第266話 陽動?

 ラーク王国、城門前。


 かがり火を焚き、跳ね橋が上げられた王宮の城門前に陣取る反乱騎士達。周囲の建物を接収し、交代で休息を取りながら数百人の兵士が城門を囲んでいた。


 対する城の城壁では、同じようにかがり火を焚き、反乱騎士を監視する近衛騎士達。反乱騎士達が水堀を渡り、夜襲してくることに備え、十分とは言えない人数で対岸の反乱騎士達を睨んでいた。



 その両者の頭上から突如、雷鳴が轟く。



 一筋の雷が反乱騎士達の陣営に落ちた。その直撃を受けた騎士は、体内の水分が一瞬で蒸発し、水蒸気となって内部から爆ぜた。周囲にいた騎士達も、その凄まじい衝撃に巻き込まれ、命を散らす。その後も次々に落とされる落雷の衝撃と轟音、眩い閃光により、城門前は激しい混乱に陥った。


 「何が起こっている! 魔法か? 対魔法攻撃陣……」


 大声で命令を下そうとした反乱軍の小隊長は、その命令を最後まで言うことなく光に消えた。



 暫くして、何とか『魔封の結界』を起動し、混乱しながらも陣形を整え出した反乱部隊。しかしながら、数十に及ぶ落雷により、辺りには百人以上の死傷者が出ていた。


 「バ、バカな、近衛側は魔法を使えんはずだぞ! 一体どこからだ!」

 「回復薬を持ってこい!」

 「周囲を捜索しろっ! 魔術師だ! 魔術師を探せっ!」

 「担架だ! こっちに早くっ!」

 「急いで陣形を整えろ! 城門前だ! 急げ!」


 騎士達の声があちこちで飛び交う。部隊の指揮官が相次いで死亡し、まとめる者がおらず、戦意を喪失した者や、逃げ出そうとする者、轟音に耳をやられ、ふらふらと彷徨う者などで現場は大混乱に陥っていた。



 建物の中で休息を取っていた反乱軍の総指揮官、第二騎士団団長のラモンは、窓から覗く光景が信じられなかった。瞬く間に騎士、衛兵百人以上が死傷し、犯人の姿はおろか、どこから攻撃されたかも分かっていない。王都の街をほぼ制圧し、王宮側も魔法防御の結界を起動させたのを確認していた為、魔法による強襲は想定していなかった。城壁からの矢に対する防御盾は、あの謎の光の前には何の役にも立っておらず、瞬時に襲ってきた光を回避も出来なかった。


 湧き上がる疑問や動揺をなんとか抑え、生き残った分隊長を部屋に集めたラモンは、すぐさま指示を出す。


 「要所に配置した人員をこちらに応援に来させろ。近衛が攻めてくるかもしれん、防御陣形の再編を急げ。それと、犯人の捜索も至急行え、絶対に逃がすな!」


 「「「はっ!」」」


 ラモンの指示を受け、分隊長達が一斉に部屋を後にする。


 …


 一方、王宮側の城壁にいた近衛騎士達も混乱していた。対岸の反乱騎士達に、次々と閃光が落ち、凄まじい轟音と共に騎士達を薙ぎ払ったのだ。王宮に詰めている宮廷魔術師は勿論、国内の魔術師の中にもあのような魔法を行使出来る者を近衛騎士達は知らなかった。


 援軍。


 そう思いたかったが、魔法無効の結界を察知した術士がこの王宮を攻撃しなかっただけかもしれない。援軍と判断するには些か早計と考えた見張りの近衛騎士は、自分達の見た光景をあるがまま報告するべく、ロダス団長の元へと走った。


 …


 「まあ街中だし、こんなものかしらね~」


 「なっ、なっ、なっ……」


 リディーナの放った常識外れの魔法に言葉を失うメサ。


 手元から発生させる『雷撃』ではなく、目標上空から落雷を発生させるには、本来なら様々なプロセスをイメージし、緻密な魔力コントロールが必要だ。そればかりか、リディーナは飛翔魔法と視力の強化も行っている。


 今までのリディーナなら出来なかった。それを可能にしたのが『妖精』の力、『風の妖精シルフィード』だ。リディーナは只、願うだけ。


 リディーナは、妖精の力を使うことを躊躇しない。いや、躊躇しようなどという考えなどは全く浮かばなかった。トリスタンにその危険性を指摘されようと、己の

中にいる『風の妖精シルフィード』を信じていた。



 瞳の色が白から青に戻ったリディーナが、屋敷の窓から手を上げるレイを見つける。


 「あら、もう済んだみたいよ? 行きましょ」


 「あ、ああ……」


 (これが「S等級」冒険者の力なのか? 国と同等という話は誇張されたモノでもなんでもないじゃないか……)


 …


 「ここにウォルトはいない」


 「え? じゃあ、どこ行っちゃったの?」


 レイと合流したリディーナとメサ。レイがいた部屋には使用人や警備の騎士などが何人も意識を失い、縛られて転がっていた。


 「どいつも侯爵はいない、二日前に自分の領地へ行ったきりと言っていた。王宮を騎士達で囲み、謀反中にも関わらず肝心の首謀者が王都を離れている。なんともおかしな話だ」


 「逃げた……のか?」


 メサが理解出来ないといった表情で呟いた。


 「さあな。ギルマスのクライドとやらもいない。何か企んでるのは間違いないだろうが、それが分かるような資料や情報は見つからなかった」


 「どうするの?」


 「一旦、倉庫に戻ろう。このままここにいても仕方ないし、かと言って、表の反乱騎士達とやり合うのは俺達の仕事じゃないしな」


 「了解」


 「……」


 ウォルトの屋敷の窓からレイ達が飛び出した瞬間、無数の光が街を照らした。光の発生源は、王都の遥か上空。地球のサーチライトのような線状の光が、夜空に浮かぶ物体から発せられていた。


 「なんだ、あれ? ……潜水艦?」



 レイの目に映ったのは、長細い楕円形の黒い物体。地球の潜水艦に似た形状のそれは、ライトで街を照らしながら、ゆっくりと高度を下げ、街に近づいてきた。

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