は近隣諸国から討伐にかかる費用の援助を受けられる代わりに、定期的に討伐部隊を編成し討伐にあたらなければならない。
盟約成立当初はわが国も本気で討伐部隊を編成し、レイク湖へ向かわせたが度重なる討伐失敗は、人的資源の枯渇に繋がった。
また、暗黒竜が流行らせた難病はそれに拍車を掛け、国内での農産物生産の担い手不足による食糧不足は討伐の有り方を変質させた。
わが国は近隣諸国からの討伐支援物資に支えられなければ、国家存続に影響が出るほど国力が弱っており、その頃から暗黒竜討伐は支援物資欲しさの見せかけの討伐となったのだ。
だが、犠牲者のいない討伐失敗は近隣諸国からの疑念に繋がる。
ゆえに、最小の人員による討伐失敗を前提にした編成に変わった。
毎回、一定数の
「それでも、討伐に加わるというのか?」
「勇者様を守る為に、討伐に参加するのです」
来月、王太子に即位するベンツェン兄上は、早くから私に補佐官の立場を求めていた。
確実に生きて帰れる見込みのない討伐に志願する自分に、兄上はさぞかし失望した事だろう。
討伐部隊への参加を強硬した私は、神殿を通じて勇者様に護衛騎士として付く事を認めてもらったが、なぜか一定の距離をとる事を護衛の条件とされた。
何故だ?これでは、確実な護衛が出来ないではないか。
私は途中から神殿護衛騎士の白い正装をやめ、部隊の皆が着ている灰色の部隊服に着替え、こっそり勇者様の隣に付いて護衛を続けた。
最初はキョロキョロして白い正装を探していた勇者様だったが、姿が見えないのを確認するとなにやら安心した様子で落ち着いたようだ。
どうやら、私の顔はまだ覚えていただけてないらしい。
それはそれでなんだか寂しいが、そのお陰で肩を並べて馬車に乗っていられるのだ。
今はそれで、よしとしよう。
レイク湖への道で最後の宿場町ラナオに到着した時、勇者様と部隊長がなにやら相談を始めた。
私はこっそり目で部隊長に合図し、勇者様の意向を後で自分に知らせるようにした。
部隊長だけには私の身分を伝えており、部隊の行動の実質的な意思決定権は私にあるのだ。
それによると、勇者様の世界の伝説にある勇者が頭が八つもある竜を倒した話があり、その勇者が使った戦法を試してみたいとの事だった。
その内容を聞いた私は驚愕した。
なんと、竜に酒を飲ませて酔って眠り込んだところを討伐するというものだった。
私も、部隊長もありえないと思いつつ、特に他に有効な対策が在るわけもない。
そのまま、勇者様の案を受け入れる事にした。
それが見事に成功し、我々と勇者様は暗黒竜の討伐を為し遂げたのである。
まさに神が使わした勇者様と言えよう、私は改めて勇者様を惚れ直した。
その後は王宮や近隣諸国から勇者様を称賛する声が大きくなり、召喚当初は王宮もあまり期待していなかった勇者様が誰も出来なかった事を成し遂げたとして皆がその功績を讃えた。
私も、自分の事のように嬉しい。
だが、王が討伐の褒美を勇者様に聞いた時、私は目の前が真っ暗になった。
勇者様は褒美として、自分の世界への送還を願い出たからだ。
何故だ、文字通り世界を救う偉業を成し遂げ、あらゆる望みは叶う立場にあるのに。
私が悶々と悩んでいたところ、討伐成功パーティーで勇者様が昏倒するアクシデントが起きた。
居合わせた私は、すぐに勇者様を抱き上げ部屋のベッドに運んだ。
その時の感触が何故か、女性のように柔らかく、なんとも云えないよい匂いがした。
医師の判断は、ただの疲れとの事だった。
私は胸が高鳴るのを感じ、彼から離れがたい気持ちになった。
だが、召喚時に間違いなく男性だったと言い聞かせて、なんとか部屋を後にした。
翌日、私は勇者様の様子伺いに勇者様の部屋の前まで来たところ、ローブを着こんだ不振人物が勇者様の部屋から出ていくところだった。
よく見るとそのローブは討伐途中で勇者様が購入した物であり、背格好からも間違いなく勇者様に違いなかった。
私がこっそり後を付いていくと、勇者様は神殿に入っていった。
出口でそのまま待っていると、勇者様が早歩きで私の脇を抜けて行こうとしているではないか。
私はおもわず勇者様の腕を取っていた。
なんだ?討伐の時より、柔らかく感じる。
「勇者さま、どちらに?」
勇者様は喋らない、ローブを深く被り直している?他人のフリなのだろうか。
だが、討伐時にずっと隣にいてそのロープの購入店舗まで判るのだが。
「そのローブ、討伐途中で購入なさったものですよね」
「お前がおれに拘るのは、おれが男だからだろう?実は今朝、起きたら女になっていたのだ。だから、解放してくれ」
ビックリした。
声が高い?まるで女性の声ではないか?!
私が戸惑っていると、勇者様はローブを脱いで全身を晒した。
その瞬間、そこには月の女神がいた。
この国はもちろん、近隣諸国でも見ることのない腰まで伸びた美しい艶やかな黒髪。
肌は温暖なこの国特有の浅黒い色に比べ、透きとおるように白い。
そして、その目はどこまでも黒い漆黒だ。
それでいて、やや幼さが感じられる美しい顔の少女がそこに居た。
私はおもわず、膝をつき彼女の手にキスをした。
求婚の正式な作法だ。
そして、彼女を見つめた。
「直ぐに結婚しましょう」
もう、この手を放せない。
「嫌がらせはやめろ、勝手に女になったのは謝るが、そもそもおれはノーマルで男に恋愛感情はない」
「貴女は女性だ」
「そうだ、だから早く腕を離せ、お前はもう、おれに興味はないはずだ」
「もう、放さない、一生、私の愛は貴女に捧げる」
「いい加減にしろ、好きでもないのにそんな事をいうな」
「いまの貴女の全てが好きです」
「……………」
もう、私は貴女の虜です。
「あ~、確認だがお前は男性が好きなんだよな?」
「私の生涯で男性が恋愛対象だった事は、ただの一度もありません」
勇者様は私が男性が好きだと言われたが、何か勇者様が誤解する行動が私にあっただろうか?
「貴様、なんでそんなに怪力なのだ?魔法か」
「貴女の力が弱くなってます?」
討伐時より、確実にか弱くなっている。
私が守らないといけない。
それと、この国の婚姻ルールをお伝えしなければ。
「それで私を第一夫として、他はどうしますか」
「なんだ?なんの話しだ?」
「女性は最低でも夫を3人、持たなければならないのです」
本当は私一人がよいのだが、仕方ない。
「ま、待ってくれ、すまないがしばらくおれが女になった事は伏せてもらいたい!」
「何故ですか」
「お前はおれが男だった頃を知っているはずだ」
「はい、知っております」
「お前は気持ち悪くないか?元男だぞ。普通、引くだろ」
「私は今の貴女に惚れているのです。昔は関係ありません」
もう、貴女無しにはいられない。
貴女に私のすべてを捧げたい。
「すまん、やっぱり結婚は保留だわ。女になった原因が不明だし、また戻るかも知れないだろ」
「では、戻るまでという事で」
「なあ、結婚が前提になってないか?」
「貴女を他の者に奪われる前に私の物にする為です」
貴女を誰にも見せたくない。
閉じ込めてしまいたい。
「すまん、話しの腰を折って悪いが急にお花摘みに行きたくなった。ちょっと放してくれるか」
「では、いっしょに行きましょう」
「お前、まさか中まで入ってくるつもりか」
「いけませんか」
「落ち着かないから外にいてくれ」
「…………わかりました」
パタン
さすがにそれは行き過ぎだったか、離れたくなかったが仕方ない。
ああ、早く、早く出てきてください。
私はもはや、貴女の愛の下僕です。
いつまでも、貴女に触れていたいのです。
「………おかしい?!遅い?勇者様!ご無事ですか?勇者様!どこです!いない!?」
そんな、そんな、私を一人にするなんて、勇者様、あんまりです。
「勇者様ーっ!!」
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