第442話 港湾都市カーベル①

 一週間後。


 レイ達の乗ったクルーザーは、ジルトロ共和国、港湾都市『カーベル』に到着した。


 港湾都市『カーベル』は、ジルトロ共和国の南端に位置する港街で、対岸にあるオブライオン王国から大量の穀物を輸送し、集荷、保管して魔導列車を使って首都である『マネーベル』を中心に各地へ輸送するのが主な産業で、『ロッカ』などの河川都市と大陸内部を繋ぐ中継都市でもある。


 遥か遠くに見える対岸までは巨大な石橋が架けられ、船以外にも馬車を使った往来が可能な陸路も存在した。



「凄い大橋ね~」


「まったくだ」


(重機の無いこの世界でこれほどの橋を架けられるのは驚異の技術だが、ひょっとしたら魔法を使った技術かもしれないな……)


 レイ達の目の前には古そうだが立派な石造りの大橋が見える。これ程の橋は地球でも滅多に見られるものではない。


「この橋は確かに立派ですが、その所為で、大型船はこの街を境に行き来できません。オブライオン王国との交易も、橋を使うより船の方が便利なので、この橋を使うのは小規模の商人ぐらいですよ」


 商会の乗組員の一人が、レイ達にそう説明する。


「随分古いみたいだが、百年以上前のものか?」


「は、はい、そうです……それがなにか?」


「軍事施設の名残かと思ってな。こんな大きな橋を設計できる奴が、船の往来を考えないはずがない。大型の船だけ通行を制限し、軍隊の移動を阻害する目的もあったんだろうな。二百年前は戦争が多かったらしいが、この街は要衝だったんだろう。ロッカでは見られなかった城壁が川側にもあるしな」


「そ、そのとおりです。この街『カーベル』は、かつて沿岸要塞だったと聞いています。その後、戦争は無くなり河川都市やオブライオン王国の貿易の玄関口となって発展したそうです」


「橋には検問所があるみたいだけど、船の場合は、入国の審査はどうやって行うの?」


「港で検査官と衛士が直接行います。我々は、商会専用の停泊所がありますが、同じように入港の際に検査を受けねば降りられません。レイ殿達にはご不便をお掛けしますが、到着後も暫く船内で待機をお願い致します」


「了解だ」


 …


 クルーザー船内。


「レイ、これからどうするの?」


「まずはここでの拠点を探して安全を確保する。この街はオブライオン王国の目と鼻の先だ。勇者共の手がどの程度伸びてるかを調べる必要がある。その後は、志摩恭子の到着を待つ」


 レイは『鍵』の探知機と地図を取り出し、『鍵』の移動と地図を照らし合わせる。


「志摩達はまだ『マネーベル』付近だ。ここへ来る途中でも確認したが、あいつら魔導列車じゃなく、馬か馬車で移動してる。何をしてるのか知らんが、ここへ来るまで二週間は掛る計算だ」


「随分悠長ですね……レイ様、冒険者ギルドで調べますか?」


「いや、ギルドより確実な線で調べさせる」


「教会の暗部ですか?」


「そうだ。志摩の護衛についている冒険者が暗部の者だからな。この街にいる暗部に何かしら情報を送ってるかもしれん」


「……二週間。結構時間があるのね」


「予定より早く来れたのもあるし、志摩達が遅いのもある。だが、そのおかげで情報をじっくり集める時間と訓練に充てられる」


「く、訓練?」


「そうだ。ずっと船の上で碌に身体を動かせていなかったし、試したい装備や魔法が結構あるからな」


「レイ様、私も魔操兵ゴーレムの訓練を行いたいのですが……」


「そ、そうだな。その時間も作ろう……とりあえず、この街の構造と周囲の情報から集めよう。魔法の実験もしたいから人目のつかない場所を探さないとな」


「了解です」


「……」


「どうした、リディーナ?」


「……んーん、なんでもない」



 そうこうしている内に、クルーザーに検査員が衛士を引き連れてやって来た。商会の乗組員が対応しているが、全員の入国検査と積み荷を調べるようだ。


「そこの三人、身分証を出して貰おう」


 検査員の問いかけに、レイ達は自分達の冒険者証を出して見せる。検査員は眼鏡のような魔導具を装着しており、偽装していないかの確認もしているようだが、レイ達は予め素顔を晒して素直に検査に応じていた。


「A等級が二人とD等級の冒険者か……この国に来たことは?」


「ある。マネーベルに暫く滞在していた。俺達のことは、この国の議長ドルトも知ってる。不審に思うなら問い合わせてくれても構わない」


「えっ! 議長に?」


 ギョッとして目を丸くした検査員は、レイ達の名前を書き止め、当たり障りのない態度で上陸の許可を出して去って行った。


 …


「名前まで出しちゃって、良かったの?」


「ああ、この後、街で押さえる宿も俺達の名前で確保するが、いくつか囮に使わせて貰おうと思ってな」


「囮?」


「冒険者としていくつか宿を取っておけば、俺達を襲う奴がそっちに行くだろ? この街が勇者の支配下にあった場合、襲われる可能性は十分あるからな」


「なら、こっそり入国して名前を出さない方が良かったんじゃないの?」


「ある程度、餌を蒔いて襲って来てくれる方が、本拠地で引き籠って待ち構えられるよりいいんだ。全員を一度に相手することはできないんだからな。俺達が存在を消すのはオブライオン王国に入ってからだ」


「確かにそうね」


「出来れば一人づつ殺っていくのが理想だが、向こうもガキとはいえ単独で襲撃してくる程バカじゃないだろう。必ず二、三人以上で動くはずだ。だが、全員で来られるよりマシだ。志摩恭子もそうだが、囮や罠を仕掛けて食いついたら狩っていく感じだな」


「囮の宿の監視で、情報収集や訓練の時間は取れるのでしょうか?」


「それは、暗部の人間に任せるさ」


「な、なるほど」


「冒険者ギルドはどうするの? ロッカでドレークが本部に私達のことを問い合わせたなら、トリスタンも私達がこの街に来るってことを知ってるんじゃない?」


「この街の支部を通して何かしら干渉してくるかもしれんが……」


「「しれんが?」」


「無視だな」


「「……」」


「志摩の方には護衛の冒険者に偽装した暗部がついてるからギルドを通さなくても情報が入るし問題無い。今はギルドが持ってくる話は面倒事しかないだろうから無視するに限る。……また、手紙みたいな面倒を持って来られても困るからな」


「それはそうね」

「それはそうですね」


「そうと決まれば、まずは街の構造を把握する為にも、少し散策しよう」


「「賛成!」」

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