第二部 地球編
第1話 プロローグ
※この作品はフィクションです。実在の地名・団体等とは一切関係がありません。
――――――――
南米大陸中央、
鬱蒼とした植物の緑が太陽の光を遮る
タタンッ タタッ
ダララッ ダラッ ダラッ
ドドドドドドドドド
手にしたアサルトライフルや機関銃を、四方八方に撃ちまくる兵士達。
「くそ! どこにい――カヒュッ」
「ちくしょう! 姿が見えねぇ! 撃ちまく――カハッ」
「探知不能? 熱光学迷彩? 馬鹿な! 俺達より高性能な――ブシュッ」
「た、助け――グプッ」
一人、また一人と、兵士達は正体不明の敵に音も無く殺されていく。
…
……
………
「おい、どうした! 第二小隊ッ! 応答しろッ!」
遠くから聞こえた銃声が止み、野営陣地にいた部隊長は哨戒任務に出した第二小隊の隊員達に無線で呼び掛ける。しかし、誰一人応答は無い。
「強襲された? ここから半径百キロは未開のジャングルだぞ? いつの間に接近された? どこから攻撃されてる? 状況を報告しろッ?」
部隊長は、端末を操作していた部下に報告を求める。しかし、
「分かりません。第二小隊の反応が全て消失。二十四時間以内のレーダーに感無し、空からじゃありません。各種センサーに異常無し、熱反応及び、動体反応無し、敵影確認できません。敵は高度な
「大至急、予備の第三小隊を重装備で準備させろ! 攻撃ヘリもだ! 俺が直接指揮を執る。第一小隊はこの場で遺跡を死守しろ! この計画には数千万ドルの大金が掛かってる! 万一、誰かに奪われるようなことがあれば、クビじゃ済まんぞ!」
「「「イ、イエッサー!」」」
部隊長の命令を受け、濃灰色と黒の迷彩柄の戦闘服を着た兵士達が慌ただしく動き出す。兵士達の戦闘服には階級や国籍を示す記章は無く、民間軍事会社『エクス・スピア』の社名ロゴがあるだけだ。
人体の骨組みのような強化外骨格を身に纏い、最新鋭の重火器を装備して部隊長のもとに集まるエクス・スピアの傭兵達。
「第三小隊、準備完了、いつでも行けます」
「哨戒中の第二小隊が消息を断った。敵の正体と数は不明。しかし、高性能な
「「「了解」」」
素早く部下に命令した部隊長は、背後にある小高い山を見る。樹木と植物に覆われ、一見なんの変哲もない小さな山だが、よく見ると山の稜線が四角錐状になっており、ピラミッドのような形をしていた。
(一体どこの連中だ? 我々以上の最新装備を持っている部隊など思いつかん)
部隊長がそう考えている内に、陣地に待機中のヘリのエンジンが始動し、ローターの回転数が上がっていく。
RH-66Xコマンチ改修実験機。開発した米国を含め、どこの軍も採用していない新型の試作ステルスヘリコプターだ。基本武装は機関砲に各種ミサイル、ロケット弾など、従来の攻撃ヘリと同等だが、新型のステルス機能は既存の誘導式ミサイルのほぼ全てを無効化し、地上からの撃墜は極めて困難なヘリコプターである。
部隊長は空から直接指揮、攻撃するべく、ヘリに乗り込もうと歩き出した瞬間……
ピカッ
一筋の雷光がヘリに直撃。眩い光が辺りを照らした。
バリバリバリバリバリ
直後、空気を引き裂くような轟音と共に、ヘリが爆散する。
「た、隊長……ヘ、ヘリが……」
現代の航空機には落雷対策が施されている。雷が当たっても中の乗員は勿論、電子機器も守られる。しかし、同じ航空機でも、ヘリの場合は飛行機に比べて脆弱部分が存在し、当たり所が悪ければ墜落の危険がある。
だが、いくら落雷が直撃しても機体が爆発するなどあり得ない。そもそも、雲一つない晴天時に雷が発生すること自体、あり得なかった。
「バカな! 最新鋭のステルスヘリだぞッ! 雷ごときで……」
―『そこらの雷と一緒にするな』――
どこからともなく声が聞こえる。その場にいた傭兵達は、慌てて銃を構え辺りを見回すが、誰の姿も見えず、気配も無い。しかし、長年の戦闘経験を持つ彼等は何かがいると確信し、警戒体勢は崩さない。しかし……
ヒュ
風。そう感じたが一瞬、傭兵達の首から血が噴き出し、次々に倒れていく。その後も周囲に風が吹く度、傭兵達の首が斬り裂かれ、瞬く間に二つの小隊が全滅した。
ただ一人、無傷だった部隊長は、手にしたアサルトライフルの引金を引く。
「うおぉぉぉぉぉぉーーー」
ドドドドドドドド
やがて、予備の弾倉を全て撃ち尽くし、弾切れの銃を投げ捨て、死んだ傭兵のそばにあった機関銃を拾い上げた。
「ふー ふー ふー」
鼻息を荒げて周囲を凝視する部隊長。構えた機関銃の引金から指を離さず、僅かな物音にも敏感に反応して銃口を向ける。
ピタッ
「動くな。動けば殺す」
「――ッ!?」
突然、部隊長の首にナイフの刃があてがわれる。相手の姿はおろか、気配さえ感じずに何者かに背後に回られた。何が起こったのか部隊長は理解できない。しかし、喉に当たる刃の感触は本物だった。
「エクス・スピアの傭兵共か。ここの遺跡と計画とやらを詳しく話して貰おうか。だがその前に……」
「う……」
「お前の服を寄こせ」
…
……
………
東京都内。私立『西東京国際大学』。
ブォン ボォォォォォ……
黒いバイクが颯爽と大学構内の駐輪場に入り、全身黒づくめの女がバイクを停めて降りてくる。バイクと同じ真っ黒なヘルメットを脱ぎ、腰まで伸びた長いダークブロンドの髪をポニーテールに結う夏希・リュウ・スミルノフ。
透き通るようなエメラルドグリーンの瞳に整った容姿、シミひとつ無いきめ細かな白い肌。誰が見ても文句のつけどころのない美人だが、目つきは鋭く、人を寄せ付けない凄みを漂わせていた。
「暑っ……」
バイクから降りた途端、うだるような暑さが襲ってくる。日焼けと防風対策で着ていた薄手のジャケットを脱ぎ、鞄に入れていたミネラルウォーターを取り出し、喉を潤す。
夏希達『エクリプス』の面々が日本に帰還して三年の月日が経っていた。
九条彰が行った『召喚の儀』は、夏希のいた教室を中心に一万人以上の人間が犠牲になった。儀式により強制的に周辺一帯の人間が魔力を奪われ、魔力が無くなった後は生命力が吸われ、大勢の人間が命を落とした。
しかし、全ての人間が死んだわけではなく、僅かだが生き残った者もいた。その多くは夏希達が帰還した当初も意識不明で入院しており、夏希達の帰還時に女神アリアが配慮したのか、その中に紛れ込む形で帰還できた。
だが、通っていた高校は当然、周囲の住民も殆ど亡くなっており、混乱の只中に放り込まれたのは言うまでもない。暫く家族に匿われるかたちでそれぞれが静かに過ごしていたが、事態を重く見ていた政府の働きで生存者の情報はネットやマスコミに漏れることはなく、やがて日常を取り戻していった。
夏希は高校卒業の資格を取り、この大学に入学して二年になる。
「あー! 夏希じゃーん!」
その声に夏希が振り返ると、少女が大きく手を振っていた。
少女の名は
「こんなクソ暑いのに、相変わらず暑苦しいわね、麻衣」
「あっ、ひどーい! っていうか、夏希こそ夏休み中になんで大学来てんのよ。サークルとか入ってたっけ?」
「私がそんなの入ってるわけないでしょ。ちょっと教授に用があってね」
「教授って、あの考古学の?」
「そ」
夏希がこの大学を選んだ理由。考古学部、それも古代遺跡を専門にしている教授がいたこと。無論、母親と暮らす実家から通えるというのが絶対条件だったが、考古学部を選んだのは異世界での体験が大きく影響していた。
自分達の住む世界に、異世界に通ずる遺跡が存在する。
地球にも魔素が存在し、魔力を行使できる。この世界にそれを認識できる人間はおらず、それを知るのは異世界から帰還した自分達だけだ。しかし、古代の人々は魔力を利用するすべを知っていた。そのことが頭から離れなかった。
(まあ、知ってどうなるものでもないないけど……)
ふと、夏希はキャンパス内に目を向ける。構内のベンチやカフェテリアに学生の姿が見える。いつもどおりのなんでもない日常。しかし、夏希にとっては当たり前ではない平和な光景だ。
「どしたの、夏希?」
「なんでもないわ」
ブルッ
夏希のポケットからスマホが震える。取り出して画面を見ると、かつての仲間『エクリプス』の太田典子からの電話だった。
「珍しいわね……」
一緒に帰還した『エクリプス』のメンバーとは、長い間連絡を取っていなかった。通っていた高校は実質消滅。帰還後、それぞれが別々の道を歩んだ。多くのクラスメイトを失い、自分達も生きる為に多くの命を奪った。良い思い出は少ない。自然とメンバーとは疎遠になっていた。
とはいえ、電話に出ない理由もない。夏希はスマホの通話ボタンを押し典子からの電話に出た。
「典子? 久しぶりね。どうしたの?」
『……夏希……美紀が……美紀が死んだ』
『エクリプス』のメンバー、近藤美紀の訃報。
夏希の平穏な日常は、たった今、崩れ去った。
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