第35話 カーチェイス
バタンッ
「「「……え?」」」
出ていったレイが三十分も経たずに戻ってきた。
「も、もう終わったの?」
「いや、ギドゥラはいなかった。留守番らしい奴らはいたが、マフィアどもはどこかに急遽移動したらしい。行先は下っ端には知らされてない……丸川、追跡中のランクルの現在位置は?」
「あ、えーと……高速かこれ? 多分、東北道を下ってんなこりゃ」
「西新宿を出た時とは向かってた方向と違うな」
「うーん……ずっと張り付いてモニターしてたわけじゃ無いし、通信環境も良くないから、結構タイムラグがあるからなぁ……」
「どこかで進路を変えた……途中で指示があったな。こことは別の拠点があるのか……ジャネット、車を出せ。ランクルを追跡する」
「りょ、了解よ」
…
……
………
レイ達を乗せたSUVは首都高から東北道に入った。
「あ、あの、ジャネットちゃん? ちょっとスピード出し過ぎじゃ――」
「ちゃん付けで呼ぶんじゃねーって言ってんだろッ! いいんだよ! これぐらい出さねーと、追いつけねーだろーがッ!」
「さ、さーせーん……」
(うわ~ この人、美人だけどコワイ……)
スピードを出して他の車をどんどん追い越していくジャネットの運転と、丸川に対する豹変っぷりにドン引きの大輔。それを他所に、先程からレイはルームミラーを調整して後ろの様子をしきりに確認している。
「あの……そういえば、そこの大輔ってコから聞いたんだけど……」
ジャネットはそんなレイを横目でチラチラ見ながら恐る恐る尋ねる。
「なんだ?」
「……あなた、子ど――」
ドパンッ
突然、リアガラスに衝撃を受け、蜘蛛の巣のようなヒビが入った。
「えッ? 銃撃ッ!?」
咄嗟にハンドルを切ろうとしたジャネットに、レイが横から手を伸ばしてハンドルを掴む。
「死ぬ気かジャネット!」
高速走行中に急ハンドルを切れば車体は横転。シートベルトをしていたとしても激しく転がる車内の衝撃は命に関わる。こうした突発的な出来事に対しては、訓練よりも実戦経験がモノをいう。運転手は銃撃を受けて怪我をしたとしても、ハンドル操作は死守しなければならない。
「慌てるな! 弾は抜けてない」
防弾仕様の車でもボディやガラスが無傷で済むというわけではない。立て続けに激しい銃撃を受けて瞬く間にガラスがヒビだらけになる。
「ひぃぃいいいーーー」
「うわぁぁああーーー」
丸川と大輔の悲鳴。弾は貫通してないが、いつ割れるかと戦々恐々だ。
「頭を下げてろッ!」
レイはそう言って、窓を開けて身を乗り出した。魔法の鞄から以前奪ったシグザウワーP320を取り出し、引金を引いて応戦する。銃撃してきた車は白いワンボックス。助手席や後部座席のスライドドアを開け、白人系の外国人がAK系のアサルトライフルで銃撃してくる。
「怪しいと思ってたが、いつバレた? どこから追跡してきた?」
P320の弾を撃ち尽くし、車内に引っ込んで弾倉を交換しながらレイが呟く。
流石のレイも銃の名手ではない。距離もあり、揺れ動く高速移動中の車から精密射撃はできず、牽制程度にしかなっていない。それに、カーチェイス中の銃撃戦は簡単にはいかない。魔法ならあっさり終わる場面だが、攻撃する者をピンポイントで狙わなければならず、車両を止めるには慎重な判断が必要となる。どんな手段であれ運転手諸共攻撃してしまえば、後続の車を巻き込む事故を引き起こし、関係のない人間に被害が出るからだ。
他の被害など気にせず、形振り構わず反撃することはできるものの、レイにはまだ余裕があり、その選択はしなかった。
しかし……
キキー ガシャンッ
異変に気付いた近くの車が慌ててブレーキを踏み、そこへ後続車が追突。そこへまた後の車が突っ込み、瞬く間に大事故に発展した。
「ちっ」
バスンッ
そこへレイの乗る車の後輪に銃弾が当たり、タイヤがパンクする。防弾仕様車でもタイヤはノーマルだったようだ。
車の挙動が不安定になり、更なる焦りがジャネットを襲う。
「ちょっ、タカシ――」
「ジャネット、ブレーキは踏むな! アクセルを踏んでろ!」
パンク時にブレーキを踏めば、車の挙動はより不安定になる。高速走行中は尚のことだ。安全に停める為にはブレーキを断続的に踏み、スピードを落としていくことが鉄則だ。だが、敵が健在な以上、速度を落とせば格好の的になる。
「で、でも!」
レイはジャネットの泣き言を無視して再び身を乗りだす。敵に車から長い筒状の武器が見えたからだ。
――
――『雷撃』――
敵がRPGを構えたと同時に、レイの電撃がワンボックスを襲った。電撃が車の燃料タンク、及び車内の弾薬に引火。敵は車ごと爆発して吹き飛んだ。
「え? 何? 一体どうなって……な、何したの?」
「さあな。向こうがドジったんだろ。……もういいぞ、ゆっくりスピードを落として路肩に停めろ」
「困ったわね。スぺアタイヤってあったかしら……」
「何言ってんだ? この車は捨てるに決まってるだろ。こんなヒビだらけの車で走れるか」
「あ……」
…
……
………
高速道路から離れ、林の中を進むレイ達。周辺に民家や建物は無く、道も無い。人里に出るまでしばらく歩くことになるだろう。
「そのパソコンのGPSで追ってきたのかしら? ……それにしても、やり方が激しいわね」
ジャネットは草木をかき分けながら丸川の抱えるノートPCを見る。
「えへへ」
「えへへ、じゃねーし! アンタ、パソコンオタクでしょ? GPSぐらいなんとかできないの?」
「できなくはないけど、ここじゃ無理だし、時間も無いし……あと、俺の名前は丸川誠治です。是非、セージって呼ん――」
「シャラップ!」
「追跡されてるのはGPSだけじゃない。恐らく衛星でロックされてる。今更パソコンをどうこうしても無駄だ」
「「「えっ!」」」
「それと、しばらくここでじっとしてろ」
「え? ちょっと、どこ行くのよ?」
「高速で接近する飛翔体が一つ、真っ直ぐこっちに向かってる。速度からしてヘリだな。始末してくる」
「「「はい?」」」
…
レイが行ってしまい、林の中に取り残されたジャネットと丸川、そして大輔。
「ヘリコプターの音なんて聞こえるか?」
「さ、さあ……僕には何も。でも、レイさんが言うなら間違いとかじゃないんじゃないですか?」
「あんた達、何言ってんのよ? ホントにヘリが近づいてるなら、こっちが気づいた時には終わりよ?」
「「終わり?」」
「攻撃ヘリなら赤外線センサーで数キロ先から補足される。ミサイルでも機関砲でも、ヘリのローター音が聞こえた時点でとっくに射程圏内よ。こっちが気づいた時には既に遅いの」
「なんか、映画とかのイメージと違うんですね」
「大輔、アナタのん気ね……こんなとこじゃ、身を隠す場所も無いし、次の瞬間、死ぬかもしれないのよ?」
「は、はあ……」
大輔の能力である『重騎士』の鎧なら銃弾ぐらい何ともなく、同じく能力で生み出せる『
(やっぱり見せるのは拙いよね……なんとなくだけど、レイさんも魔法を隠してる感じもするし。当たり前っていったらそうかもしれないけど……どうしよう、ジャネットさんの話だと、いきなり死ぬかもしれないなら鎧だけでも出した方がいいかも……でも、レイさんが何とかしてくれるんじゃ……)
そんなことを大輔が思っていると、丸川がパソコンを放り出して走り出してしまった。
「ひぃ~! 冗談じゃねぇ! 俺は関係無ぇよぉー」
古書店の出来事が頭をよぎったのか、悲鳴を上げて逃げ出す丸川。
「「あ……」」
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