第2話 逃亡

困った。

変態第三王子に入口を塞がれた。

どうする?このまま神殿関係者を装うか?

だが、こんな中途半端な通路途中にいても、王が帰る時に挟み撃ちになる。


ええい、ままよ!


おれは足早に奴の後ろを抜けて、そのまま出口に向かって歩いていった。

よし、うまくいっ


ガシッ


「勇者さま、どちらに?」


なんだと?

何故、コイツはおれを勇者と認識する?


「そのローブ、討伐途中で購入なさったものですよね」


失念していた。

コイツは討伐中、おれの護衛として同行していたのだ。

不味い事になった。

どうしたものか、だが、コイツに関しては攻略法がある。


コイツはBLなのだ、ようは男性が好きなのだ。

おれが召喚時に確実に男だと分かるにも関わらず、おれのパンツを脱がしていたのだから。

だから、女になった事を伝えれば難なく逃亡出来るだろう。

しかし、いざ、それを明かすのはいささかハードルが高いな。

だが、虎穴に入らずんば虎子を得ずだ、よし、覚悟は決まった。


「お前がおれに拘るのは、おれが男だからだろう?実は今朝、起きたら女になっていたのだ。だから、解放してくれ」


おれはヤツにローブを脱いで全身を晒した。

ヤツは目を丸くして驚いている。

そりゃそうだろう、男として慕っていた相手がいつの間にか女になったなんてな、ヤツにとっては失恋どころか、驚天動地だろうよ。おれには分からんが。


突然、ヤツが膝をついた?なんだ、あまりのショックに立てなくなったのか?おれの手を取った?仕方ない、手助けをしてやろう??何故か、おれの手にキスをしている?おれをじっと見つめてくる?は?


「直ぐに結婚しましょう」


コイツ、気が狂ったか、それとも勝手に女になったおれへの嫌がらせか?


「嫌がらせはやめろ、勝手に女になったのは謝るが、そもそもおれはノーマルで男に恋愛感情はない」


「貴女は女性だ」


「そうだ、だから早く腕を離せ、お前はもう、おれに興味はないはずだ」


「もう、放さない、一生、私の愛は貴女に捧げる」


「いい加減にしろ、好きでもないのにそんな事をいうな」


「いまの貴女の全てが好きです」


「……………」


妙だな、どうも会話が噛み合わない。


「あ~、確認だがお前は男性が好きなんだよな?」


「私の生涯で男性が恋愛対象だった事は、ただの一度もありません」


、では何か?おれがした事は、❪墓穴に入らずんばケツを掘る❫だったのか。

、モーレツにコイツの目がハートだ。

あれは漫画の世界だけではなかった。

世界の七不思議か。


しかし、コイツ、なんつー怪力だ?!まったく身動きが取れん。


「貴様、なんでそんなに怪力なのだ?魔法か」


「貴女の力が弱くなってます?」


なに?まさか女になったからなのか?


なにか、何かないのか、おれは女とあはん、うふんしたいが、男とおれがあはん、うふんする趣味はない。

それに軟禁されたら、元の世界に帰る為の情報を探す事ができないではないか。


「それで私を第一夫として、他はどうしますか」


「なんだ?なんの話しだ?」


「女性は最低でも夫を3人、持たなければならないのです」


なに、そのビッチ形態!おれは息子を失くしただけでなく、いきなり3P、4Pをしなければならないのか?なんの地獄だ?!


「ま、待ってくれ、すまないがしばらくおれが女になった事は伏せてもらいたい!」


「何故ですか」


「お前はおれが男だった頃を知っているはずだ」


なにしろ、おれのパンツを脱がしたんだからな。


「はい、知っております」


「お前は気持ち悪くないか?元男だぞ。普通、引くだろ」


「私は今の貴女に惚れているのです。昔は関係ありません」


なんでそんな目をキラキラして、迷いがない顔をする。

聞いたおれが恥ずかしくなるやないかい。


だが、おれは騙されないぞ。

いくら、忙しくて異性との経験値が低いおれでも元男として、男の行動パターンはわかっている。

そこからすると、コイツもただ女とだけなのだと。

特にこの世界の男達は性欲が増大していると聞いている。

なにその罰ゲーム?こいつら、みんな絶倫なの?おれ死ぬの?


それになんで女になった?考えうる可能性は暗黒竜の血だけど、元に戻れる可能性だって有るかも知れないじゃないか。

そうだ、その話しを前だしして諦めてもらおう。


「すまん、やっぱり結婚は保留だわ。女になった原因が不明だし、また戻るかも知れないだろ」


「では、戻るまでという事で」


「なあ、結婚が前提になってないか?」


「貴女を他の者に奪われる前に私の物にする為です」


これ、よく聞いてみると有る意味、強姦宣言じゃないの?

ヤバいよね?

そうだ!


「すまん、話しの腰を折って悪いが急にお花摘みに行きたくなった。ちょっと放してくれるか」


「では、いっしょに行きましょう」


「お前、まさか中まで入ってくるつもりか」


「いけませんか」


「落ち着かないから外にいてくれ」


「…………わかりました」


パタン


初めて開放された。

ああ、腕が楽だ。

とにかく逃げよう。

周りをみると窓はないが天井近くに小さな外光取り入れ口がある。

おれなら入れそうだ。

だが、高い、手が届かないがふと見ると壁が石積みでデコボコしている。

おれはボルダリングのように手足を使い、なんとか取り入れ口に入る事が出来た。

中を抜け、神殿裏山に出たところで走り出す。

ついに、おれはヤツから解放され逃げ出す事に成功した。


万歳。

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