第416話 現代戦
志摩恭子達が魔導列車で出発した翌日、レイ達は本部内の施設で旅に必要な食料や備品を買い込み、冒険者ギルド本部を後にした。
「グランドマスターに何も言わずに出発して良かったのでしょうか……?」
「「……」」
イヴの呟きにレイとリディーナは沈黙で返す。過去の勇者達の装備を根こそぎ持ち出し、数十点の重要書物も黙って拝借している。……顔を合わせられるわけがない。
「イヴ、何も問題は無い、気にするな」
「そ、そうね……気にしちゃダメよね」
『どうかしたんスか?』
「なんでもない、お前は黙って前を歩け」
『ふぁ~い』
レイ達三人は馬車を使わず、揃ってブランの背に乗っての移動だ。目的の川沿いの集落までは街道が整備されておらず、馬車を出してもすぐに仕舞うことになるからだ。大の大人が三人乗ってもブランの巨体には問題無い。
冒険者ギルド本部のある谷を抜け、街道を外れて森に入る。レイは作成した地図とコンパスを手に、ブランに方向を指示する。
「シマキョウコ達の方が一日早く出発しちゃったけど、大丈夫だったの?」
「問題無い。マネーベルからオブライオン方面へは魔道列車の運行が休止してるらしいから、奴らは途中から馬車旅だ。最初の予定より時間的にはかなり余裕がある。作った地図の目算では、仮に船が無くて川沿いを徒歩で下っても十分間に合うはずだ」
「船があるといいわね~」
「でも、船があってもブランが乗れる大きさかどうか……」
「乗れなかったら泳ぐらしいから心配ない」
「「ヒドイ」」
…
……
………
一週間後。
川沿いにあった集落は家屋が十数軒集まった小規模な村だった。
しかし……
「野盗か……」
「水賊ですね。こんな上流域にも進出してるとは思いませんでしたが」
「水賊? 川を遡上できる船があるのか……まあ、それは後でいいとしてさっさと始末しよう。胸糞悪い」
「そうね」
レイ達の強化した視線の先には、小汚い男達が真昼間から酒盛りをして騒いでいた。集落の端には村の住民と思わしき人間の死体が重ねられ、家屋が荒らされている。酒盛りの中心には裸にされた女達が縄で縛られていた。
男達があの村の住人ではないのは明らかだ。
「リディーナとイヴはブランとここに残って狙撃しろ。俺は川側から侵入する」
「レイは一人で行くの?」
「まあ、訓練みたいなもんだ。俺は狙撃に合わせて裏から接近する。イヴはリディーナのスポッター役でフォローしろ」
「了解です」
「光学迷彩は使わないが、間違って俺を撃つなよ?」
「分かってるわよ! というか、使わないの?」
「訓練だって言ったろ? 俺もなるべく魔法は使わないようにする」
「了解。心配いらないと思うけど、気を付けてね」
「ああ、油断するつもりは無い」
レイは、そう言って外套を脱いで茂みに入っていった。
…
(結構デカイ船だな。帆がないから動力は別にあるのか?)
川に出たレイの視界に船が見える。桟橋に係留されていたのは大型の漁船のような船だが帆船では無いようだ。
(全員殺したら操船できるか分からんが、その為に捕虜なんか捕りたくないな)
男達は酒盛りをしながら裸にした女達を前に、誰が誰を選ぶかで言い合っている。死体の血の乾き具合からして襲撃して間もないのだろう。女が凌辱される前に始末したいところだった。
レイは川に手を入れ、水温と濁り具合を確かめる。プレートキャリアから魔金のプレートを抜き、黒刀と共に魔法の鞄に仕舞うと、川の中に入り水中に消えた。
『あっ』
(
…
「ちぇっ、いいな~ オレもあっちに行きてぇな~」
「くじ引きでババを引いたんだ諦めろ、それにしばらくしたら交代だ。我慢しろ」
「交代っつったって、その頃にゃ女共はぶっ壊れちまってるじゃねーか、つまんねーよ」
「へっ、どーせ、穴がありゃ何でもいいんだろーが……って、おい、どこ行った?」
船上で船の見張りをしていた男は、急に消えた相方に周囲を見渡すがどこにもいない、川に落ちたかと慌てて川に身を乗り出すと、直後に喉を短剣に貫かれ、そのまま川の中に静かに引きずり込まれた。
「グー グー ……はぐっ」
操舵室でいびきをかいて居眠りをしていた男は、背後から首を捻じ切られ、そのまま永遠の眠りについた。
(船内はこれで掃除できたな)
…
酒盛りをしていた男の一人が騒いでいた男達に一喝して立ち上がった。水賊の頭なのか、周囲の男達よりも一際体が大きく、一喝された男達が引き下がっていく。
「馬鹿野郎ども。
そう言って、男はズボンを脱いで下半身を露出させると、酒瓶を捨てて女達を見渡し、その内の一人に手を伸ばした。
「一発目はお前に決め――」
ブッ
「へ?」
男のそそり立ったイチモツが音も無く吹き飛び、次の瞬間、男のこめかみに穴が開いた。
側頭部から貫通した弾丸が血と脳漿をぶちまけ、水賊の頭はその場に崩れ落ちた。
「「「カシラぁ!」」」
今まで見たことのない死に様と、突然の出来事で男達は慌てふためく。ある者は武器を手に取り、ある者は頭の死体を見て呆然としていた。
「一発無駄にしちゃったわね」
地球のボルトアクションライフル、レミントンM700に酷似した魔導狙撃銃を構えたリディーナは、ボルトを引いて次弾を装填しながらイヴに言う。
「いえ、スカッとしました」
リディーナとイヴは小高い丘にある大きな木の上に登り、防音の魔導具を起動してリディーナが狙撃手、イヴが
通常、狙撃任務の場合、
映画やゲームの様に、照準器から撃たれた相手が倒れる映像を狙撃手が見れることは、実際には無い。
観測手は周囲の警戒の為と思われがちだが、実は狙撃対象への効果判定(当たったかどうか、相手のどこに着弾したかの確認)の為に必須なのだ。勿論、それ以外にも周囲の環境を観測し、狙撃手に伝える役割も当然ある。観測手が観測する敵の位置や行動、風や距離の情報が正確であればある程、狙撃する者も正確な狙撃が行える。狙撃手の助手というイメージの強い観測手だが、狙撃手以上に優秀でなければ狙撃任務は務まらない。
リディーナは強化した視力で狙撃を行っているのでスコープは使っておらず、狙撃直後も着弾点は視界に入っている。しかし、一点に集中して見ていることには変わりなく、狙撃対象の周囲の情報までは把握できない。イヴは集落全体を俯瞰して狙撃の優先順位をリディーナに伝える役目だ。
リディーナは村の中央で頭を殺され、右往左往している男達に狙いを定める。男達は『狙撃』というものに対して何ら知識も無く、武器を構えて辺りを見渡すものの、物陰に隠れようともしなかった。殆ど棒立ちの男達の頭を、リディーナは一人一人正確に撃ち抜いていった。
「リディーナ様、二人、船の方へ逃げます」
「レイのいる方ね。そっちはいいわ。イヴは村の周囲から逃げ出す奴や家屋に隠れてる奴を見つけて教えて頂戴。流石にあの状況じゃいないと思うけど、村の住人かどうかも一応注意してね」
「了解です。……南東の家屋から一人出てきました。賊です」
「了解」
二人は集落から一人も逃がさないよう、次々と狙撃を成功させていった。
…
「はぁ はぁ はぁ ……ちくしょう! 何が起こってやがんだっ!」
「知るかっ! くそっ! 訳も分からず死んでたまるかっ!」
頭が死に、仲間も次々に脳ミソをぶちまけて死んでいく状況に、すぐさま逃走を選択した二人の男は、船で脱出しようと桟橋まで走っていた。
しかし、桟橋に差し掛かる直前、
カチッ
一人の男が地面に埋まっていた何かを踏む。
「ん?」
ドォン
男が踏んだ瞬間、地面が爆発した。レイがギルド本部地下の保管庫から持ち出し、仕掛けた対人地雷だ。
(おー ちゃんと作動したな。試しに一個だけ仕掛けといたが運よく踏んでくれたな。……いや、運が悪かったのか)
対人地雷の多くが人間を負傷させる為の兵器だ。一般的には地雷を踏んだ瞬間に爆発し、踏んだ者は足が吹き飛ばされ死亡には至らないものが多い。地雷は敵を殲滅する為の兵器では無く、敵の兵士を負傷させて救助に人員を割かせ、戦闘に参加する兵士の数を減らす目的と、地雷が埋まっていることで撤去や回避で進軍を遅らせる目的の兵器だ。
地雷には様々な種類があり、踏んでも足を離さなければ爆発しないものや、踏んだ瞬間に一メートルほど地雷本体が空中に飛び上がって鉄球を撒き散らし、周囲の人間を巻き込むものなど多種多様だ。しかし、重量を感知して瞬時に爆発する方式の地雷が一般的で多く使われる。踏んだ足を離したら爆発するものはドラマや映画の題材に良く使われるが、解除される可能性があるので一般的には設置されないことが多い。
地雷を踏んだらどうすればいいか? こういった質問はあまり意味が無く、踏んだら瞬時に足を失う、それだけだ。地雷で死亡する可能性は低いが、吹き飛んだ足の止血を迅速に行えなければ、その限りではない。
片足を脛のあたりまで吹き飛ばされた男は、爆発によるショック状態で倒れたまま動かなかった。それを見た隣の男は腰を抜かし、何が起こったのかわからず呆然としている。
桟橋の下でその様子を見ていたレイは、その場で動けなくなった二人の男をコルトガバメントで撃ち、止めを刺した。
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