第466話 アリガト!
ドォーーーン
レイは、大量の
「ちっ、なんて建物だ……」
建物が崩れて地面が陥没すると予想していたレイは、あまりに強固な建物に舌打ちする。操作パネルしか破壊できなかったのなら、爆薬の無駄だった。
操作パネルを調べても施設を使用不能にする方法は見つからなかった。仮に見つかったとしても、古代人である九条ならそれを解除できる可能性が高い。物理的に破壊した方が確実と思っていたが、必要以上のC4でも破壊できなかったのはレイにとって予想外だった。
「爺さんには他の施設を破壊しろとは言ったが、無理かもな……」
「ど、どうすればいいんだ?」
「どうしようもない。利用される前に奴等を始末するしかないだろう。爺さん達が出来るのはさっき指摘した地点に見張りを置くぐらいだな。と言っても、勇者に備えて戦力を配置しても無駄だろうからあまり意味はないかもしれんが」
現代地球の爆薬で破壊できないなら、この世界の魔法や技術で施設を破壊するのは無理だろう。古代の知識を持つ九条彰を最優先で始末すること以外に転移施設の悪用は防げない。
「戻るぞ」
レイはそう言ってゴルブを背負い、カーベルに戻った。
因みに、レイはちゃっかり自分とリディーナ達を施設に登録しており、他の転移施設を利用できるようにしておいた。大陸にある各施設の場所は既に頭に入れてある。今は必要ないので敢えてゴルブには言っていない。
(悪いな、爺さん)
…
カーベル郊外の屋敷に着いたレイ達は、ゴルブに破損したリディーナの『龍角細剣』を渡して修復を頼んだ。
すでに深夜となっていたが、ゴルブは休むことなく魔法の鞄から鍛冶道具を取り出し、屋敷の庭に鍛冶場を作りはじめた。
「爺さん、先に報告しなくていいのか?」
トリスタンに転移施設のことを報告しなくていいのかという意味だ。
「あ奴にはこれから伝える。その前に炉に火を入れておきたい」
ゴルブは簡易的な炉を設置し、石炭のような素材を入れながらそう答えた。龍の素材を扱うことの方が優先だと言わんばかりだ。
細剣を鍛え直すのに火力がいるのだろうが、温度を上げるのに時間が掛かるらしい。レイは生前、日本刀の鍛冶場を見たことがあるが、龍の角を鍛えるには鉄以上の高温が必要なのだろう。そのような高温はすぐに作りだせるはずがないので先に作ってるようだ。
組み立てた炉に石炭のような素材の他に様々な石を入れて火を点けたゴルブは、ギルドに戻って行った。
「お爺ちゃん、疲れてないのかしら?」
「龍の素材をイジりたくて興奮してんだろ」
「リディーナ様の細剣を私用にして頂いて本当によろしいんですか?」
「元には戻らないって言うし、火属性の魔法剣なら私には合わないから全然いいわよ」
「イヴの持ってる短剣と同じように仕上げてもらうか、身体に合わせて細剣にするかは爺さんと相談して決めるといい」
短剣術をレイと訓練しているイヴには短剣を作ってもらった方が効率的ではある。普段使い慣れていない武器を使用するにはそれなりに鍛錬が必要だからだ。しかし、この世界には巨大な魔物が生息しているので、将来を考えれば、長物はあったほうがいい。この世界で短剣は対人用の武器でしかなく、何にでも応用できるとは言い難い。ゴルブの意見も聞いて判断した方がいいだろう。
「でしたら、レイ様のような刀にしてもらえないでしょうか?」
「さ、流石に無理じゃないか? ……まあ、一応、ゴルブに聞いてみろ」
「分かりました」
細剣を刀に仕上げるなど、無茶振りもいいところだ。基本的に西洋剣は「鋳造」、日本刀は「鍛造」なので製法も構造も全く違う。だが、ファンタジーの世界では何が常識かは分からないので、ゴルブに聞くしかないだろう。
その後、ゴルブは三日三晩、嬉しそうにハンマーを叩き続けた。
…
……
………
「小太刀……か」
(まさか、細剣に反りを入れて小太刀に仕上げるとはな……強度とか大丈夫か? いや、そもそも元は鉱物じゃないんだったな。まったくホント、ファンタジーだ)
「なんか、すごい派手ね」
「すごいです……」
ゴルブが仕上げた『龍角細剣』は、燃え上がるような真っ赤な刃文が入った反りのある短い日本刀だった。一般的には刃の長さが六十センチ前後の刀が小太刀と呼ばれるが、明確な定義や分類はない。また、小太刀という名称や実物はあるものの、その用途は実はよくわかっていない。小太刀は子供用や女性用とも言われ、短い刀を使用する流派もあるにはあるが、歴史や資料は非常に少ない。
小太刀はその短さから、忍者が用いる忍者刀、もしくは忍刀と混同されがちだが、忍刀は反りの無い直刀だったとし、小太刀とは異なる。それに、忍刀が忍者に使用されていたという記録は残っておらず、専用の剣術も伝わっていないのでその存在は疑問視されている。現在の忍者像は後に創作されたものが殆どな為、忍刀もその一つとされる説があるが、仕込み杖や暗器の一部は実際に忍びが使用したとして現存しており、その存在は否定できない。
忍びの流れを汲む『新宮流』においても、直刀剣術は無い。だが、レイの修めた剣術には短刀から太刀まで伝わっており、それには短い刀を用いた小太刀術も含まれていた。
そして、レイはその有用性をよく知っていた。
師である新宮幸三が最も得意としていた武器が小太刀だったからだ。
(
「イヴ、ついてこい」
「?」
「そいつの使い方を教えてやる」
「は、はい!」
レイはイヴを連れ、屋敷の外の森へ歩き出した。
「あのー ワシ、結構、頑張ったんだけど……」
「お爺ちゃん、アリガト!」
「おい、あのな、その……」
「なぁに?」
「火属性の魔石とか魔炎結晶とか……貴重な素材を色々使っ――」
「アリガトっ♪」
そして、リディーナもレイ達の後を追い、ゴルブを置いて歩いていってしまった。
「まあ、いいか…………ちょっと待て、ワシも見たいぞ!」
…
……
………
一方、その頃。
カーベルの街に一台の馬車と、複数の馬に乗った者達が到着した。
志摩恭子とその護衛であるジーク達だ。
「ようやく着いたな。すぐにギルドに行きたいとこだが、先生とアイシャが限界だ。先に宿をとろう」
A等級者冒険者パーティー『クルセイダー』のジークが馬車に目を向けて、隣にいるエミューに言う。
「アタシも疲れたぁ~」
魔導列車の旅の途中に『勇者』の一人、佐藤優子に襲撃され、以降は馬車の旅が二週間以上続いた。現代の乗り物と違い、劣悪な乗り心地の馬車に乗り慣れていない志摩恭子は当然、子供のアイシャやA等級の冒険者であるジーク達も疲れ果てていた。
「どうせ、経費は本部持ちだ。この街一番の宿をとって、先に行っててくれ」
「ジークは?」
「ちょっと寄るとこがある」
「ギルド?」
「……すぐ戻る」
そう言って、ジークは雑踏に消えてしまった。
「おーい! ったく、まだ護衛中だっつーの! リーダーがいきなり別行動とかありえないんだけどっ!」
「エミュー! 置いてくぞー」
「ちょっ、待ってよ、もうー!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます